哲学は変人が一生かけて考え抜いた生きる知恵。元・男装アイドル作家・原田まりる「哲学を“ファストフード化”したい!」

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 いろいろな生き方や価値観が、少しずつ受け入れられるようになった現代。反面、選択肢が多いがゆえの悩みや迷いも増えている。ささいなことだけど、誰かにアドバイスをしてほしい……。そんなとき、偉大な哲学者たちの力を借りてみるのはどうだろうか。

 11月27日にポプラ社から出版され、発売1週間で重版が決まった『まいにち哲学』には、1年間366日分の哲学者の名言が取り上げられ、その言葉の意味や教訓がわかりやすく解説されている。日付に対応する名言を読むもよし、パラパラめくって目にとまったページやパッと開いて引き当てたページの名言を読むもよしと、日めくり名言集としても、占いのようにも活用できる一冊だ。

 本書を上梓したのは、元・男装アイドル、現・哲学ナビゲーターという異色の経歴をもつ作家・原田まりるさん。10代のころから哲学書を読み漁り、『私の体を鞭打つ言葉』(サンマーク出版)、第五回京都本大賞を受賞した『ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。』(ダイヤモンド社)と哲学に関する著書を上梓してきた原田さんに、哲学の魅力とはなんたるかを伺ってきた。

■哲学の魅力はいくつになっても「はっ」とさせられること

──はじめに、原田さんが哲学に目覚めたきっかけを教えてください。

原田:10代のころから尾崎豊の大ファンでして、私も尾崎と同じように「生きるって何だ!」「自由って何だ!」ってずっと考えてて(笑)。でもどうしたらその答えが出せるのかずっとわからなかった。それが、高校生のとき中島義道先生の『不幸論』を読んで、哲学を勉強すれば何か手がかりがつかめるかもしれないと感じたんです。「人は幸せになるために生きてる」みたいな話はよく聞いてたけど、『不幸論』の内容はまったく逆で。「生きることは苦悩だ。辛いことだ」って書いてあるんですよ。なんか、尾崎の歌詞とも通ずるところがあるような気がして胸にささったんです。それからずっと、哲学書を読み漁る日々です。

──ということは、もう10年以上哲学の世界に魅了されているわけですね。ずばり、原田さんが思う哲学の魅力って何なんですか?

原田:なんか「はっ」とするんです。思ってもみなかった角度からボールを投げられるというか。まさに、ニュートンが万有引力を発見したときみたいな感じですよ。哲学用語ではこの「はっ」とする覚醒のことを「タウマゼイン」と言うのですが、今まで知ったつもりでいたことを再認識できるんです。曖昧な概念を的確に言語化しているのがすごいなーって思います。

──これまで原田さんがとくに「はっ」とさせられた言葉って何ですか?

原田:ニーチェの「生まれ変わったとき、そっくりそのままリピート再生したいと思える人生を送れ」ってやつですね。もう一度自分になりたいだけじゃなくて、まったく同じ人生を歩みたいと思うには、1秒たりとも無駄にできないし、妥協できないって考えるようになりました。

──なるほど……!

原田:ただこれ、哲学のさらにおもしろいところなんですけど、そのときの自分の状況によって共感できる哲学者とか、ささる言葉がぜんぜん変わってくるんですよ。男装アイドルをやってたときは、周りの大人に自分の思っていることがうまく伝わらなくて悩んでたんですが、ショーペンハウアーの「秀才は誰にも射抜けない的を射抜くが、天才は誰にも見えない的を射抜く」っていう言葉を読んで、「私は天才だから、理解されんでもしゃあない」って前向きに思い込むようにしていました(笑)。

──それじゃあ、アイドル時代を経て大人になった今だからこそ、ささる言葉も変わってきているわけですか?

原田:若いころは自分の感情とどう向き合うかってことが重要だったんですけど、大人になるにつれてもっと根源的で現実的なところが大切だって思うようになりましたね。たとえば『まいにち哲学』でも取り上げたニーチェの「轢かれる危険がもっとも多いのは、ちょうど一つの車をよけたときである」とか。私は「当たり前名言」って呼んでるんですけど(笑)。一見、当たり前っぽいけど、言われてみると「たしかになー」って思いますよね。

■目指したのは哲学の“ファストフード化”

──これまで、エッセイ『私の体を鞭打つ言葉』、小説『ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。』と哲学に関する著作を上梓されてきた原田さんですが、新刊の『まいにち哲学』はまたちょっと違ったテイストの作品ですよね。執筆のきっかけは何だったんですか?

