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第76回から80回にかけて、機体重量にまつわる話を取り上げた。そして前回は、サイズバリエーションの話を書いた。そこで本題である、ストレッチに進んでみよう。ストレッチといっても、伸ばすのは筋肉ではなくて胴体である。

○搭載能力は容積次第

旅客機を含む人員輸送機でも、あるいは貨物輸送機でも、搭載能力を決める要因は2種類ある。

1つはペイロードの多寡で、これは第75回・76回で取り上げた数字だ。機体構造の強度に加えて、主翼が発生できる揚力やエンジンの推進力によって左右される。

第75回でも書いたように、実際には最大ペイロードまで積んでしまうと燃料の搭載量が少なくなりすぎて現実的ではない。だが、「短距離飛行だから目一杯積みたい」「後で空中給油するから、離陸時の燃料は少なくてもいい。搭載量優先」といった運用もあり得る。

もう1つの要因が機内の容積。人間の場合には極端なサイズの差がないから、「椅子を何脚設置できるか」が基準になる。対する貨物の場合はサイズも形状も多種多様だから、話は複雑になる。

民航機の場合、貨物をコンテナに収容して、そのコンテナを載せる方法が基本だ。それであれば、コンテナのサイズ・形状が問題になる。機種によって胴体の断面が違うので、すべての機種で同じコンテナを利用するわけにはいかず、旅客機の床下に貨物を積み込むためのコンテナにはいろいろな種類がある。

一方、厄介なのは軍用輸送機。人を乗せることもあれば、パレットに梱包した貨物を載せることもある。かと思えば車両を載せることもあるし、極端なケースではヘリコプターだって載せる。

こうした各種の積荷のサイズを考慮して、「これは絶対に積めるようにしておきたい」というものがあれば、それが設計段階で貨物室の幅・高さ・長さを規定する際の基準になる。もっとも、いったん機体ができてしまうと、貨物が機体に合わせなければならないが。

いわゆる西側諸国だと、貨物搭載用のパレットが「463L」という規格品になっているので、「463Lパレット何枚分」という要求が入ってくる。貨物室の寸法、とりわけ横幅が中途半端な数字だと、「パレットが1列だとガバガバ、2列だと入らない」なんていうことになりかねないので、それを避ける配慮も必要になると思われる。

さて。実際に軍用輸送機を造って飛ばしていると、重量より先に容積が限界になってしまうことが多いという。つまり、軍用輸送機が輸送する積荷の多くは重量の割にかさばる、という意味だ。

民間でも、品物によっては同じ現象が起きるようだ。船便と比べて速い代わりに運賃が高い航空便にするメリットがあるのは、主として高付加価値の製品であり、それは往々にしてサイズの割に重たくない。

○容積が足りないので増やしました

といったところで、米空軍で過去に使用していたロッキードC-141スターリフターという輸送機のお話。

この飛行機、寿命中途で大改造をやって胴体を延長して、C-141Bと呼ばれるモデルに化けた。ベースモデルのC-141と胴体延長後のC-141Bを比較すると、特に主翼から機首までのところが露骨に長くなっている様子がわかる。下の写真はストレッチ後のC-141B。

なぜそんな手間のかかることをしたかと言えば、前述したように、「重量の限界がくる前に機内がいっぱいになってしまう」という運用実績が導き出されたため。機体の搭載能力をフルに発揮させるには、もっと機内の容積を増やす必要がある、というので胴体を延長した。

もちろん、延長する分の機体構造材に相当する分だけ自重が増える。それでも、機内容積が増えるメリットは大きいと判断したわけだ。しかも、胴体の延長と併せて空中給油用のリセプタクルを追加したので、遠距離飛行も容易になった。「少なめの燃料で離陸しておいて、離陸後に空中給油を受ける」という運用が可能になったからだ。

C-141Bの場合、後から必要に駆られてストレッチ改修を実施したが、これはどちらかというと珍しい部類に入る。艦船だと、寿命中途で船体をちょん切って延長する改造事例がいくつかあるが、飛行機では珍しい。

○なぜストレッチで対応するのか

ところで、キャパシティを増やすのに、どうして胴体の長さを変えるのか。胴体の直径を変えるのではいけないのか。胴体の直径を増やせば、搭載できる貨物のサイズが増えていいではないか。

そこで、ちょっと考えてみてほしい。胴体の直径を変えるということは、もうまったく別の機体を設計するのと同じである。そうなると、設計も試験もみんなやり直しという仕儀になる。その点、直径を変えずにストレッチするほうが手間がかからない。もちろん、胴体の長さが変われば荷重条件は違ってくるが、全面的に設計をやり直すほどのことにはならない。

特に「見た目の長さ」が際立つのは、個人的にはエアバスA340-600だと思う。あと、ボーイング777-300も相当に長い。

エアバスA320シリーズの場合、短いほうから順にA319、A320、A321といった具合で、別モデルのようなネーミングになっている。同じエアバスでも、A330やA340はハイフンに続くサブタイプで識別している。

ストレッチの話からは脱線するが、異なる機種だが胴体断面は同じ、というケースもある。以前のエアバスはそこのところが徹底していて、ワイドボディ(2通路機)のA300、A330、A340、それとナローボディ(単通路機)のA320シリーズ、と2種類の胴体断面で済ませていた。

さすがにオール2階建てのA380は話が違うし、カスタマーからの要求を受けて再設計したA350も、新規に大きめの断面の胴体を設計することになった。だからA350は、ボツになった既存胴体流用の当初構想モデルと区別して、A350XWB(eXtra Wide Body)と呼ぶこともある。