キャリアも幸せな結婚も、そして美貌も。

女が望む全てのものを手にし、したたかに生きる女たちがいる。

それは、東京の恋愛市場においてトップクラスに君臨する女子アナたちだ。

清純という仮面をかぶりながら、密かに野心を燃やす彼女たち。それは計算なのか、天然なのか。

そして彼女たちはどうやって、全てのモノを手にしようとするのだろう…?

局の絶対的エース橘花凛と同期でありながら、地味枠採用の田口レミ。花凛の本性を目の当たりにし、花凛が狙う大物政治家の息子・幸一郎を奪おうとするが...




「レミ。今日のナレーション、ちょっと“さ”行が弱かった気がするんだけど。」

もうすぐ42歳になるアナウンス室のお局・恵子先輩から指摘され、私は肩をすくめた。

「すみません、気をつけます。」

謝りながらも、年齢と共に局内には居場所がなくなり、人の荒探しばかりするお局アナウンサーには絶対なるまいと心に誓う。

「女子アナって残酷な仕事だよねぇ。幸せを更新していくか、過去の栄光にすがって生きるかの2パターンにはっきりと分かれちゃうよね。」

隣で聞いていた花凛からの言葉に、私は激しく頷く。少なくとも今は、仕事があることに感謝しなくては…。そんな風に思っていると、一通のLINEが入った。

-レミちゃん、よければ今度お食事でも行きませんか?

幸一郎からの連絡だった。

そのLINEを、私は思わず“三度見”する。これは、二人きりということだろうか。それとも、またみんなで、ということ?

-もちろんです^_^ただ、花凛が来週はスケジュール的に厳しいみたいで...

花凛のスケジュールは知らないが、きっと忙しいに違いない。

-そっか。そしたら、二人でどうかな?

隣にいる花凛に悟られぬよう、小さくガッツポーズをした。まさかの幸一郎と、初デートだ。


女の敵はいつも女。初デートに忍び寄る黒い影


プレイボーイの甘い罠


「あれ?レミちゃん、どうしたの?携帯見ながらニヤニヤしちゃって。」

花凛の言葉に、慌てて真顔を作る。このデート、花凛にばれたら邪魔されるに違いない。

「何でもないよ、ちょっと面白い動画を見つけて。それより最近、幸一郎さんとどうなの?」

「幸一郎さん...?あれ?もしかして、レミちゃんも好きになっちゃった?安心して〜。私と幸一郎さん、何もないから♡あ...幸一郎さんって話を聞いてくれる静かな人が好きみたいだよ。」

花凛の言葉に、“そうなんだ”と極力冷静さを装う。

-話を聞いてくれる人が好き。

私はこのアドバイスを頭の中で反芻した。




幸一郎が予約してくれたのは、銀座のグランメゾン『エスキス』だった。

初回からこんな素敵なお店を予約してくれるとは...幸一郎も、気合いが入っているという解釈で良いのだろうか。

店の前で今一度自分の顔をチェックし、化粧崩れがないか確かめる。“大丈夫、今日は私が主役”。心の中でそう呟きながら。

「初めての二人での食事、緊張するね。」

照れ笑いをする幸一郎を見て、私はただ頷くことしかできない。

最初は花凛への当てつけだったが、こうして二人きりで会うと、幸一郎はとても魅力的な男性だった。

育ちよし、外見よし、性格良し。女性ならば一度は、その腕に抱かれても良いかと思ってしまうだろう。

「乾杯しようか。」

そう言って、私たちは静かにグラスを合わせる。

「幸一郎さんって、常に完璧ですね。」

「そんなことないよー。外では常に気を張っているけど、家ではだらっとしてるし...ここだけの話、実はゲームとかも未だに好きだしね。」

悪戯っ子のように笑う幸一郎に、心臓がトクン、と鳴る 。

育ちの良さが感じられる端正な表情を見せる一方で、まだ少年の心を忘れていないような幸一郎に、私はすっかりはまってしまったようだ。

「今夜は、飲みませんか?」

お酒が進むにつれ、幸一郎の無邪気さは増していき、気づけば彼の手は私の腰にあった。

「何でだろう?レミちゃんといると素の自分が出せるよ。ありがとう。」

そう言って恥ずかしそうに笑う幸一郎を見ながら、私は静かに微笑んだ。昔から、人の話を聞くのは得意だ。この性格が、役に立つ時がきたようだ。

「また今度、デートしてもらえますか?」

帰り際、恥を捨てて聞いてみると、幸一郎は眩しい笑顔で答えてくれた。

「もちろん!今日は最高に楽しかった。」

この時の私には、冬の木枯らしが、春のそよ風に感じられた。


幸一郎と一気に距離が縮まったレミ。しかしまさかの裏切りが・・


二番手女の大きな勘違い


幸一郎とのデートから一週間経っても、私は毎日幸せな気分に浸っていた。

うっかり鼻歌を奏でていると、隣に座るタレントMC・矢崎がニヤニヤしながら何か言いたげだ。

「どうした?レミちゃん、何かいいことあったでしょ?さっきから上機嫌じゃん。」

いつもなら彼の嫌味な口調が鼻につくところだが、今日の私は何を言われても構わない。

“生まれつきの美人は心も綺麗”と言うが、今ならその気持ちが分かる。周囲の愛情を存分に享受している人は、愛情に溢れており、人にも優しくなれるのだ。

「あ!さてはレミちゃん、男ができたな〜!」

矢崎の言葉に幸一郎とのことを思い出し、思わず頬を赤らめる。あぁ、何て私は今幸せなのだろうか。

これで、仕事も安泰だ。

例えフリーになっても、幸一郎のブランド力があれば主婦タレ枠で活躍できるし、何なら趣味程度の仕事でも生活には全く困らない。

可愛い子供が生まれたら、慶應幼稚舎に入れることになるだろう。

“お受験戦争”なんて言うが、幸一郎の実家の財力と知名度を考えれば、慶應だろうとどこだろうと余裕綽々だ。

彼との将来を考えただけで、浮足立った。

この日は、帰り道に『パティスリー SATSUKI』に立ち寄り、スポンジがふわふわで大粒のイチゴがふんだんに使用されている、大好きな「エクストラスーパーあまおうショートケーキ」を買った。




自分へのご褒美だ。

しかしルンルン気分で家路へ急ぐ途中、飲み物を買うために近くのコンビニエンスストアに立ち寄ったのが全ての間違いだった。

無調整豆乳を買おうとした時、とある週刊誌の見出しに目がいった。

慌ててその雑誌を引っ張り、立ち読みする。

記事を読んだ途端、持っていた雑誌が手からすり抜け、ザバっと大きな音を立てて地面に落ちた。

「そ、そんな・・・そんなはず、ないじゃない!」

隣にいた高校生くらいの男の子が、不思議そうな顔をして私のことを見ている。でも、そんなことはどうでもいい。

週刊誌には、大きなマスクで顔を隠しながらも全く変装できていない花凛が、幸一郎と仲睦まじそうに手を繋いでいるツーショット写真が載っていた。

「幸一郎さんとは何にもないって、言っていたのに...」

花凛から、カウンターパンチを喰らった気分だ。

幸一郎のタイプは花凛ではなく、私だったはずなのに・・・

どうしようもない切なさとやるせなさがこみ上げてきて、私はその週刊誌をぎゅっと握りつぶした。

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幸一郎の裏切り行為?どちらの女に勝利の女神は微笑むのか