是正しようとしても、いつの間にか高年収サラリーマンの増税にすり替わっている(写真:Rawpixel / PIXTA)

2018年度の与党税制改正大綱によると、法人税関係の改正では、賃上げや設備投資、教育訓練費などに積極的な企業への法人税減税が目玉になっている。

2018〜2020年度の3年間にかけての措置として、

・大企業は3%以上の賃上げと減価償却費総額の90%以上の設備投資を行うと賃金増加分の15%が法人税額から差し引かれる

・中小企業は1.5%以上の賃上げを行うと同様に賃金増加分の15%が法人税額から差し引かれる

などを柱とする内容だ。実質賃金の減少が続き、それゆえ消費が低迷している折に歓迎される減税措置である。

法人税を逃れる中小企業が多い

しかし、これらは法人税を納めている黒字企業を対象とするものだ。問題は黒字企業の比率が約36%(2015年度)にとどまっている点。法人減税効果の広がりは限定されている。

本来、法人税についての税制改正では、長年にわたって「中小企業を中心に6〜7割の企業が法人税を納めていない」という状況についての打開策が講じられるのが望ましいが、そうした動きはまったくない。

アベノミクスにより、ここ数年は企業収益が上向いてきたものの、華々しく報道される「景気拡大」の割には法人税収の伸びは鈍い。拙著『税金格差』でも詳しく解説しているが、2013〜2016年度にかけての法人税収は11兆円前後で推移している。ピークである1989年の19兆円の6割弱の水準だ。何しろ毎年6〜7割の企業が赤字法人(欠損法人)として法人税を納めていないから、「企業収益が向上」しても、法人税の伸びには限界がある。

なぜ赤字法人が多いのか。その理由について、埼玉県で開業している税理士はこう語る。

「稼いだ利益に最高税率45%の所得税が課せられるのを嫌う個人事業主が、節税を目的として設立した法人が多いからです。いわゆる『法人成り』です。法人化すれば所得税を逃れられるし、利益をそっくり社長の給与(役員報酬)として支払って、会社の利益をゼロにすれば法人税を納めなくてよい。

社長の給与に所得税はかかるものの、給与所得控除が適用されるから、その分、個人事業主より節税メリットが大きくなります。利益が増えてきたら、奥さんや子どもを役員にして給与を支払うようにすれば各々に給与所得控除が適用され、節税メリットが膨らむ。だから赤字法人が多いのです」

法人税は、その期の所得(益金-損金)に法人税率を掛けて算出する。損金とは、法人税を算出するベースとなる所得を減らせる「費用」のことである。現在、法人税の基本税率は23.4%だが、資本金1億円以下の中小企業は「中小法人の軽減税率の特例」として所得800万円以下の部分に15%の税率が適用される。一方、所得がない赤字(欠損)だと法人税はゼロになるため、役員報酬を増やすなどして赤字化し、法人税を逃れる中小企業が昔から多い。

「所得1億円超の金持ちほど税優遇される現実」(2017年12月20日配信)でも触れたが、サラリーマンなど給与所得者の所得税は、給与収入から給与所得控除や基礎控除、配偶者控除、扶養控除などを控除して(差し引いて)算出される課税所得に所得税率を掛けて算出される。給与所得控除は、これら控除項目(差し引き項目)の中で額が最も大きく、収入が少ない人でも最低額65万円が保証されている。給与収入が500万円の人だと給与所得控除は154万円で、収入の30.8%になる。

赤字法人比率は23%から73%に

このように本来、サラリーマンなどの所得税負担軽減のための控除項目である給与所得控除を、法人税逃れや所得税軽減のために活用する中小企業経営者一族が増えてきた。だから赤字法人比率が高まってきたのである。グラフに見るように、1952(昭和27)年に22.5%だったのが2009年に72.8%と、約60年間で50.3ポイントも高くなっている。13年からアベノミクスが始まったが、それでも赤字法人比率は14年66.4%、15年64.3%と高水準である。


