クリスマス当日の全面運休を知らせるポスター。25日は「No service(運転なし)」と書かれている(ストラットフォード駅で、筆者撮影)

「クリスマスの日に日本に帰る航空券を持っているんです。ロンドンに来てから『イギリスの12月25日って、乗り物がまったく動かない日』だって初めて知りました。空港へどうやって行けばいいんでしょうか――」

12月も下旬に差し掛かったある日、日本からロンドンを訪れた1人旅の女性からこんな質問を受けた。大都市のあらゆる交通機関がまったく動かない日があることなど、普通の常識ではまず考えられない。現地に着いてからそんな状況を知る人がいるのは不思議ではない。

クリスマスに止まる交通機関


英国の駅は、クリスマス当日までに故郷に帰る人々で混雑する(ロンドン・ユーストン駅で、筆者撮影)

イギリスでは「日曜はお祈りに行くべき日」という考え方から、一定以上の規模を持つショップは業種を問わず、日曜日の営業時間は11時もしくは12時から6時間以内と定められている。教会にとって最も重要な日であるクリスマスも「とにかく全国民は休むべきだ」という考え方のもと、陸上を動くすべての公共交通機関は運休となる。

ロンドンの足も例外なく、ロンドン交通局(TfL)が運営する地下鉄をはじめ、市内を走り回る2階建てバスを含めた公共バス全線、トラム、水上バスなどあらゆる交通が全面的に運休する。


ロンドン交通局の駅員が扮するサンタさん。この格好で利用客の案内に立っていた(ロンドン・ビクトリア駅で、筆者撮影)

交通局は「市が運営するレンタル自転車はクリスマスでもご利用いただけます」とPRするが、街めぐりには使えてもさすがに空港への足には使えない。「じゃあ、タクシーに乗ればいいじゃないか?」と思う向きもあろうが、そもそもクリスマス当日は正当に割増運賃を取っていいことになっている。

相場感も土地勘もない外国人観光客は、交渉いかんでどんな金額を取られるのか非常に気になるところだが、幸いにもロンドンの場合、事前予約が条件で定額制のハイヤーサービスがあり(いわゆる配車アプリを使ったウーバーとは異なる)、これを使えば、ふだんより割高とはいえ空港への足として安心して利用できる。

首都の主要路線が9日も止まる

イギリスの鉄道は、ビジネスや社会活動が下火となるクリスマスから新年にかけての時期に、一気に信号や線路などのインフラ改良工事を行う。今年2017年は、最も長いところで12月23日から元日までの9日間、連続で全面運休という区間さえある。

今回の「クリスマス休暇の鉄道改良工事」は、英国全体で1億6000万ポンド(約242億円)を投じ、3万2000人ものスタッフが3400カ所で工事を行うという大規模なもの。英国の著名交通アナリストのサイモン・カルダー氏によると「クリスマスの改修では過去最大級のプロジェクト」だという。

ロンドンでは、街を縦断する鉄道「テムズリンク」を軸に郊外へ接続する各線への直通運転が活発に行われていることもあり、今回の長期運休では「テムズリンク」を取り巻く改良がメインで行われることとなっている。9日間運休の対象となっている路線もあり、主な運休区間がロンドン中心部にあるターミナル駅、チャリングクロス駅、キャノンストリート駅およびロンドンブリッジ発着のルートだというのだから驚きだ。

たまたま長期運休が始まる前日の夜にチャリングクロス駅を訪れた筆者は「駅内コンビニでの生鮮品投げ売りセール」に遭遇した。運休中は駅舎そのものを閉めるため、コンビニも強制休業となる。数日間の賞味期限しかない食品を中心に普段ではありえない見切り価格で徹底的に売り尽くさなくてはならない。コンビニ店員は「値引きシールを貼る手間がまったく追いつかない」と嘆きながら作業に追われていた。


クリスマスの長期運休を告知する案内看板。すぐ横のコンビニでは投げ売りセールが行われていた(ロンドン・チャリングクロス駅で、筆者撮影)

これほどの長期運休までして、鉄道インフラに手を入れなければならないのにはワケがある。

英国の鉄道需要は、環境対策によるモータリゼーション脱皮の政策が奏功したこともあり、英鉄道・道路規制庁(ORR)によると「第2次世界大戦中の軍需輸送を除いて過去最高の水準」に達している。そのため19世紀後半から150年以上もだましだまし使ってきた線路にはかなりの「ガタ」が来ており、線路改良や信号システムの更新を積極的に行わねばならない状況となっている。

英鉄道、長期運休で生まれ変わる?

ロンドンの空の玄関・ヒースロー空港と市内のパディントン駅を結ぶ空港特急「ヒースローエクスプレス」も、改良工事のあおりで24日から27日までの長期運休の対象となった。

ヒースローエクスプレスは所要時間わずか15分ながら、正規運賃では片道22ポンドと、日本円にして3000円を超える負担を強いられる乗り物だ。とはいえ、初めてロンドンに来た個人観光客が「とりあえずこれで市内へ」と利用するケースが多い。鉄道なら大丈夫と考えていた人には、今回のような長期運休は手痛いものとなるはずだ。

長期運休となったのは、新線との接続に関連した信号システム更新のためだ。ヒースロー空港への線路は、現在建設が進められているクロスレール(エリザベス線)と2018年末までに接続される見込みで、そうなればロンドン中心部と空港との往復が格段に便利になる。長く休むにはそれなりの事情がある、というワケだ。

英国の鉄道は久しく車両更新が進まず、40年以上前に製造された特急車両など、運が悪いとひどく古い列車で旅をしなくてはならない状況が続いてきた。だが最近は、線路の近代化によって電化された区間に時速160km超で走る最新の通勤電車が投入されるなど、改良が進みつつある。

来年の英国の鉄道は、今回の1週間を超える大規模なクリスマス休暇のインフラ改良で「遅れが常態化した鉄道」から脱皮できるだろうか。投入が進む新車とともに、より快適な旅が楽しめるようになることを期待したい。