スズキが12月25日に発表・発売した新型「クロスビー」。軽自動車の「ハスラー」と外観は似ているが、新型エンジンを採用するなど中身はまったく違う(撮影:尾形文繁)

「軽自動車『ハスラー』の小型車版を出してほしい」。消費者のそんな声から誕生したのが小型クロスオーバーワゴン「クロスビー(XBEE)」だ。


スズキが2014年に発売した軽自動車「ハスラー」。クロスオーバーSUVの潜在需要を掘り起こし、大ヒットになった。2014年の軽自動車の国内販売で8年ぶりにダイハツ工業から首位を奪還する原動力になった。(撮影:大塚一仁)

スズキは12月25日に新型「クロスビー」を発表・発売した。見た目は、スズキが2014年に発売し数々の賞に輝いた人気車種のハスラーとそっくり。特にフロントマスクはハスラー似の丸いデザインのヘッドランプを採用し、シルバー塗装のバンパーガーニッシュ(バンパーの装飾パーツ)なども備え、まさに兄貴分ともいえる顔つきだ。クロスビーは今年秋の東京モーターショーに参考出品されており、そのときは“デカハスラー”として話題になった。

ワゴンの広さとSUVの走破性を両立した新ジャンル

だが、ハスラーを大きくしただけの小型車とは違う。鈴木俊宏社長は「大人5人が乗れるワゴンの広さとSUVらしい走破性を両立した新ジャンルだ。クロスビーはクロスビーで名前がある」と違いをアピールする。


スズキの新型「クロスビー」の後部座席。後ろにスライドすれば、ヒザの前には十分な空間が広がる。ワゴンの広さを生かした設計だ(撮影:尾形文繁)

高橋正志チーフエンジニアも「ハスラーは軽規格の枠いっぱいで作るため、デザインが四角に見える。だが、クロスビーは丸くして小型車らしいデザインにした。ボディの立体感がハスラーとは違う」と指摘する。ハスラーとは似ているが、単純に軽自動車を拡幅した車種ではなく、すべてを一から開発した新ジャンルの小型車であることを強調した。


新型「クロスビー」に搭載された新型エンジン。1リットル直噴ターボエンジンとマイルドハイブリッド機構を初めて組み合わせた(撮影:尾形文繁)

実際、クロスビーは新型プラットフォームを採用し、ボディ剛性と軽量化を両立。パワートレインも新規開発だ。1リットル直噴ターボエンジンとマイルドハイブリッド(HV)機構を初めて組み合わせて標準搭載。1.5リットルの自然吸気エンジン並みの馬力が出る。

駆動方式は2WDと4WDから選べ、4WDには力強い走りの「スポーツモード」、雪道やアイスバーンなどの発進・加速時にタイヤの空転を抑える「スノーモード」の2つのモードを新たに採用。ぬかるみや急な坂を下る際のサポート機能も標準装備した。


スズキの小型車「イグニス」。コンパクトクロスオーバーSUVのジャンルに属する。新型のクロスビーは、イグニスと同じAプラットフォームを採用しているが、サイズが一回り大きい(撮影:今井康一)

月間販売目標は2000台。価格は税込み176万5800円から。シャシーには小型車「イグニス」と「ソリオ」と同じAプラットフォームを採用。同じプラットフォームながら広い室内空間を目指し、クロスビーの3サイズはすべてビッグだ。自社競合する可能性もあるイグニスと比べると、全長はイグニスよりも60ミリメートル長い3760ミリ、全幅は10ミリ広い1670ミリ、全高は110ミリも高い1705ミリに達する。

一方、他社の小型SUVを見ると、トヨタ「C-HR」やホンダ「ヴェゼル」など人気が高い車種はいずれも全長は4000ミリを超えてさらにビッグだ。ただ、高橋チーフエンジニアは「4000ミリ未満サイズへの支持が高い。クロスビーは3700ミリの全長で運転しやすくて取り回しがいい。乗ってもらうとわかるが、広さは数値以上に感じるはずだ」とアピールする。このサイズのクロスオーバー車は現在のところ、国内では競合がないという。軽SUVのハスラーを発売したときも話題となったが、今回もスズキが得意とするニッチ市場を狙う手法で、小型SUVの潜在需要を取り込む構えだ。

クロスビーで小型車のラインナップが出そろう


スズキの新型「クロスビー」の荷室。助手席と後部座席を畳むと、サーフボードも積むことができる。スズキはアウトドアやスポーツなど幅広いシーンでの活用を想定する(撮影:尾形文繁)

スズキは特にここ最近はAセグメントと呼ばれ、軽自動車よりも大きい小型車に力を入れてきており、イグニス、ソリオに続き、クロスビーで主力3車種が出そろった。ソリオは日常使いでファミリー・多人数、イグニスはパーソナルで趣味・オフロードから日常にも使える。さらに今回のクロスビーで最後の空白地だったファミリー・多人数で趣味・オフロードも楽しめる市場に投入できたことで、すべてのピースがそろった。

2016年度にスズキは国内で約64万台を販売。そのうち、軽自動車は53万台余りで全体の8割超を占める。依然として軽自動車販売が屋台骨であることは変わらないが、足元では伸びしろのある小型車の強化を進める。年間目標だった10万台は今年11月に突破し、2年連続で大台を達成。さらに今回新たな目標として、年間12万台を目指す方針をブチ上げた。もっとも12万台も「まだ通過点」(鈴木社長)としており、小型車の拡大意欲は強い。

かつてのスズキは小型車といえば、軽自動車「ワゴンR」を大きくした「ワゴンRワイド」や「ワゴンRプラス」などがあったが、今回はクロスビーという名前に賭けて一から作り上げ、デカハスラーとは違うという強い信念がある。軽自動車から登録車へ本格的にラインナップを広げ始めたスズキ。クロスビーは新たな挑戦への試金石となりそうだ。