Photo: 中川真知子

先日、私の住むマレーシアのクアラルンプールで2日間に渡って開催された大規模アニメ・イベント「コミックフェスタ 2017」に行ってきました。2日目の夕方でしたが、場外は気合の入ったコスプレイヤーたちが至る所で写真撮影会、場内もグッズを求めるアニメファンや同人ファンでごった返していました。

今年は、KADOKAWA HOLDINGS ASIA Ltdのグループ会社KADOKAWA GEMPAK STARTZ SDN BHDや、Books Kinokuniya Malaysia、株式会社ポリゴン・ピクチュアズとの合弁会社であるSILVER ANT PPI、OLM ASIA、バンダイナムコと業務提携したレモンスカイといった日系企業、提携企業がブースを構え存在感を発揮していましたが、縁あってSILVER ANT PPIの安宅社長とOLM ASIAの北嶋社長に話を伺うことができたので2回にわたって紹介したいとおもいます。

まずは、日本国内のアニメーション制作の人材不足により、今月マレーシアのサイバージャヤにスタジオを構えたばかりのOLM ASIA。忙しい中、グループ会社ビラコチャの代表取締役を務め、OLM ASIAの表取締役社長でもある北嶋秀彦氏が時間を割いてくださいました。

OLM ASIAではデジタル作画の動画と仕上げ

──マレーシアでは現在、動画の製作と仕上げを行なっているとお聞きしました。では原画は日本で作っているということでしょうか?

北嶋秀彦さん(以下、北嶋さん):原画はある程度スキルが必要なので、マレーシアではまずは3年かけて原画マンを育てたいと考えています。最初は40人を目標に人を集めて、そのうち10人でも原画マンに育ってくれればいいなと思っています。

──マレーシアには2Dアニメや動画を勉強する学校はあるのでしょうか。

北嶋さん:勉強する場所はどこもないんです。マレーシアには動画を製作する会社がないんですよ。なので絵心のある子ーー、アート系の学校を卒業している新卒さんを採用して、日本でもやっている研修内容をしてもらおうと思っています。3-6カ月で仕事ができるところまでスキルを伸ばしたいですね。2年くらい必要だとは思うんですが、時間をかけて育てていきたいです。

Photo: 中川真知子
デジタル作画ツールを使って来場者に実際に触ってもらうワークショップを開いていました。インタビューしていた横で、男性が真剣にペンタブでピカチュウをトレースしていました。

──私は全く絵心がないんですが3年あれば使える動画マンになれるのでしょうか?

北嶋さん:全く絵心がないと難しいと思います(苦笑)。こっちの学校を見学しましたが、皆さんしっかりと教育されているんです。なのでそこで絵の教育を受けている子達なら問題ないだろうと思います。実際にこっちのカレッジに通っている子にワークショップで描いてもらうと、全く問題ないんですよ。ちょっと手を加えるだけでいけるだろうな、というレベルのスキルをすでに持っています。

ハードに慣れていないといった問題はありますが、当初危惧していたより時間かからずにいけるかもしれません。ただ、そんな人材が40人も集まるのか、という心配はありますが。

文化の異なるマレーシア人を雇用する上で

──ちなみに、現地の人と働く日本人からマレーシア人と働く大変さをよく聞きますが、そういった部分はどう対応されるのか、具体的な秘策などはありますか?

北嶋さん:皆さんどこも苦労していますよね。グループ会社のイマジカの人間が今年でマレーシアが4年目になり、すでに問題点は吸い上げているのですが、それでもどう対応したら良いのかわからないところじゃあります。しかし、やっぱり会話しかないのでしょう。育ってきた文化の違いがあるので、完全なマッチはできないだろうと思っています。初めてマレーシアにきた時に「有休消化率は120%だと思ったほうがいいよ」って言われました。

なので日本と同じやり方はダメだと思っています。ですが、現状では模索中です。どこまで時間や納期を縛らないといけないのか。逆にいうと時間は縛るけれど頑張れば給料は上がっていくということは示していこうと考えています。

3Dのアニメーターはギャラが上がってきていますが、2Dのアニメーターはまだまだです。なので、上がっていくためにはどうすれば良いかというのはきちんと見せていきたいです。3Dレベルまで払えるので。やれる人間には出したいと思っています。そこを見せます。いまはそれくらいしか見当たらないんですが…。

──40人集めるとおっしゃっていますが、求人の手応えはどうですか?

