木部智之『複雑な問題が一瞬でシンプルになる2軸思考』(KADOKAWA)

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デキる人は、データの分析や調査においても効率を求める。日本IBMでエグゼクティブ・プロジェクト・マネジャーを務める木部智之氏は「膨大なデータを解析するときの突破口は、数字の『特異点』を見つけることにある」といいます。その具体的な方法を紹介しましょう――。

※本稿は、木部智之『複雑な問題が一瞬でシンプルになる2軸思考』(KADOKAWA)を再編集したものです。

■ナマの数字は、どんなときでも客観的

あなたがマーケティング部門に所属していたとしましょう。

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「どの商品が伸びていて、どの商品が不振なのか?
また過去と比較した推移はどうなっているのか?
会社を成長させるために、正確な定量データに基づいた提案がほしい」

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このような指示を受けたとき、あなたはまず、「定量データ」を分析するでしょう。

商品の販売数や在庫数など、実際のリアルな数値が打ち込まれた「定量データ」は、あらゆるデータの中で、最も「客観的」な数値です。

定量データは、グラフなどに加工されてしまうと、表現に工夫の余地が入るので、次第にグラフの作り手の「主観」が入ってきてしまい、現実の姿から、少し離れたものになってしまいます。

そのため、何よりも「現実の状況」をつかみたいと思ったら、まず、元々の定量データを見て、そこから何かを読み取る必要があるのです。

■定量データを、2軸のマトリクスにあてはめる

定量データは、見た目はただの「数値の羅列」です。パッと見、あまり面白みのあるものではありません。

そして、何種類もの商品の過去から現在までのデータとなると、データ量は膨大となり、手をつけるにも、どこから手をつければよいのか、ひるんでしまいそうになります。

そこで、ここでの最初のアプローチとして、2軸のマトリクスを使って、商品ごとの売上や利益率の数字を整理することを考えます。

この時点では、整理をしたあと、次に何をすべきかは決まっていません。

とにかく、何らかの糸口を探すためにデータを可視化したいので、マトリクスに落とし込んでいくのです。

■タテ軸とヨコ軸を決めるポイント

マトリクスをつくるとき、まず決めなければいけないのは、タテ軸とヨコ軸です。

このケースでは、商品の比較をしたいので、「商品」がひとつの軸になります。

そしてもうひとつの軸には、「売上・売上前年比・利益率・返品率・販売年数」などの商品の力を測る要素を設定します。

では、どちらをタテ軸にして、どちらを横軸にするか?

マトリクスの基本は、タテ長です。

つまり、数が多くなるものがタテ軸にくるので、このケースの場合は、「商品」がタテ軸にくると考えられます。

商品の力を測る要素「売上・売上前年比・利益率・返品率・販売年数」は、これ以上増える可能性が低いので、ヨコ軸になります。

マトリクスの枠組が決まったら、どんどんデータを入れていきます。

■数字の中から「特異点」を見つける

マトリクスの中に無機質に並んだ数字を眺めていると、「んっ?」と引っかかる数字がいくつか目に入ってくるはずです。

そう、これが今回マトリクスをつくった目的で、この引っかかる数字が「特異点」です。文字通り、ほかとは違う特殊な部分という意味で、急に増加していたり、そこだけ減っているので、ちょっと気になる数字です。

定量データを見るときに最も重要なのが、大きく変化をしている「特異点」を見つけることです。反対に、「毎年、一貫して3%ずつ増加している」とか、「同じようなデータが並んでいる」といった場所は、特に注目する必要はありません。

■「特異点」から、さらなる展開を考える

「特異点」を見つけたら、そこからさらなる展開を考えます。

ここまでは客観的な数値データを眺めるだけでしたが、ここから先は、自分の「解釈」を入れつつ、「仮説」を立てて次のステップに進む必要があります。

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仮説(1)「全体の売上は下がっているけれども、本当に全商品が不振なのかはわからない。売上の大部分を占める5つの主力商品の直近5年間の売上の推移を『見える化』してみたら何かわかるかも……」

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→展開:分析対象とする5つの商品の5年間の売上データだけを抜き出し、グラフの中でも「時系列での推移」がひと目でわかる折れ線グラフで表してみよう!

