ポンドはもう浮かばれないのか(写真:sborisov / PIXTA)

ドル円相場に関しては先般の東洋経済オンライン記事「2018年は1ドル=100〜105円まで警戒 高すぎるドルの調整役がユーロから円へ」で筆者の見通しを示した。2018年に注目度が高いクロス円通貨は、ユーロおよび英ポンドと思われるが、ユーロについては先に「ECBの金融緩和からの『出口』はかなり難しい」でECB(欧州中央銀行)の政策運営を中心に詳細な議論を展開している。そこで今回は、あまり語られる機会がないが、利上げに動いている主要通貨として興味深いポンドの見通しを示したい。3つのコラムで日米欧(ドル・円・ユーロ・ポンド)の通貨見通しをだいたい把握していただけると思う。

ユーロ快進撃の再現は難しそう

まず、前提として簡単にユーロの所感を述べておきたい。2017年の為替相場の主役はドルや円ではなくユーロだった。2017年6月にドラギECB総裁がポルトガルでの講演において「デフレ圧力はリフレ圧力に変わった」と言い放って以降、ユーロは対ドルで安値から最大でプラス17%も上昇した。そうしたユーロの急騰が2017年のドル全面安を駆動したのであった。

しかし、この快進撃を2018年に期待するのは難しそうである。ユーロ急騰後のECB高官によるなりふり構わない通貨高牽制を見ればわかるように、ECBは金融政策の正常化に伴う金利や通貨の上昇を受け入れる覚悟がない。

また、目標とするプラス2.0%に到達しない消費者物価指数(HICP)も踏み込んだ正常化を躊躇させるはずだ。最新の12月スタッフ見通しでは2020年のHICPはプラス1.7%にとどまる。そうした物価環境を前提とするかぎり、2018年中に拡大資産購入プログラム(いわゆるQE)を廃止に追い込んだうえで利上げを射程に収めるというのは無理な話である。

2018年の為替市場でもドル安が続くと考えられるため、ユーロドルが大崩れすることはないと思われるが、ユーロ側にも積極的な買い材料はない。おそらく上げたとしても1ユーロ=1.20ドル台前半が限界であり、この2大通貨のペアは方向感が出ないと思われる(実際、2015〜2016年の2年間はレンジ取引が続いた)。利上げやその先のプラス金利復帰は最短でも2020年まで待たねばならず、ユーロ続伸を可能にするほどの金利環境は2018年には期待できまい。

なお、2018年後半にはいよいよ2019年10月末で任期を終えるドラギ総裁の後任人事も動き始めるだろう。下馬評どおりバイトマン独連邦銀行総裁がその座を射止めるとしたら、その決定を受けてユーロは強含みとなるかもしれない。だが、多数決を基本とする政策理事会で総裁のキャラクターが政策を左右する部分は決して大きくないことには留意したい。

FRB(米国連邦準備制度理事会)やECBが耳目を集めやすい中、11月2日、イングランド銀行(BOE)の金融政策委員会(MPC)も政策金利を過去最低の0.25%から0.50%に引き上げることを決定した。利上げは2007年7月以来10年4カ月ぶり、つまり金融危機後では初めての引き締めだった。

決定直後のポンド相場は利上げ見通しが予想比弱め(2020年末までにわずか2回)であったことを受け下落したものの、その後はEU(欧州連合)との離脱交渉進展などを受けて堅調に推移している。過去3年間、主要通貨の中で最も不遇だったポンドが2019年3月末のEU離脱確定を前に息を吹き返すのかどうかは2018年の為替相場の1つの注目点である。


金利に敏感に反応しがちな為替市場では利上げの思惑をめぐってポンド相場の乱高下が見られるものの、実体経済の先行きをストレートに織り込む株式市場ではすでに「英国パッシング」が鮮明である。

上述したように、2018年も引き続きドル安の年になると筆者は見ているので、こうした株価が示すほど露骨なポンド安にはならないと考えるが、だからといって「利上げだからポンド買い」という安直な取引もお勧めはできない。

BOE利上げは本当に「買い」か?

