次期経団連会長最有力の日立の中西会長(写真:つのだよしお/アフロ)

日本経済団体連合会(経団連)の次期会長に中西宏明・日立製作所会長が就任するという新聞報道が相次いでいる。経団連は次期会長人事について沈黙を続けているが(12月27日時点)、年明けにも正式発表となる見込みだ。4年ぶりの新会長の誕生となるが、ここ10年ほど経団連の地位は低くなるばかり。本命・中西氏の会長就任で、地位挽回はできるのか。

11月中旬、「中西氏、次期経団連会長に内定」というニュースを聞きつけた人から、早くも日立製作所にはお祝いが送られたという。榊原定征・経団連現会長(74)からの打診はまだ受けていなかったため、中西氏は困惑した模様だ。その後は記者がいる公の場に一切姿を見せていない。ただ、中西氏は次期会長候補の大本命であることは衆目が一致するところと言ってよいだろう。

会長人事はどう決まる?

現在の榊原氏、その前の米倉弘昌・住友化学会長(当時)は審議員会議長から会長に就任するという異例の形だったが、通常は副会長から昇格する。現在の副会長は18人。会長が次期会長を指名する際、「メーカー出身者が望ましい」という不文律がある。戦後日本の経済成長を引っ張り、雇用を多く抱えているのは製造業という考え方が基本にあるからだ。

榊原氏もその不文律を踏襲する意向で、メーカー出身の中西氏、宮永俊一・三菱重工業社長、十倉雅和・住友化学社長、進藤孝生・新日鐵住金社長、山西健一郎・三菱電機会長、早川茂・トヨタ自動車副会長の6人から選ばれる公算が高い。

メーカー出身の6人をみると宮永氏は小型旅客機(MRJ)の開発が順調でないこと、十倉氏は米倉氏が住友化学出身だったこと、進藤氏、山西氏、早川氏は副会長1期目で時期尚早であるため候補から外れる。結局、中西氏しか候補者はいないというのが実態である。

経団連人事をめぐり、4年おきの年末年始に新聞紙面をにぎわすのはマスコミの恒例行事だが、毎回、その報道価値は下がり続けている。

かつて経団連会長が財界総理と呼ばれた頃は、名物会長がいた。第一生命、東芝社長を経て1950〜60年代に会長を務めた石坂泰三はその代表格だ。時の大蔵大臣(財務大臣)に「もう君には頼まない」と啖呵(たんか)を切ったという逸話もある。

ほかにも、石川島播磨重工業(現IHI)と東芝の社長を務めた後、1970年代に経団連会長となった土光敏夫も「メザシの土光さん」と愛されていた。彼らのように、与党、自民党に対しても「カネも出すが、口も出す」と丁々発止で物申す経団連会長はもう何代も出ていない。

そのためか自民党からも経団連批判が飛び出す始末である。将来の総理候補の1人、自民党の小泉進次郎・筆頭副幹事長は中西氏の次期経団連会長内定報道が流れた11月中旬、若手経営者らに向けた講演で手厳しく批判した。

「政界は『安倍一強』といわれるが一番モノを言えないのは経済界。『おカネが足りない』と言われたらおカネを出す。政治の顔色をうかがう現状に甘んじていてはイノベーションは生まれない」

安倍首相は秋の解散総選挙前、消費税率を8%から10%に引き上げる際にその使途を変更し、待機児童対策などに年2兆円を振り向けると表明した。消費税から振り向けるのは1兆7000億円で、安倍官邸は残り3000億円の負担を経済界に求めた。榊原会長はあっさり安倍首相の要望を受け入れた。これを小泉氏は批判したのだ。

ある経団連副会長はこう漏らす。「私たちにも明確な説明はなかった。どのように決まっていったのかわからない」。企業収益が回復している大企業が負担するのはいいとしても、中小企業までも負担するには丁寧な経済界内の調整が必要だった。

「経団連の意見が経済界のすべてではない」

そのため、加盟企業のほとんどが中小企業の日本商工会議所の三村明夫会頭は12月5日の記者会見で、「われわれはまだ意見を聞かれていない。経団連の意見が経済界のすべてではない」と言い放った。

