石破 茂 (いしば・しげる)1957(昭和32)年、鳥取県出身。慶應義塾大学法学部卒業後、三井銀行入行。1986年衆議院議員に全国最年少で初当選。防衛庁長官、防衛大臣、農林水産大臣、国務大臣地方創生・国家戦略特別区域担当などを歴任。著書に『国防』『国難 政治に幻想はいらない』(以上、新潮社)、『日本人のための「集団的自衛権」入門』『日本列島創生論 地方は国家の希望なり』(以上、新潮新書)など多数。(撮影:疋田千里)

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潜水艦に日本の近海では核を降ろせなんて非現実的か?2017年上半期の米アマゾンのベストセラー歴史書『米中戦争前夜 新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ』の刊行を記念し、世界のパワーバランスの変化を踏まえ、日本は政治経済両面でどのような戦略を練るべきか、本テーマに造詣の深い実務家・識者に伺っていきます。お1人目である、元防衛相の石破茂議員には、前編の集団的自衛権の行使につづき、米軍保有の核の日本国内配備を主張される背景を伺っていきます。

――グレアム・アリソン教授著『米中戦争前夜』では、新旧大国の対決においてはときに同盟関係も命とりになり、アメリカもたとえば日米安全保障条約の第5条に定めた対日防衛義務をどこまで果たすべきか再考するべきではないかと指摘されています。

 仏大統領だったドゴールが言ったとおり、「同盟とは共に戦うことはあっても、決して運命は共にしないもの」だと思います。どの国も常に自国の利益優先であり、アメリカだって日米同盟を結んでいるのは自国にとって得だからです。日本が大好きだから、なんてありえなくて、日本に自由に使える基地を維持するには、現在の(アメリカが日本を防衛する一方、日本は基地を提供するという異なる方法で相互支援の義務をもつ)非対称的双務関係が大事だと思っているだけ。

 「極東の平和と安定のために」という名目で、北海道から沖縄まで、領空、領海、領土に至るまで、アメリカの世界戦略のために日本を使わせてもらうね、ということでしょう。アメリカ本土では絶対に行われないような低空飛行が日本で平然と行われているのも、その証左の一例と言えると思います。

――1960年に同条約を締結したときとは、アメリカも日本も状況は変わっています。

 その通りです。だから日本も対米に限らず、現在の日本の防衛・安全保障政策で本当にいいのか、今のような集団的自衛権の超限定的行使でいいのか、という議論をすべきです。
 我が国はNPT(核拡散防止)条約批准国ですから、核の「持たず、つくらず」つまり保有や製造を言い出すと違反行為とみなされて、たちどころにエネルギー輸入で制約を受けて困ってしまうでしょう。でも、「持ち込ませず」には再考の余地があるのではないか。

 冷戦期の西ドイツは、パーシング兇箸いΕ▲瓮螢製の地上発射型中距離核ミサイルを配備して生き延びました。NATO(北大西洋条約機構。集団防衛、危機管理、協調的安全保障の3つを中核任務とする。現在、全29ヵ国加盟)の非核保有国であるベルギーやオランダ、スペイン、イタリアは(アメリカの監督下で核の運用が認められる)ニュークリア・シェアリング(核の共有)政策を採って抑止力を高めています。フランスは独自に核を保有しているし、イギリスはアメリカの核兵器を使わせてもらえる。じゃあ日本は?と思いませんか。

――そのうちの、どれにも当てはまりません。

 じゃあ、どうやって生きていくの、という議論になると「非核三原則は国是である」といきなり話が飛んでしまいます。しかし、NATOの非核保有国は常にアメリカとの間で事務レベルでも政治レベルでも、どんなときに核を使うのか、どんな権利を本当に有するのか、と常に検証しているわけです。日本ではそれが限定的にしか行われていない。

 私が防衛庁長官や防衛大臣だった時、その議論を持ち出したことがあります。当時のコンドリーザ・ライス米国務長官にも提案したら、「日本の政治家からそんなことを言われたのは初めてだ」と驚かれました。それを契機に事務レベルの対話は続いていると聞いていますが、政治レベルの対話には至っていません。

潜水艦に日本の近海では核を降ろせなんて非現実的

――石破議員は最近特に、米軍が保有する核の日本国内配備について議論を促されています。

 いまどき、爆撃機で核爆弾を落とすなどというのは考えにくい。でも日本が核ミサイルを配備するのも難しい。だったら、核を積んだ米軍の原子力潜水艦が日本に寄港し、日本の領海を航行するのは許容すべきではないか。だって、日本に行くときだけは核を降ろさなきゃならないなんて非現実的だと思いませんか。(同盟国や第三国への核攻撃を抑止する)拡大抑止を実行するには、この点をきちんと整理する必要があります。「敵を知り己を知れば百戦危うからず」と言いますが、敵も知らず己も知らなければ百戦百敗になりかねません。

――北朝鮮問題のカギも米中関係にある、と仰っていますが、どのような解決の糸口がありえますか。

 中国と韓国は、北朝鮮が崩壊すると面倒なので、決定的に追い込むことはしないでしょう。北朝鮮を攻撃すると自分たち目がけて攻撃してきますから、軍事攻撃を仕掛けるということも考えにくいでしょう。

 アメリカにしてみれば、北朝鮮が核を持つことは容認できないけど、北朝鮮の約束も当てにならないし、交渉もできないまま、現状は捨て置けないから困ったなあと思っているでしょう。陸軍が出ていくような戦争は絶対にアメリカの世論が許さないでしょうし、中間選挙を来年に控えていることを鑑みても無理でしょう。北朝鮮問題に限ると、オバマ時代の消極的な外交スタンスとあまり変わっていないようにも見えます。

――地理的に北朝鮮に近い日本近海にはミサイル実験をされ放題です。でも日本は結局、「関係はあるけど出番はない」のでしょうか。

 そんなことはありません。安倍首相にはトランプ大統領との良好な関係に則って、拡大抑止の実効性についてきちんと議論していただけるのではないか。ミサイルディフェンス(防衛)一つとっても様々な手法・技術がありますから、互いの技術力を開示し合い、必要に応じて共同研究・開発も考えられます。Jアラートも、国民を守るためには精度を上げる必要があるでしょう。シェルターの整備も日本は世界最低レベルだし、朝鮮半島有事において海外から国民が避難する方策もマニュアル化が必要です。検討すべき課題は山積みです。

 日本の陸海空防衛力は、外国が侵略してきたときに排除する能力に特化しているので、外国に攻めていく能力は一切持っていません。戦闘機もF-15にせよ、F-2にせよ、ステルス性能は非常に低いので、ミサイルや敵の戦闘機を避けながら飛行することになり、燃料消費量が一気に跳ね上がりますから、もし敵基地を反撃しようと思えば空中給油機の数は倍以上必要になるでしょう。

 敵地反撃能力を備えるなら、ミサイルを持つのが有効ですが、日本が(ロケットエンジンで高く上昇させ自然落下で長距離に飛ばす)弾道ミサイルを持つと言うと国内外で反対の声が上がりそうです。それでは(有翼でジェットエンジンを搭載し、射程範囲が広い)巡航ミサイルを保有してはどうかという話ですが、これは無人飛行機みたいなものですから、スピードが出ないので撃ち落とされやすいという欠点もあります。(様々な誘導システムのバージョンがあり命中率の高い高性能な巡航ミサイルである)トマホークはアメリカとイギリスしか持っていませんが、ヨーロッパにも様々な巡航ミサイルはありますから、導入するなら幅広い検討が必要だと思います。

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