千鳥が明かす「フツーじゃない漫才」の謎

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音楽、文芸、映画。長年にわたって芸術の分野で表現し続ける者たち。本業も趣味も自分流のスタイルで楽しむ、そんな彼らの「大人のこだわり」にフォーカスしたRolling Stone Japan新連載。記念すべき一組目のゲストは、お笑いコンビの千鳥です。

Coffee & Cigarettes 01 | 千鳥

千鳥。もはや説明の必要もないと思うが、お茶の間ばかりではなく、ビートたけし、志村けんといった笑いを極めた人たちをも笑いの渦に巻き込んでいる今最も面白いと言われている漫才コンビだ。

ボケ担当が大悟。そしてツッコミ担当がノブで、この2人のキャラもネタも唯一無二で、過去の漫才を紐解いても同類の漫才を見つけるのは難しいような気がする。というのも、彼らには師匠がいない。お笑いの学校を出ているわけではない。しかもネタの作り方も独特だ。

普通、漫才のネタはボケ役がネタを書いて、それを稽古しながら完成させていくことが多い。千鳥もネタを作るのは、ボケ役の大悟だが、ネタ帳は書かない。ネタは出すが、ノブと漫才をしながら完成させていくという。音楽でいえば、ジャムセッションに近い感じだ。そして完成したネタは1シチュエーションものだが、ボケの登場人物のキャラクターはとにかくくだらなくて濃い。さらにボケとツッコミの振り幅がこれまた異常に大きく、なんだかわけが分からないまま千鳥の笑いの世界にすっかりと引きずり込まれ、オチで笑うときには馬鹿馬鹿しい千鳥の笑いの世界の中毒にすらなってしまう感じがする。つまり一度観たら病みつきになる……。と、

こんな文章で千鳥の漫才を説明するのは野暮の極みなので、見たことがない人はテレビでもネットでもチェックしてみてほしい。

取材は撮影から始まった。初対面の印象は漫才のときのままで、大悟は威圧感が満載で、ノブは朗らか。この企画のタイトルに沿うなら、大悟がコーヒー、ノブはミルク。そして、大悟は撮影中も、撮影の待ち時間もずっと煙草を吸っている。インタビューの出だしに、そのタバコのことを大悟に聞いてみた。1日2箱。酒を飲むときはそれ以上で、手放すことができないないと言う。ふざけて「オネーチャンとタバコ、やめられないのは?」と聞くと、「オネーチャン」と即答する大悟に「そこ、オネーチャンかい!」とすぐにノブがツッコむ。さすが阿吽の呼吸は結成17年のコンビならではのものだ。

その千鳥の結成の経緯。

2人は地元の高校の同級生だった。先にお笑いを志したのは大悟。高校を卒業すると地元を離れ、大阪へ行きピン芸人になった。一方ノブは広島で就職をしていたが、人生こんなもんかなぁとどこかモヤモヤした日々。そんなとき、大悟から運命の連絡がノブに来た。”俺、大阪でピン芸人で成功しとるから、大阪に来て一緒に漫才せえへん?”と。ノブは、ピン芸人で成功している大悟と組むのなら成功間違いないと皮算用して、会社を辞めて大阪に行った。

「大阪に行ってみたら、大悟、全然売れてせぇへんし」とノブはあきれた顔で当時を振り返る。完全に大悟にハメられたわけだが、大悟は特に反省した様子はなく「ノブも来たそうやったし。あれはついてもいいウソやった」とニヤリと笑う。

聞けば、大悟を頼りにノブが初めて大阪に来たとき、アメ村でキレイな女性に声をかけると、早速朝まで飲めたそうで、”大阪はこんな楽しいことが毎晩なんや”とノブは思い込んでいたという。つまり、どっちもどっちのズルズルな感じで大阪でコンビを結成することになったわけだ。ちょうど2000年の出来事だった。

ただ、最初から今のように漫才がウケていたわけではない。大悟が振り返る。「最初は普通によぉ滑ってました。しかも昔は今より態度が悪くて、2人とも(笑)。だから滑っても今日の客アカンなぁって客のせいにしてましたね」と。ノブが続ける「ウケてはなかったですけど、笑い飯やバッファロー吾郎さんといった先輩たちが、ネタ面白いねぇって言ってくれたんで、これでいいやって思ってました」と。自分たちが面白いと思う先輩の言葉を信じ、ネタの路線変更することなく、キャリアを重ねていった。

そして、2004年からM-1決勝に出場を果たすようになる。M-1決勝は2年連続で最下位だったが、徐々に変なネタをする漫才コンビとして周知されるようになり、その後の活躍は皆さん知っての通りだ。

千鳥の笑いについてノブがこんな話をしてくれた。「ネタに関して言えば、大悟が同じことをやるのにすぐに飽きて、アドリブをどんどん入れてくるんですよ」と。大悟が続く「何度も同じことを同じ感じでやっていると、2人とも機嫌が悪くなってくんです。楽しくないから、ノブは俺に”たまには違うこと言えよ”って顔してるし、こっちもオモロうないから、敢えて違うこと言うとそれでノブが笑うっていう。