政府が榊原氏に打診し、了承されれば「経済界も容認」と既成事実にしてしまうのも乱暴だが、榊原氏も経済界として受け入れるという際には経済界を納得させられるだけの理屈と手続きが必要なのに、安倍官邸に言われるがままである。これでは財界総理としての重みはなくなってしまう。

経団連会長が存在感を発揮したのは奥田碩・トヨタ自動車会長(当時)が最後といえる。首相は小泉純一郎氏で奥田氏とも相性が良かった。小泉氏の靖国参拝にも経済界として釘をさしたり、日中の関係修復に奥田氏が動いたりしたこともあった。

その後は第1次安倍政権以降、自民党が弱体化し、民主党政権となる。御手洗冨士夫・キヤノン会長が経団連会長時代には与党とがっちり手を結べなくなった。民主党政権ではなおさらだった。

2012年に返り咲いた安倍政権と対峙したのは米倉経団連。米倉氏は異次元の金融緩和を柱にしたアベノミクスを「無鉄砲」と批判したことで、安倍首相との関係は冷たくなった。

安倍官邸との関係修復を図るため、榊原氏が経団連会長になってからは安倍首相へのすり寄りが目立つようになった。政界と経済界との緊張関係はなくなり、財界の重みは軽くなるばかりだ。

さて中西氏が大方の予想どおり経団連会長に就任すれば、財界総理の地位は変化するだろうか。東レ相談役でもある榊原氏は東レ社内の求心力も低下しているが、中西氏は日立会長としてグループに影響力を持つ。また日立は鉄道事業や原発などのインフラ輸出に力を入れており、今後の日本経済の成長戦略を担う立場にもある。榊原経団連時代よりも政治や経済界への影響力は増すとみるのが順当であろう。

しかし、経団連の復権は容易ではない。そもそも経団連幹部の人材難が続いている。米倉氏、榊原氏が会長に就任したのは10数人もいた副会長の中から適任者がいなかったから。今回も中西氏以外に有力候補者は見当たらない。たとえばトヨタから社長の豊田章男氏が副会長に入っていたら事態は変わっただろうが、自動車業界は「100年に一度の大変革の時」(豊田氏)を迎え、財界活動どころではない。

今後の経団連の存在感

また、ネット企業などの台頭により、大企業が中心の経団連の存在感は今後ますます低下するだろう。奥田経団連時代、経団連に加入した楽天など新興勢力は旧態依然とした経団連の体質に嫌気がさし、新しい経済団体を作った。ソフトバンクの孫正義氏はいまだ加盟はしているが、原発を推進する経団連路線を批判し、ほとんど活動らしい活動はしていない。

日本経済にイノベーションを起こしそうな企業群は総じて経団連に冷ややかだ。かつての高度経済成長の頃のように経団連加盟企業が日本経済を下支えしていた時代にもはや後戻りはしないだろう。経済界代表として経団連が窓口となり、政府から「3000億円の経済界負担」を請け負うことなどの正当性は薄れていく。

もう1つ、中西氏が経団連会長になったときに厄介なのが安倍政権との間合いの取り方である。安倍首相とJR東海の葛西敬之名誉会長とのパイプは太い。葛西氏に連なる財界人脈は古森重隆・富士フイルムホールディングス会長ら経済界ではやや政治的に右派系の流れにある。中西氏もその流れの経済人と交流を持つ。経団連にとって日本の最大の貿易相手国である中国との関係改善は重要なテーマだ。にもかかわらず、中西氏が右派系人脈に軸足を置けば、経済界内部や対中関係に不協和音が起きかねない。

「私は首相にも言うべきことは言いますよ」。中西氏は財界幹部にこう話したという。だが経団連会長就任を機に葛西氏らのグループと一線を画せるのかどうか。そもそも安倍首相が3選を果たし、2021年まで首相を務めることになるのかどうか。政治は、一寸先は闇である。安倍政権の支持率低下が伝えられ始めた。安倍政権との蜜月を引き続き図ろうとする経団連の道行きは明るい、と言い切れまい。