小野島大が選ぶ、エレクトロニックミュージック年間ベスト10 “荒々しい初期衝動”を取り戻す動きも

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・Sampha『Process』(Young Turks / Hostess)・Syd『Fin』(Columbia Records)・Klein『Only』 (Howling Owl Records / P-VINE)・Ben Frost『The Centre Cannot Hold』(Mute / Traffic)・Eccy『Narrative Sound Approach』(KiliKiliVilla)・Baltra『No Regrets』(96 And Forever Records)・Lee Gamble『Mnestic Pressure』(Hyperdub)・VISIONIST『Value』(Big Dada)・石野卓球『ACID TEKNO DISKO BEATz』(Ki/oon Music)・Lil Uzi Vert『Luv Is Rage 2』(Atlantic Records)

 以上は順不同。全ジャンル対象のベストアルバム選出は、『ミュージック・マガジン』最新号でやっているので、そちらを参照してください。ここでは、本サイトの新譜キュレーション連載の延長線上で、エレクトロニックな音楽の中から選びました。惜しくも選から漏れたのが、Kelela、Vince Staples、Reliq、Baths、sione、Lusine、Kelly Lee Owens、Kendrick Lamar、Björk、Mhysa、TOWA TEIなど。すべてアルバムで、シングル及びEPは対象外です。

 現代のポップミュージックはそのサウンドから言っても、制作工程から言っても、エレクトロニックな要素がまったくない音楽を探すほうが難しく、いわば「すべての音楽がテクノ化している」とも言えます。たとえばCorneliusの『Mellow Waves』などもエレクトロニカといっていい傑作ですが、その感触はもっと温かくアコースティックな歌ものという個人的な印象があり、ここでは除外しました。そこらへんの線引きはけっこういい加減。

 しかしいざ選んでみると、R&Bやヒップホップがかなり多くなるのは予想していましたが、テクノやハウスでめぼしい作品がほとんどないという事態にはちょっと戸惑っています。これはテクノやハウスのアルバム作品が激減しているという事情と共に、ジャンルとしてのハウス〜テクノがどんどんマニアックで限定された領域のものになっていることが影響していると思います。ポピュラーでなくなっているからアルバムが減っているのか、アルバムが減ったからマニアックなものになっているのか、その因果関係は微妙ですが、ある意味、ダンスミュージックという括りがジャンルの刷新や進化を阻んでいる部分もあるのかもしれません。エレクトロニックミュージックの革新はエレクトロニカやヒップホップ、R&Bの現場で起こっている。その意味で、Baltraに代表されるロウハウスのように、初期のエレクトロニックダンスミュージックの荒々しい初期衝動を取り戻そうという動きは刺激的でした。日本でいうとKEITA SANOの活躍も注目です。その一方で、年末ギリギリになって飛び込んできた石野卓球の新作の、これぞテクノ30年の歴史の結晶とも言うべき圧倒的な完成度の高さと揺るぎのない個性は、やはり唯一無二のものと言わざるを得ない。彼に続く若手の登場が待たれますが、高額なビンテージ機材など使わず、ほとんどラップトップ一台で作ったという『ACID TEKNO DISKO BEATz』は、若手にとっていいお手本となると同時に、とてつもなく高い壁でもあるのかもしれません。(文=小野島大)