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仮説(2)「(1)のような売上の推移だけでなく、利益も含めた全体の分布を『見える化』をしたほうが、利益率が高い「群」の特徴が見えてくるのではないか……」

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→展開:2本の軸(売上と利益)で区切られた4象限でポジショニングをして表してみよう!

このように、仮説を立てて、さらなる分析への展開を考えてみます。

実際、仮説を立てて分析を進めていくと、最初に考えていた結論と違う結果が出てくることもあるので、「思い込み」に惑わされず、あくまで数値を冷静に見ることが重要です。

なお、定量データが豊富にあればあるほど特異点がどこにあるかも見つけやすくなるため、こうした仮説と検証もしやすくなります。

■商品を4象限にポジショニングする

今回のケースでは、仮説(2)を採用して、4象限を使ったさらなる展開を考えてみることにします。

自社商品の選択と集中のために、それぞれの商品がどのようなポジションに位置づけられるかを4象限タイプで把握します。いわゆる、PPM(Product Portfolio Management:プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)と呼ばれるフレームワークの考え方です。

PPMはシンプルに言うと、「市場成長性」と「マーケットシェア」の2軸でセグメント分類し、それぞれのセグメントごとに戦略を考えるというものです。

今回は、このPPMの応用で「売上高の大きさ」と「売上前年比」の2つの要素をタテ軸とヨコ軸に設定しました。ここでできあがるのが、次の4つの象限です。

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セグメント(1) 売上:大 前年比:プラス
セグメント(2) 売上:小 前年比:プラス
セグメント(3) 売上:大 前年比:マイナス
セグメント(4) 売上:小 前年比:マイナス

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セグメント(1)は、自社の重点製品として位置づけるべきものです。売上高も大きく、伸びもありますから、いまのところ検討する必要はありません。

反対に、セグメント(4)は売上が少ない上にマイナス成長なので、場合によっては、切り捨てる候補となります。このセグメントにある商品に貴重な自社の資源を投下することはできません。

セグメント(2)は、今後の成長候補の製品群です。このセグメントにある製品に対しては、今後どうしていくか、突っ込んだ戦略検討が必要となります。

セグメント(3)は、このまま放置しておくと自社への大きなインパクトが避けられないおそれがあります。マイナス成長を食い止める施策を実行するか、製品自体が衰退期に入ってきているので一気に撤退させるか……。きちんと検討したうえで対応が必要です。

このように2軸を設定し、商品を4象限にポジショニングしてみると、右上に行くほどに検討が不要で、左下にいくほど検討が必要な商品となることがわかります。

冒頭の「会社を成長させるために、正確な定量データに基づいた提案がほしい」というオーダーに応えるうえでも、こうした現状をとらえることは有用であり、会社の成長を左右する商品の選択と集中の判断材料になるはずです。

今回は、わかりやすく説明するために、ケースを単純化し、要素が数個の場合で説明しました。しかし、実際の仕事では、これとは比較にならないほどの膨大なデータから、何らかの方策を導き出さなくてはいけない状況があると思います。

ですが、基本はすべて同じです。

「客観的な数字の中から、『特異点』を見つけて、さらに深掘りしていく」

これをひたすら実行することによって、効率的にデータを読み解き、次のステップに進むことが可能になるのです。

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木部 智之(きべ・ともゆき)
日本IBMエグゼクティブ・プロジェクト・マネジャー。横浜国立大学大学院環境情報学府工学研究科修了。2002年に日本IBMにシステム・エンジニアとして入社。2017年より現職。著書に『複雑な問題が一瞬でシンプルになる2軸思考』『仕事が速い人は「見えないところ」で何をしているのか?』(以上、KADOKAWA)がある。

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(日本IBMエグゼクティブ・プロジェクト・マネジャー 木部 智之)