樋口卓治氏と川上昌直氏。樋口氏のオフィスにて。

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ビジネスモデルとは、顧客を喜ばせながら、同時に企業が利益を得る仕組みのこと。経営学者の川上昌直氏は、最新刊『マネタイズ戦略』で、マネタイズの視点を取り入れることで、顧客価値提案に画期的なブレークスルーを起こせることを解説しています。放送作家の樋口卓治さんとの対談3回目。かつて『森田一義アワー 笑っていいとも!』『ココリコミラクルタイプ』『学校へ行こう!MAX』など数々の番組に携わり、現在も、『ぴったんこカン・カン』『中居正広の金曜日のスマイルたちへ』など多数の人気番組を手掛ける超売れっ子放送作家です。そのマネタイズ戦略とは?

強迫観念から書き始めたのが小説だった

川上 樋口さんは、放送作家だけでなく小説家としても活躍しています。昨年は、『ボクの妻と結婚してください。』(講談社)という小説が、織田裕二さん主演で映画化されましたよね。現在までに4冊書かれていますが、どんないきさつで小説を書き始めたのですか?

樋口 2009年に古舘プロジェクトが株主になりタイズブリックという新会社を設立して、私はそこの取締役になりました。会社の使命は、「新たな才能をプロデュースし、良質なオリジナルコンテンツを創出する」ことだったのですが、設立した直後は、何も売るものがなくて「どうにかしなくちゃ」と思ってたんですけど、本業の放送作家の仕事が忙しすぎてまったく稼働できなかったんです。その後ろめたい気持ちがあって、「何か生み出さなきゃ……」という強迫観念から書き上げたのが『ボクの妻と結婚してください。』でした。

川上 そんないきさつだったんですね(笑)。でも、ジャンルもテーマもいろいろとある中で、なぜ、「余命6か月と診断された放送作家が、自分が亡き後の妻の再婚相手を探す」という内容にしたのですか?

樋口 私は、30代の頃は本当に寝る間もないほど忙しくて、ある日、仕事を終えて疲れ果てて車を運転して帰宅したとき、ガレージのリモコンのボタンを信号機に向けて押してたんですね。で、「これは、やばいぞ」と思うと同時に、「もしもこのまま自分が死んだら、妻と子どもはどうなるんだろう」と考えたんです。そのときの記憶が強く残っていたんでしょうね。

それで、いざ、小説を書くときに、「もしもあと余命が半年だとしたら、仕事に傾けていたパワーを家族にどう使うんだろう?」というところから考え始めました。シェフだったらおいしいごはんを家族にふるまうだろうし、ミュージシャンだったら一曲歌を作るかもしれない。ならば、放送作家の僕は、家族に向けて何かしらの企画を練るはずだと。そこからスタートした小説でした。

川上 タイトルは、かなりインパクトがありますよね。

樋口 二律背反というか、「妻なのに、その結婚相手を探す」って違和感がありますよね。タイトルありきで書き始めたものなんです。

川上 放送作家として台本を書いていたとはいえ、小説を書くとなると、まったく勝手が違ったのではないですか。

樋口 違いましたね。小説を書くにあたりまず僕がしたことは、向田邦子さんや東野圭吾さんなど著名な小説家の本を10冊ぐらい机に積み上げることでした。それで、読んでいていいなと思ったフレーズは、ネタ帳を作成してメモしていきました。例えば、「腕を掴み、アゴをしゃくった」という短い一文がありますが、状況がありありと思い浮かびませんか? もちろん、フレーズをそのまま使うことはパクリなのでしませんが、それをヒントにすることで、似たような状況を描きたいときに、すごく参考になりました。

川上 まずは、マネてみることから始まることは多いですよね。

樋口 「学ぶは、マネる」って言いますよね。自分の中でいいと思ったフレーズをアレンジして熟成させていけばオリジナルになっていきますからね。

小説を書いたことで、1時間番組の台本が
楽に書けるようになった

川上 小説を書いたことで、それが放送作家の仕事に何かしらの変化はありましたか?

樋口 ありました。小説って、200数十ページを起承転結を考えて書かないといけない。そうなると、1時間番組の台本なんて楽勝で書けるようになるんですよ。これは驚きましたね。今までは、1時間の尺の長さに圧倒されていたのに、「これとこれを並べればできるじゃん!」って、1時間かけて練っていた構成が30分でできあがるようになった。そうなると、残りの30分を使って、オープニングをどうやったらもっとカッコよくできるか考えたり、細部のディテールに割けるようになりました。

川上 小説という別なビジネスを始めることで、本業の放送作家の仕事に“余白”が生まれ、価値提案を尖らせることができるようになったのですね。今後、発売予定の小説はあるのですか?

樋口 あります。それを仕上げることが目下の課題です。アナウンサーを目指す男の話です。

川上 古舘伊知郎さんを念頭に置いているのですか?

樋口 フィクションですが、モデルになっていますね。というのも、古舘さんが『報道ステーション』を降板後、『トーキングフルーツ』(フジテレビ)や『人名探究バラエティー古舘伊知郎の日本人のおなまえっ!』(NHK総合)をはじめ、様々な番組を担当し、その放送作家をしている関係で、週に5日ぐらいずっと顔を合わせる日々が続いたんです。「こりゃ、小説を書く時間がないな。このデメリットをプラスに変えるには、これをネタに小説に書くしかない!」と思って(笑)。

川上 それこそ、儲ける商材へ、マネタイズの転換ですね(笑)。樋口さんが言うと、毒舌だけど悪口には聞こえないですね。

樋口 バラエティ番組って、「目の前にいるおばさんやおじさんに、どうやって悪口言っても怒られないか」を考えるのが仕事でもありますからね。ふれていいところと、絶対に触っちゃダメなところの勘所は鍛えられているはずです(笑)。

目の前にあることをコツコツやっていく。その方が世界にリーチできる

川上 『ボクの妻と結婚してください。』は、映画化になる前に、舞台化され、ドラマにもなりましたよね。韓国や中国で映画化の話もあるそうですね。

樋口 単純に嬉しいな、恵まれてるなと思うんですけど、一方で、放送作家の仕事って、書いたら必ず映像化されるんです。だから、小説を書いてそれが映像化されることについては意外に驚かなかったんですよね。

川上 こうしたメディアミックスについて、ご自身ではどう感じていますか?

樋口 大きな夢を描くのもいいですが、目の前にあることをコツコツやっていく。その方が、様々な情報とリンクして、結果として世界にリーチしやすいのではないか?と思っています。

川上 どういうことですか?

樋口 今、荻野目洋子さんの1985年のヒット曲『ダンシング・ヒーロー』を平野ノラさんがマネして、日本高校ダンス部選手権で大阪府立登美丘高校の生徒が踊って、その動画が世界中の人に見られて……といった具合に広まって、モトネタの曲が再ブレイクしていますよね。

流行を追って情報過多になるのではなく、目の前のことをコツコツやっていれば、いずれその情報は自ずと人々の目にふれ、耳に入り広がっていく……。それを最近、実感することが多いですね。

川上 なるほど。本日は、お忙しい中、貴重なお話を聞くことができて刺激を受けました。どうも、ありがとうございました。

樋口 こちらこそ、ありがとうございました。

(文・三浦たまみ、撮影・宇佐見利明)

(おわり)

※次回は、1月5日(金)に掲載します。