2017年のポンド相場は堅調だった。これは曲がりなりにも利上げ通貨であることが評価された側面が小さくなさそうである。年初来の値動きを見ると、EU離脱通告を行った3月を底値としてジリ高となっていたポンドは9月に入りジャンプアップしている。これは9月のMPCにおいて早期利上げの方向で意見集約が進んでいることが判明したからだ。


しかし、ゴルディロックス状態といわれる楽観相場の中、市場はBOEが利上げに至ることになった背景までは精査していないように感じる。

ポンドは確かに利上げ通貨だが、その内実はまったく前向きなものではない。BOEの利上げは、あくまで「ブレグジット(EU離脱)をめぐる懸念→ポンド急落→輸入物価経由の一般物価上昇」という悪循環を遮断するための措置であり、要するにスタグフレーション防止策である。経済の好循環を理由に正常化を志向するFRBやECBとは動機が異なる。

英国の消費者物価指数(CPI)は9月に5年5カ月ぶりのプラス3%台に乗り、その後も政策目標を超えて高止まりしており、実体経済への悪影響が懸念される状況にある。BOEが「量」の緩和を据え置き、先んじて「金利」に手をつけているのは、そのほうが為替相場への直接的な訴求力が大きいと判断したからだろう。だが、地力にそぐわない通貨防衛のための利上げは得てして自傷行為に終わりやすいものだ。

ちなみに、利上げとともに公表された11月のインフレ報告では2017年10月をピークにCPIは減速するという見通しである。だが、10月はプラス3.0%、11月はプラス3.1%と伸び幅は加速している。インフレ報告の想定するとおり、本当にCPIが減速していくのかどうか、現時点では予断を許さない。12月のMPCでは、生産性の伸びが鈍く、ブレグジットに絡んで国内の労働供給も細ることが予想されることなどを理由として、物価の上昇圧力が残存するリスクに懸念が示されている。

足元のCPI上昇率を見ると、伸びの4割弱を「その他」が主導しており、すでに通貨安が一般物価全体を押し上げ始めている印象がある。仮に、年明け以降にCPIが加速し続けた場合、BOEは物価の騰勢を抑えるべく追加利上げの可能性を模索するだろう。しかし、それが英国経済ひいてはポンド相場にとってポジティブな結果をもたらすとは思えない。資本コストの上昇を通じて消費・投資行動が鈍る可能性は十分ある。

なお、日本国内の報道を見ていると、海外中央銀行の前向きな動きが出てくるたびに「また日本銀行が取り残された」と卑屈になる傾向がある。だが、ここまで見れば、BOEだけは事情が違うことはわかっていただけるだろう。むしろBOEのような状況に陥りたくないというのが多くの中銀の本音ではないか。約10年ぶりの利上げを決定した今もそうした認識は変わるものではなく、長期の投資家がポンドへ資金を寄せるのには勇気のいる情勢と思われる。先述のとおり、先進国の株式市場で英国が圧倒的に劣後しているのは、その証左である。

英国の政治はBOEの努力に報いることができるか

そもそもポンドが急落した理由が政治に根差しているのだから、政治の不安定が続くかぎり、いくら経済に無理を強いて利上げを重ねたところでポンドを買いにくい状況は変わらない。この点、メイ首相の降板をにおわせる報道が断続的に浮上しており、これがブレグジット交渉の先行きを不透明なものにしている現実がある。約10年ぶりの利上げ当日にポンドが売られた背景として、ファロン英国防相がセクハラ問題を理由に辞任したことを指摘する向きもあった。実際、同氏はメイ首相の後任候補としても名が挙がっていた重鎮である。

英国の国際収支は、比較的な大きな経常赤字を対内証券投資や対内直接投資(FDI)で穴埋めする構図が続いている。いうまでもなくFDIの多くはEU由来であるため、ブレグジットをめぐる不透明感が払拭されないかぎり、英国からの企業流出が加速し、基礎的需給面からもポンドを買えない状況が強まる可能性がある。いや、不透明感が払拭されたとしても、ブレグジット自体、FDIを減じるイベントなのだから、どうあれポンドは買えないという投資家がいてもおかしくないだろう。

むろん、実際には企業活動に配慮した現実的な対応が期待できるのだろう。しかし、相場は最も極端なシナリオを織り込むものである。現実的な対応を待たずして、ポンドドルが1.20ドル台前半、ポンド円が130円台前半までヒステリックに値を下げるような展開には、2018年中に十分警戒する価値があると考えたい。

※本記事は個人的見解であり、所属組織とは無関係です