原田:現代って、人生の選択肢が多くなったぶん、迷うことが増えていると思うんです。ひと昔前の「女の幸せは結婚すること」みたいな価値観は通用しないから、自分の頭でちゃんと考えないといけなくなった。そのとき哲学が何かしらのヒントになるはずなんです。AかBかで悩んでたら、Cの可能性を提示してくれるのが哲学なので。でも、哲学書を読むのってハードルがめっちゃ高い。だから毎日気軽に読めて、迷ったり悩んだりしたときの“お守り”になるようなものを作りたいなと思ったんです。

──本書では1日ひとつずつ哲学者の名言が取り上げられていますが、この366個はどうやって厳選したんですか?

原田:まずは、使えそうな名言をピックアップする作業から始めました。この言葉いいなっていうのを意味が重複しないように挙げるんです。出版社によって日本語訳がちょっと違うので、現代人にとってわかりやすい表現はどれかも比較しつつ、1か月で80冊くらいの哲学書を読みましたね。資料代がまあまあかかりました(笑)。

──なんだか途方もない作業のように感じます……!

原田:でも一番しんどかったのは、それぞれの言葉に解説をつける作業でしたね。名言だけ切り取ってもその哲学者の真意はわからなかったりする、けれども感性で書いたポエムみたいな解説も嫌で。ちゃんとロジカルに説明できるものを書きたかったんです。だから私も、もう一回入門書から読み直してちゃんと理解しようと努めました。

──そこまで手間暇をかけるモチベーションって、一体どこからきてるんですか?

原田:自分でも正直よくわからないんですけど、呪われたように哲学のことが好きなんですよ(笑)。哲学って自分にとってはすごくおもしろいものだから、周りの人にももっと日常的に触れてほしいんです。でも、狭い世界のなかで発展してきた歴史とか、わざと難解な言葉を使うような文化があったから、一般的な社会とは距離ができてしまった。でも哲学って本当は、難しい学問っていうより、生きる知恵とか迷ったときのヒントになるとも思うんですよ。だから私は哲学を“ファストフード化”したいんです。いきなりフレンチは気が引けちゃうけど、ハンバーガーなら気軽に食べられるから。

──哲学の“ファストフード化”にあたって、『まいにち哲学』ではどんな工夫をされているんですか?

原田:名言とその解説のほかに「見出し」をつけることで「つまり何を言ってんの?」ってことが直感的にわかるようになっています。それから、月ごとに「仕事」「恋愛」「幸福」などテーマを決めて名言を集めているので、そのときの状況や気分で必要な言葉を探すこともできるんです。ほかにも、表紙を洋書みたいなデザインにしてインスタ映えを狙ったり、カバーを広げるとカレンダーとして使えたりと、楽しめる工夫をたっぷり詰め込みました!

──そんな『まいにち哲学』はどんな人に読んでもらいたいと思いますか?

原田:頑張っているすべての人に、日々の“お守り”として使ってほしいです! ぶっちゃけ、哲学のおかげでめっちゃ出世するとか素敵な恋人ができるってことはないんですけど、人生の岐路では絶対に役に立ちます。恋人と別れた、転職しようか悩んでいる、上司に理不尽なことを言われた……などストレスを感じたときにパラパラめくると「はっ」とさせられる気付きがあるはず。哲学には哲学者っていう変人たちが一生かけて考え抜いた生活の知恵やアイデアが詰まってるんです。

──いろいろ伺ってきましたが、最後に読者のみなさまへ『まいにち哲学』のアピールをどうぞ!

原田:持ち歩くにはちょっと重いので、ぜひ枕元に置いてください! 10年でも20年でも愛用できるので、『広辞苑』とか『家庭の医学』とかと同じイメージで一家に一冊あると役に立つと思います。その日目についた名言や、自分の誕生日のページなど、どんどん写真に撮ってSNSに上げてもらって構いません。「#まいにち哲学」をつけてくれたら私も見に行くので、みんなで共有し合って楽しんでください!

取材・文=近藤世菜 写真=内海裕之