今夏、ナイキ(Nike)がついにAmazonに屈し、正式にファーストパーティとして販売を開始した。それはまさに小売業界の将来を暗示しているかのようだった。世界最大のスポーツ用品企業で、2017年の売り上げが340億ドル(約3.8兆円)にも達するナイキですら耐えられないのに、耐えられる企業などあるだろうか、と。

フォシナ・マーケティンググループ(Fosina Marketing Group)のCEO、ジム・フォシナ氏は次のように語った。「Amazonが世界最強の流通システムを持っていることは疑いようのない事実だ。ナイキほどのブランドですら、それを無視できなかったということだ。流通業界全体を駆け抜けるほど強烈なメッセージだったと言っても過言ではない」。

だが、ナイキがファーストパーティの販売者となって6カ月で、同社のAmazonにおける売り上げは急落した。これはAmazonとパートナーになるとどうなるかを示す重要なケーススタディになる。ファッションブランド各社にとって、Amazonとパートナーになるかどうかは一層重要な決断となるからだ。

米デジタル調査会社L2で調査ディレクターとAmazonアナリストを務めるクーパー・スミス氏は、「今年、Amazonがファッション分野で躍進を遂げたなかで、コンテンポラリーな高級ファッションブランドはサードパーティ販売とファーストパーティ販売のどちらが良いか検討している」と指摘し、「ブランド各社はAmazonが自分たちに適したプラットフォームなのか、そして適正なサードパーティとファーストパーティの流通割合はどれくらいかを見極めようとしている」と分析する。

このように決断を迫られているファッション業界だが、ナイキの経験からどのような教訓が得られるかを見ていこう。

ファーストパーティの販売者だからといって、マーケットプレイスでの支配権は得られない



ナイキがAmazonでの直販を決めたのは、Amazonプラットフォーム上での自社製品の表示と売り方をナイキ自身で決定したかったからだ。Amazonで直販する場合、ブランドはより高度なブランド登録が可能となる。メッセージを自社で決め、カスタマーへのフィードバックやほかのカスタマーデータにアクセスできる。

ファッションブランド、特に高級ブランドにとってこれは重要だ。こうしたブランドの目からすると、Amazonはeコマースのなかでも特に移り気な存在として映っている。アルゴリズムに沿って急に安売りしたかと思えば、トイレットペーパーの横でハンドバッグを販売したりするのだから。サードパーティの販売者はブランドの位置づけについて基本的に無頓着なのだ。

L2によると、ナイキがファーストパーティーの販売者になる前月の7月にAmazonでもっとも売れたナイキの商品は、すべてサードパーティの販売者によるものだった。Amazonでのサードパーティによる販売ではナイキが得られる利益はほんの一部で、カスタマーの情報も分からない。だが、サードパーティ販売の根絶はきりがないことをナイキは思い知らされた。たとえばAmazon上で人気の女性向けのランニングパンツはナイキの販売に置き換えられたが、すると新しい商品IDでまったく同じ商品が売られるようになった。

これをスミス氏は「まるでナイキとサードパーティ販売者の『もぐらたたき』だ」と表現している。

サードパーティの売り上げが減っても、ファーストパーティの売り上げが伸びるわけではない



Amazonは、直接パートナー関係にあるブランドを優遇する傾向がある。ナイキはサードパーティの販売を根絶し、それを自社チャネルの販売に置き換えることを目指している。それにより多くのカスタマーデータを収集して、Amazonの巨大な流通ネットワークを利用し、より多くの収益をあげるのが狙いだ。

だが、実際はそうはならなかった。L2社の調査によると、ナイキがサードパーティ販売をAmazon上から消し、自社の販売を載せるようになると、マーケットプレイスでのサードパーティの売り上げは減少したものの、ファーストパーティの売り上げはその分だけ増えることはなかった。全体として、8月以降ナイキのAmazonでの売り上げは15%減少した。

「サードパーティの製品販売を根絶するのは簡単ではなく、ナイキは厳しい戦いを強いられている。いわば自分自身と戦っている状態だ」とスミス氏。

それだけでなく、そもそも戦いの土俵自体が公平ではない。Amazon上でのナイキによる販売は日が浅いため、レビューが少ない。さらにAmazonと交わした約束とは異なり、検索順位でも下位に表示されてしまっている。

公式パートナーだからといって、Amazonは手心を加えてくれない



Amazonは自社プラットフォームで直接製品を販売してくれるブランドを優遇することで知られている。だが実際は、販売歴が長く、レビューが多いサードパーティの販売者とのあいだに、非常に強い絆があることが分かった。

ナイキがAmazon上で販売を開始したあとも、「特集・おすすめ」で表示される製品はサードパーティの販売者のもので埋め尽くされている。

「多くのブランドのあいだで、Amazonはパートナーとして非協力的なことで悪名高い。そのなかでも一番マシな対応をしてもらえそうなのがナイキだろう」と語るフォシナ氏は、次のように指摘した。「だが実際は、Amazonはサードパーティの販売者を『特集・おすすめ』に取り上げたりして、ナイキのファーストパーティ販売を減少させている。このようにナイキ相手ですらAmazonが良いパートナーとして振る舞っていない現状を見れば、高級ブランドがおそらくAmazonは適切なプラットフォームではないと考えるのも無理はないのではないか」。

だが、まだすべての希望が失われたわけではない。カルバン・クライン(Calvin Klein)も恐れを克服してAmazonとパートナー関係を結んだブランドのひとつだ。

「カルバン・クラインはいまのところAmazonで非常に大きな成功を収めている」とスミス氏。「この休暇シーズンでどうなるかが分かるだろう。だが、全体的に見て同社はあらゆる面でうまくやっている」。

HILARY MILNES(原文 / 訳:SI Japan)