しかも、普通の漫才ってオチの大ボケに行くまでに小ボケがあって、そこはちゃんとツッコむもんなんですよ。でも、ノブはネタに飽きてる小ボケの段階で、俺がネタ通りにボケると”お前オモロうないな”って言ってくる始末で。こうなるともう普通の漫才はできへんですよね。台本書かずにネタを作ってきた罠がこんなところにあったかっていう(笑)」

そして、ノブが千鳥の笑いをキレイにまとめてくれた。「これはプロとしてアカンんのやろうけど、究極、僕ら2人が楽しかったら、それでいいかって」。大悟もそれに同意する。「客にウケるのが一番ですけど、僕がノブを笑わし、ノブが僕を笑わす、それが僕らには合っているのかもしれないですね」と。

 
確かに、千鳥の漫才を観ていると、素で2人が笑っているときがある。この瞬間こそが予定調和を嫌う、千鳥漫才の真骨頂の瞬間ということになるわけだ。そして、その瞬間、客である僕らも笑ってしまっている。これが他を寄せ付けない天性の才能の証だ。

笑いの才能は確かだが、不思議と言えば、不思議なコンビだ。

取材中、大悟はずっと横を向いて少し不機嫌な感じでタバコを吸っている。ノブは、取材部屋が少し寒かったのもあり、スタッフが入れたコーヒーを両手でしっかり包むようにして持ち、ゆっくり穏やかに飲んでいる。まったく性格、キャラが違う。その2人がよく17年もコンビを組んでこれたなぁと思ってしまう。ノブが言う。「僕らは完全に役割が分かれているんで。だから大悟が別に変なことしていても腹立たないんですよ。大悟は大悟っていうボケのアホな人間ですから」。大悟がタバコを灰皿において、こちらを見て続けた。「まぁノブじゃなかった
ら大変やろうし、もう絶対ノブとの方がラクやし」と。ノブがのんびりとした口調で続ける。「他の芸人を見ててちょっと想像するんですよ。こいつと組んで、こうしてああして……わぁしんどそう!っていうのがほとんど。そうすると大悟ってやっぱやりやすいんだなぁって思うし、あと意外と真面目やし」と。


Photo = Tsutomu Ono

真面目?と驚くと、ノブは冷静にこう教えてくれた。
「笑いに対して大悟は真面目ですよ。むしろ僕の方がよっぽどズボラで。例えば僕はネタに飽きると滑るようなことを無理に大悟に振るんですよ。そういうときの僕はもうふざけたいだけなんですが、大悟のアドリブはちゃんとウケようとしてるんです。しかもネタ作ろうかって言ってネタ考えてくるんですから真面目ですよ(笑)」と。大悟が続いた「完全に僕の方が真面目やと思います。別にウケようがウケまいがわしらの人生に関係ないみたいな舞台もあるんですよね、おっさんが立食パーティしてるような。そんで滑っても普通は気にしないけど、ワシはどうにかウケようとするんです。で、声も張りめでアドリブをオーバーにやろうとしてるくらいのときに、こいつ結構マジのトーンの小声で『ええやん、もう帰ろ帰ろ』って言ってきますからね」と。大悟は真剣に語っている感じだが、どうにも漫才に聞こえてしまう。

話を聞いていると、千鳥は2人で漫才をしていること自体が幸せなんだろうなぁとつくづく思った。

そこで、改めて聞いてみた。お笑いをやっていてよかったことは?と。まずノブが答えてくれた。「小学校の卒業文集に”夢は日テレの社長”って書いてるくらいテレビが好きやったんで。そのテレビに今出ていて、そのときテレビで見ていた人たちに『千鳥、面白いな』って言ってもらえるのが一番うれしいですね」と。大悟がツッコむ。「日テレの社長ってどんな小学生やったんや?」と。ノブが「そんだけ好きやったから。じゃあ大悟は?」とパスを出す。

大悟が「キャバクラとか行ってキャバクラの女の子が『大悟さんってあんまりこういうお店来ないんですか?』って『そうやな。ワシら別にこんなとこ来んでもなぁ』って言うた後に『そうですよね。女の子寄って来ますもんね』って言われたときっすかね」と答える。すかさずノブが「ゲスいなぁ。実際あるけど、具体的でゲスいなぁ」とツッコむ。大悟が「毎日何十万円もつこうてるおっちゃん見たら『よかった』って思うねん。そんなことせんでもエエから」とわざとらしい得意げな顔で言う。この2人のやりとりで取材部屋で大きな笑いが起きて取材は終了した。
 
取材が終わると、大悟が煙たくなかったですか?と聞いてきた。取材中、自分が話すとき以外は横を向いてタバコを吸っていたので、機嫌が悪いのかと思っていたら、実はこちらに煙が来ないようにするための気遣いだったわけだ。あと数年で結成20周年、2人も40歳になる。

若手にはないこの余裕も彼らの魅力の一つだと思えた。

千鳥
よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。2000年7月結成。
『M-1グランプリ』で名を上げる一方、2013年に第48回上方漫才大賞を受賞するなど、実力派コンビとして定評があり、芸人からの評価も高い。Amazon プライム・ビデオにて現在配信中の松本人志が手がけるバラエティシリーズ「HITOSHI MATSUMOTO Presentsドキュメンタル」のシーズン4への出演も話題に。