北嶋さん:いやぁ、まったくですね。ここ(ブース)で受け付けているわけではないので今は見えていないんです。何件かの問い合わせはきているのですが、思ったほどではありません。とは言え、まだ僕らも給料を提示していなかったり、ちゃんとした案内をしていないので。しかし、ここで話している限りでは興味を持ってもらえています。

──どんな方に来て欲しいですか?

北嶋さん:基本的に0からベースのものなので、スタッフは別として、僕は本当は全員新卒が欲しいんです。社会人経験ない子で、初めて働くのがうちっていうくらいの子が欲しいなって。何しろこの国にない仕事ですし、ゼロベースから教育できることなので、社会人経験がない子でも良いな、と。

Photo: 中川真知子
アニメファンでごった返すメインロードに面して、ブース2つ分のスペースを確保したOLM ASIA。壁に所せましと貼られているのはマレーシアでも人気の高い『ポケモン』ポスター。

OLM ASIAはオフショアではない

北嶋さん:こっちの取材を受けていると必ず「オフショアですよね」と聞かれます。「オフショアじゃないですよ」というとこっちのメディアはとても驚いて、「そんな日本の会社は見たことがない」と言われます。僕らは日本のオフショアではなく、ゆくゆくはマレーシアで独立したアニメを作れる会社にしたいんです。

──では、この国で独立したアニメを作るなら、最終的にこういう作品を作りたいという具体的な案はあるのでしょうか?

北嶋さん:今はまだそこまで考えられていません。ただ、この国で人気の『BoBoiBoy』のような3Dのアニメーションを2Dでできたら良いな、と思います。ジャパニメーションって鎖国された日本だけのものだったんですけど、世界にぶつけてみたら面白いだろうと思っています。今は始めたばかりなので、目先の部分で40人集めるのに精一杯ですけどね。

──ところで何故マレーシアだったのでしょうか?

北嶋さん:マレーシアは外資の誘致に積極的だと思います。それに制度と言語面、特にMDEC(デジタル技術による経済発展を促進するマレーシア政府機関)の制度は外資に有利なので決め手にはなりました。オフショアとかでいうとベトナムとかそっちのほうがいいのですが、文化を落とし込んで日本と共存共栄できるというと、教育のレベルも含めてマレーシアだと思いました。

今、OLMは日本とロサンゼルスに会社があってポツンポツンと仕事をやっていますが、マレーシアみたいに英語を使えるところがハブに入るとトライアングルになっていい仕事ができるだろう、というのもひとつのアイディアとしてありました。ただ、まだまだ柔らかいのでなんとも言えませんが、イメージはいろいろとありますよ。

マレーシア人は若くても家や車、家庭を持つ傾向があり、お金にもとてもシビア。そして技術力がつくと、よりよい給料を求めて他社に移る人が多い印象があります。OLM ASIAは給料を「技術がある人には3Dくらい出す。出せる」と言っていたので、これが広まれば人が集まってきそうです(後日、北嶋さんとメールでやり取りさせてもらいましたが、応募が順調に来ているそうですよ!)。

ちなみに、育った人材の流出の可能性に関して質問すると、「 トラディショナルなジャパニメーションはOLM ASIAだけなので、他にジョブホップできる場所がないのです。この国では2Dといってもフラッシュアニメなので」とのこと。マレーシア国内であれば他に行き場がないということなんですね。

マレーシアにトラディショナルなジャパニメーションを輸入し、将来的には動画や仕上げに限らずマレーシアから作品を発信していきたいというOLM ASIA。ビジョンと目標までの道筋がハッキリしていて、聞いているだけでワクワクしました(進行として中から成長を見たいとさえ思っちゃいました。時間的に無理ですけど…)。



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Source: OLM

(中川真知子)