txt:江口靖二 構成:編集部

欧米やアジアの都市と比較すると、モスクワのデジタルサイネージについては、日本語での情報がほとんどない状況だ。先日、短時間のモスクワ滞在であったが、駅や小売店舗で見かけたサイネージの事例をご紹介する。

モスクワ地下鉄のサイネージ

はじめにモスクワの地下鉄のデジタルサイネージを紹介する。モスクワの地下鉄は非常に深いところを走っていて暗い、などという噂も耳に入っていたが実際にはそれほどでもない。東京の一部の地下鉄路線のほうが遥かに深いところを走っているものもある。

筆者が乗車したのは、山手線のようにモスクワ中心部を一周りしている環状線である。駅は中央にホールがあり、左右にプラットフォームがある。このホール部分の片方だけにエスカレーターがあり改札口に繫がっている。このエスカレーターの登り口側に、50インチほどの横型のディスプレイが設置されている。別の駅では、ホールの中央付近に真ん中にかなり高いポールの上に設置されている。筆者が乗降した環状線6駅くらいではこれ以外の設置方法は見られなかった。モスクワ地下鉄環状線の構内は、美術館とも言われるほど彫刻やモザイクによって装飾されているが、アナログの広告も掲示されていない。そのために視認性は極めて高い。

エスカレーターの登り口の天吊りディスプレイモスクワメトロのスマホアプリの紹介。下端は駅の閉鎖情報ホール中央のディスプレイコンテンツはエスカレーター部分と同じMOSCOW24。これは歴史的な建物の改修に関するニュース地下鉄環状線の構内はどの駅も美術館のような豪華に作りになっている

表示内容は「MOSCOW24」というローカルテレビ局が制作している、放送とは別のサイネージ用のコンテンツである。画面は3分割表示されており、上段は静止画によるニュースで写真とテキストによるスライドショーだ。中段は別の文字ニュース、下端はモスクワ地下鉄公社からの運行情報を含めた情報がテキストで表示されていた。車両の中にもやはりMOSCOW24を表示するディスプレイがドア上部分に設置してある。このディスプレイは後付けのもので、駅とは若干表示形式が異なっている。行き先案内は別にLEDによる文字表示がある。地下鉄に関しては駅、車両ともにコンテンツはMOSCOW24のニュースのみで、広告利用は今回確認できなかったのはちょっと意外であった。

モスクワ地下鉄構内のデジタルサイネージ地下鉄連結部分の駅名表示のLED地下鉄車内のドア上サイネージ

小売店舗のサイネージ

2本のワイヤーだけの天吊り設置

コンビニにもデジタルサイネージが設置されていた。これは「AB Daily」という都市型のコンビニ。コンビニというよりはどちらかと言うと食料品が中心のミニスーパーにと言ったほうがいいかもしれない。ここのレジ上に42インチディスプレイが全部で2面、縦に天井から吊られているのだが、この設置方法が興味深い。天井から2本のワイヤーが出ていてそれだけで固定されており、かつワイヤーだけで微妙に角度まで付けてある。いくらディスプレイが軽量化したといえども日本ではありえない設置方法だと思う。コンテンツ内容は自社の販促情報だった。

内容は自社販促映像

こちらはハンバーガーショップの店頭サイネージ。テロップには「炭火で焼いています」と書いてあるようで、炎の部分はシズル感のある動画になっている。しばらく見ていたがずっとそれだけが延々とされるのみであった。上の黄色いサイン文字は「OPEN」と書いてある。

炭火焼きをアピールするハンバーガーショップの店頭サイネージ

インタラクティブなサイネージ

続いてインタラクティブな端末な事例を3つ紹介する。

駅の出入口に設置された端末

最初はモスクワ鉄道会社のベラルーシスカヤ駅にあった端末だ。上部に15インチほどのタッチパネルがあり、右横にはICカードのリーダー、筐体下部には紙幣挿入口とプリンターがある。タッチパネルの上段はさまざまな決済機能へのボタンで、携帯電話事業者、インターネット決済事業者のサービスや、交通カードのチャージなどが利用できる。中段は左上から順に、モバイル通信、インターネットとテレビ、銀行・クレジット、マイクロローン、外国人向けサービス、タクシー・乗り物となっているが、タッチしてもほとんど内容が理解できないもの、動作しない項目もいくつかあった。下段は支払い確認、サービス検索、プリント、インフォメーションとなっている。言語対応はロシア語のみである。

特にデザインされた感はない初期画面

どうやらこの端末は情報端末ではなく、支払いや決済用の端末なのである。日本的に言うと出金ができない多機能ATMのようなものだ。操作感やUIについては、全体的に言葉の問題以上に直感的にはなかなか理解し難いというか、これまでに見たことがないタイプのものであったが、モスクワの人たちにはこれで十分理解できるのかもしれない。

この端末は駅構内への出入り口の一番いい場所に設置されているが、その正面にもう一台、同じような端末があった。こちらも同じく支払い端末のようである。デフォルトではQIWIというインターネット決済サービスの支払画面になっているが、ディスプレイ右側の物理ボタンを選択すると他の事業者の支払画面に切り替わる。携帯電話事業者、ISP、家賃、有料テレビなどが選択できた。この物理ボタンというのがありそうでない、古くて新しい感じがした。現実的には何らかの理由で後から機能追加したのかもしれないが、通常はこうした選択ボタンも含めて、画面の中にタッチボタンとしてレイアウトされることが多いが、最初の入口画面を選ぶ段階でこうして外付けの操作盤やボタンで選ぶというのは、実際操作してみると意外にわかりやすかった。位置が画面のすぐ下に配置されていればあればもっといいだろうと感じた。外国人を対象としていないからと思われるが、対応言語はやはりロシア語のみである。

この端末も15インチほどのタッチパネルディスプレイの嬢家に貼ってあるシールには「支払受付」と書いてあるディスプレイ右側にある物理ボタン

最後は市内中心部と空港を結んでいる、アエロエクスプレスのベラルーシスカヤ駅に設置してある端末だ。正立型で50インチほどのタッチパネルディスプレイだ。ロシア語と英語に対応している。メニューはシンプルで、時刻表、料金表、駅のマップなどである。時刻表は現在時刻以降の出発と到着の時刻が表示される。実際の運行情報に連動しているわけではない。動作は軽快であった。

なお、この駅には広告専用のディスプレイとフライトインフォメーション(ロシア語と英語)を表示する表示されるディスプレイがあった。しかし残念ながら広告募集中の表示のみで、実際の広告映像はこのときには見ることができなかった。

デフォルト画面はロシア語英語表示にも対応アエロエクスプレスの発着時刻表シェレメーチエヴォ空港の到着口付近のマップを表示アエロエクスプレスの発車案内左はスーツケースをビニールで巻いてくれるサービスの販促映像、真ん中はフライトインフォメーション、右は広告媒体だと思われるが「広告募集中」と書いてあるフライトインフォメーションは空港にあるものと同じ

短い滞在時間で、事例も非常に少なくて申し訳ないが、モスクワのデジタルサイネージ状況の一端は感じられるのではないだろうか。全体の印象としてはまだまだデジタルサイネージの普及は進んでいない感じだ。特に広告利用のサイネージはほとんど無かったのはお国柄なのだろうか。モスクワの人たちはみなとても親切で、他の都市と何ら変わりがない。サインやメニュー等については英語での表示は空港以外にはほとんどないが、スマホの翻訳アプリで十分対応できる。また近いうちにモスクワに行きたいと思っている。