特に注目されるのは、田中角栄元首相による「給与所得控除」の大幅引き上げのインパクトだ。サラリーマンの自民党支持を強めるために、1974年度税制改正で給与所得控除をそれまでの倍以上の水準に引き上げたのを機に「法人成り」がさらに増え、赤字法人比率は約10%高まった。給与所得控除は本来、給与所得者の「勤務費用の概算控除」「法人と比べて非力な担税力の負担調整」とされているが、それを中小・零細企業経営者たちが節税に活用しているともいえる。

データが裏付ける巧妙な決算操作

赤字法人比率が高いもう1つの理由は、「欠損金の繰越控除制度」である。これは、ある期に欠損金(赤字)が出た場合、その欠損額を一定期間繰り越して損金算入でき、法人税負担を軽減できる仕組みだ。繰り越せる期間は現在9年だが、2018年4月以後の事業年度は10年に延長される。財務省によると、赤字法人の約4割は各期に所得(利益)が出ているが、欠損金の繰越控除で赤字になっている。

節税を目的とする中小企業の巧妙な決算操作を裏付けるデータもある。財務省資料によると、2012年度に7期連続して欠損となり、うち3期で繰越控除を適用している資本金1000万円以下の法人では、1期当たりの欠損金額の計上額が300万円以下のところが約5割を占めていた。「黒字にならないギリギリの額」を毎期調整して法人税を逃れているところが多いということだろう。

財務省の「租税特別措置の適用実態調査(2012年度)」によると、所得があった中小企業66万2012社のうち、実に72.9%(48万2443社)の所得は、前述の軽減税率特例(15%)が丸々適用される800万円以下であった。

つまり、赤字化する場合は役員報酬1人分程度の赤字額で調整し、黒字にする場合は軽減税率特例が適用される範囲内に留めるところに、中小企業の「工夫」が透けて見える。

多くの中小企業がこのように熱心に節税しているため、法人税の納税状況はいびつな姿になっている。国税庁の会社標本調査(2012年度分)によると、資本金1億円超の法人(大企業)2万3000社は全法人数252万6000社の0.9%でしかないが、全法人税収8.9兆円の65%(5.8兆円)を納めている。逆に言うと、資本金1億円以下の法人(中小企業)は全法人数の99.1%を占めているが、彼ら全社で法人税収の35%しか納めていないということだ。

これは法人税を納める中小企業が極端に少ないという異常な状況であり、法人税の空洞化を裏付けている。

解決されぬままの「二重控除」

しかし、法人としての利益をそっくり社長や役員の給与にして決算を赤字化するなどの中小企業の法人税逃れには、税制上の不備が多いのも事実である。古くから指摘されているのが「給与所得控除の二重控除」の問題だ。これは、給与所得控除分を含む社長(役員)の給与は法人税の段階で経費として控除されるのに、さらに社長(役員)の給与にかかる所得税の段階で再び給与所得控除が適用され、「二重に控除がなされている」ということだ。

この問題については、2006年度に新会社法が施行され、資本金1円および取締役1人でも会社設立ができるようになったとき、1人オーナー会社課税制度(特殊支配同族会社の役員給与の損金不算入制度)が創設されたことが思い起こされる。この制度は、「資本金1円で社長1人の会社を設立し、利益をそっくり社長の給与にする節税が横行するのではないか」という懸念に対応して、給与所得控除の二重控除を禁ずる趣旨のものだった。


しかし、この制度は、「二重控除を是正する手法として適正か」という議論の高まりにより、2010年度税制改正で廃止された。

このとき、「二重控除問題を解消するための抜本的措置を2011年度改正で講じる」とされ、2013年度以降、給与所得控除に上限額が設けられ、その額は245万円、230万円、220万円と段階的に引き下げられてきた。2018年度税制改正では、一律に10万円減らされ、上限は「年収850万円超で年195万円」とされた。

このように、給与所得控除の相次ぐ引き下げで、収入が多い給与所得者の増税が続いているが、肝心の中小企業経営者たちの二重控除の問題については、ほとんど議論がなされてこなかった。

2018年度税制改正における法人税の分野では、こうした根本的な問題についての突っ込んだ議論が期待されていた。しかし、中小企業が自民党の最大の支持基盤であるためか、経営者たちの増税につながりかねないこの問題についての議論がなされることはなく、内容の乏しいもので終わった。