金正恩は、実はトランプの強硬姿勢を「歓迎」している!?(写真:AP/アフロ)

2017年は、北朝鮮でさまざまな動きがみられた1年だった。金正男の暗殺、高官の粛清、核実験・ミサイル発射、アメリカとの間での高まる緊張、銃撃を受けながらも国境を走り抜けた脱北兵士、そして相次ぐ漁船や遺体の日本海海岸への漂着。
韓国をはじめ、さまざまな国でベストセラーとなり、邦訳版も高く評価されている『粛清の王朝・北朝鮮』の著者・羅鍾一教授に、同書の翻訳もつとめたムーギー・キム氏がインタビューを行った。北朝鮮研究の第一人者は、いまの北朝鮮をどう捉えているのだろうか。

アメリカとの緊張関係は北朝鮮にとって恩恵

ムーギー・キム(以下、ムーギー):先日、銃撃を受けながらも国境を走り抜けて脱北した兵士がいましたが、彼は元気にされていますか? 「少女時代」のCDを聴いていると聞き、なんだか私といい友達になれるのでは、と親近感を抱いているのですが。今度インタビューをアレンジしていただけませんでしょうか。

羅鍾一教授(以下、羅教授):一命をとりとめ、回復している。ただ厳重な警護下に置かれていて、近づけるような状況ではない。

ムーギー:すみません、わかりました。さて、今年は北朝鮮とアメリカの間で緊張関係が高まった1年でした。でも、どうせアメリカも攻撃できないんですよね? 日本と韓国が人質だし、そもそも韓国の同意がなければ北朝鮮を攻撃できないことになっているんですよね?

羅教授:アメリカは攻撃できない。そもそもアメリカとの緊張関係は、北朝鮮にとって恩恵以外の何ものでもない。北朝鮮にとってアメリカは、戦略的資産になっている。アメリカの侵略の脅威から、核開発の成功のおかげで自衛に成功した、と国内的にアピールできるからだ。

羅教授:北朝鮮指導部にとっての脅威は国外ではなく、不満が高まる国内にある。指導部に対する不満が国民の間で高まるように、国際社会はもっていかなければならない。ワシントンは、できもしない攻撃を煽(あお)るのは自制しなければならない。国内向けに大義名分を与えることになる。トランプ大統領は、金正恩体制を利している。

日本に漂着する漁船の真相

ムーギー:最近、北朝鮮の漁船や遺体が漂着していますが、どうなっているのでしょうか? 食糧不足を穴埋めするために、農業のように時を待たなくてよく、すぐに食料を確保できる漁業が奨励されていると聞きますが。

羅教授:北朝鮮は資金に困って、近海の漁業権を中国に売ってしまった。だから危険を冒して遠方で漁をしている。北朝鮮の漁業は軍が管轄してはいるが、漂着している漁船は脱北者などではなく、単なる漁船だ。

あの遺体のことを思うと胸が痛む。朝鮮総連や民団はこういうとき、何かしないのだろうか。同じ民族の不遇な遺体が流れ着いているときに、引き取って供養しようという指導者でなければ、南北統一など成し遂げられない。

ムーギー:総連も、脱北者の身柄を引き取りに行ったりすると、当局に締め付けられそうで不安に思ってるんじゃないでしょうか。

羅教授:日本の一部のメディアで実は脱北者だなどという情報が流されているが、誤報も甚だしい。危険な漁で命を落とした不遇な漁民だ。遺体を引き取って供養する人がいないというのがあまりにも悲しい。

ムーギー:このように兵士の脱北や国内食糧事情の悪化が連日報道される中、北朝鮮指導部は結局のところ、何を企んでいるんでしょう。まさか本当に、大迷惑な“南朝鮮の解放”戦争とか本気で計画しているわけじゃないんですよね?

羅教授:北朝鮮は、本気で武力統一を狙っている。核開発の成功で、有事の際にアメリカが介入できないようにしている。そして韓国国内の新北勢力を使って、政権転覆、南北統一という戦略だ。北の指導部は、北が単独で生き残れないことをわかっている。南と一緒でなければ続かないと。

ムーギー:え、そうだったんですか。まさかそんな物騒なこと考えているとは、相当二流の闇にコロコロ転落した指導者ですね。

でも、アメリカの武力介入は本当にないのでしょうか。トランプは狂人を装っているのか、ガチで狂人なのか、ファジーな部分を創るのに成功しているからこそ、“マイクパフォーマンス”的な脅しもそれなりに効果があるのかな、とも思うのですが。

ムーギー:怖いのは彼がガチで狂人だったときです。たとえば、ロシアゲートで追い詰められて、国内不安を海外に向けるために北を攻撃、みたいなシナリオはありうるのでしょうか?

羅教授:ない。アメリカは軍の幹部がしっかりしている。

これはしっかりした大国はどこでもそうなのだが、仮に政治指導者が戦争を決意しても、軍の高官が実質的に止める機能が働いている。先日も、米軍高官がトランプの戦争指示が不適切なら従わないと公言した。

たとえば昔のキューバ危機も、まるでケネディ大統領がヒーローかのように伝えられているが、実際はそうでもない。実際はケネディ大統領が、危機を高めるようなことをやってしまった。

当時のソ連にしても、実は核攻撃の命令にまで及んだのだが、ソ連の軍幹部がその実行を食い止めた。軍人だからこそ、その戦争の危険をよくわかっており、大統領の一存でなんでもできる、という状態ではない。

北の指導部にとっての脅威は国内にある


ムーギー:そうだったんですか、私もてっきりケネディ大統領の手柄だと思っていました。

では、最後にうかがいます。アメリカが結局は北を攻撃することはなく、昨今の中国が加わって厳しくなった制裁が経済を圧迫する中、今後北朝鮮に対してはどのように臨むのがいいのでしょうか。

羅教授:北の指導部にとっての脅威は、国外ではなく国内にあることを忘れてはならない。

韓国側から風船を飛ばし、北と南の実態を知らせる情報と5ドル札を国内に送り届けるなどの民間団体の行動を、北の指導部は非常に嫌がる。韓国ドラマを見たら処刑されるほど、情報流入に敏感になっている。間違っても北の国民に、“外国は脅威で、将軍様が守ってくれている”と思わせてはならない。

むしろ、“海外での生活はこんなによくて、他の国の政府が我々をこれほど助けてくれているのに、自国の政府は何だ!”と国内からの蜂起を助けなければならない。