北村豊晴監督

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(台北 26日 中央社)台湾でドラマや映画の監督、俳優として活躍する北村豊晴さんが先月、初のエッセイ「騎摩托車戴安全帽那一年:1997我成為最台日本人」を発表した。同書には北村監督が台湾に根を下ろした1997年から2007年までの10年間に起きたエピソードがつづられる。記者は11月中旬、台北市内で北村監督に執筆の裏話や撮影の思い出、台湾のドラマ業界の現在などについて話を聞いた。

▽エッセイ刊行は「ノリ」

執筆のきっかけは「ノリ」だと笑う北村監督。出版社の編集長と会った際に書きたい意思を伝えると、「書きなよ」と快諾された。完成までには3年以上を費やした。執筆中には迷いもあったという。同書につづった内容の多くは、これまでの苦労や恋愛話など監督のごく私的なエピソードだったからだ。「これを見てもらったからといって、自分の評価が上がることはない」と北村さん。だが、最終的には「本ってそういうものでもいいんじゃないか」と思い直し、執筆を続けた。

同書には、ホウ・シャオシェン(侯孝賢)監督や行定勲監督といった映画界の巨匠と仕事をしたエピソードも盛り込まれている。北村監督は「あの二人はとにかく撮り方が別格」と振り返る。ホウ監督は「風景を切り取る」、行定監督は、とにかく「何回もやって作り込む」。北村監督自身、リテイク(撮り直し)の回数は台湾のドラマ界では多い方だといい、「行定監督の影響は絶対にある」と明かした。

▽賞は「役者がもらうのが嬉しい」

北村監督が手がけた台湾ドラマ「恋愛沙塵暴」は今年、台湾のテレビ番組賞「ゴールデン・ベル・アワード」(金鐘奨)で7部門9項目にノミネートされ、自身も初めて監督賞に名を連ねた。惜しくも監督賞受賞は逃したが、「(監督賞)初ノミネートで受賞してしまったら調子に乗るから、これくらいでよかった」と謙虚さを忘れない。作品自体は長編ドラマ部門主演女優賞と新人俳優賞の2部門を受賞した。「やっぱり役者が(賞を)もらうのが嬉しい。『次に一緒に仕事をしたいな』、大変な現場だったとしても『いい結果が生まれたらいいかな』と役者に思われるほどの監督になれたらそれはそれで嬉しい」。

▽台湾ドラマ界に「良い兆し」

台湾ドラマ界には今年、「通霊少女」や「お花畑から来た少年」(花甲男孩転大人)など話題作が相次ぎ、再び勢いを取り戻そうとしている。北村監督はドラマ業界の変化について「これまではアイドルがちやほやされていたのが、今は芝居の上手さが評価されるようになってきて、いい作品を撮ると視聴率も出るようになった」と指摘。「こりゃーいい兆しやで」と顔をほころばせる。自身も「これからは実力派をどんどん使っていきたい」と意欲をみせた。

▽来年は挑戦の年に

これまで映画「一万年愛してる」(愛[イ尓]一万年)や「おばあちゃんの夢中恋人」(阿[女麼]的夢中情人)、ドラマ「ショコラ」などを手掛け、ラブコメディーを得意としてきた北村監督だが、次回作ではサスペンスホラーに初挑戦する。実はホラーなどは見たことがないという。「自分の中では童貞がアダルトビデオ(AV)を撮るみたいな感じで、それはそれで違った作品ができるんじゃないかと思っています」。新たな挑戦にも前向きだ。

ほかにも来年はやりたいことがある。そのうちの一つはVR(仮想現実)技術を用いた映像作品の製作。北村監督が尊敬するツァイ・ミンリャン(蔡明亮)監督も今年、VR映画「家在蘭若寺」を手掛けた。「やったことがないものにすごく興味があって、来年は自分を追い込もうと考えています。撮って、撮って、撮りまくる。休まない」とさらなる飛躍を誓った。

(名切千絵)