極私的! 月報・青学陸上部 第40回

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 箱根駅伝を走る青山学院大の16名のエントリーメンバーが決定した。

 12月12日に行なわれた壮行会には、エースの田村和希(4年)ら主力に加え、初めて箱根登録メンバーに名を連ねた近藤修一郎(4年)らが壇上に上がった。

 今回、印象的だったのは、その近藤らフレッシュな選手たちだ。

 16中9名が初めて箱根駅伝登録メンバーに選ばれた。そのうち橋詰大慧(たいせい/3年)、竹石尚人(2年)、鈴木塁人(たかと/2年)、神林勇太(1年)は、出雲駅伝や全日本駅伝を経験しているが、近藤、橋間貴弥(3年)、山田滉介(3年)、中根滉稀(こうき/2年)、吉田祐也(2年)の5名は大学三大駅伝の未経験者である。


エントリーメンバー16名が顔を揃えた箱根駅伝壮行会

 箱根駅伝を走る選手選考は、主力以外は11月の世田谷ハーフと慶応・日吉での学連1万m記録挑戦会のタイムがポイントになる。実際、今回登録メンバーに選出された林奎介(けいすけ/3年)、吉田、神林、橋間、近藤、山田は世田谷ハーフで上位12位内に入り、林と神林は自己ベスト、他の選手はシーズンベストを出した。さらに学連1万m記録挑戦会では、林、吉田、山田、近藤が自己ベストを更新しており、彼らはしっかりと結果を出した上で登録メンバー入りを果たしたことがわかる。

 特に林は、世田谷ハーフと学連1万m記録挑戦会の2つのレースで自己ベストを更新。「夏からジョグの量を増やして距離に対応できている。長い距離を走ることが得意になってきている」と調子を上げてきており、得意の”一発芸”だけではなく、箱根での快走も期待できそうだ。


 その一方で主力クラスの選手が落選しているのも目につく。4年生の貞永隆佑と中村祐紀だ。貞永は今年、故障で出遅れ、夏を終えても「一度もベストな走りを見せたことがない」と安藤弘敏コーチが嘆くほどだった。昨年は箱根5区を走り、今年はその経験を活かしてさらに、という期待が大きかったが、最後まで調子が戻らずにメンバーから外れた。

 中村も箱根を走れる力が十分にある選手だ。

 2年時に9区を走ったが、3年の時は全日本大学駅伝を走ったものの箱根は走れなかった。今年は4年生として「自分のことだけじゃなく、チームを引っ張る」と意気込んでいた。しかし、全日本大学駅伝の1区(11位)で出遅れ、それが響いてチームは3位に終わった。その責任を重く感じ、メンタル的に大きなダメージを受けたのだろう。

 学連1万m記録挑戦会では各大学のエース級が集った11組を走ったが、気持ちが折れているのが外から容易にわかるほど、走りに覇気がなかった。29分35秒95と自己ベストから1分も遅れ、勝ちにこだわったはずの順位は27位。

 走り終わった後、周囲の声にも反応せず、苦悶の表情を浮かべながら茫然自失の体(てい)で立ち尽くす中村の姿は実に痛々しいものだった。メンバーに入れば、チームの力になれた選手だけに、メンタル的な回復をうまくサポートできなかったのか、非常に残念な落選だった。

 対照的に、この学連1万m記録挑戦会で戻ってきたのがキャプテンの吉永竜聖だ。

 世田谷ハーフでは67分19秒と大幅に遅れ、このままでは箱根は厳しいと思われた。しかし、最終試験となるこの記録会では橋詰や吉田を抑えて29分10秒、トップでフィニッシュした。

「最初は(1km)2分55秒でいって、最後に上げられたら28分台が視野に入るかなと考えていたんですけど、最初から余裕がなくて後輩たちに引っ張ってもらって申し訳なかったです。最後のスパートは、箱根に向けて4年生が士気を上げていかないといけないという思いがありますし、前に走った中間層の選手が本当にいい走りをしてくれたので、最後は自分が締めないといけないと思って体を動かしました。今年は前半からずっと調子がよくなかったので、最後の選考レースでやっと形になったかなと思います」


 吉永は調子が悪かったと語っているが、夏合宿からは練習が十分にできており、その練習がうまく結果につながらなかったことが悩みだった。そのため走りが不安定になり、出雲も全日本も登録メンバー入りしたものの、出走することができなかった。世田谷ハーフではらしくないタイムに終わったが、そこから開き直って学連1万m記録挑戦会に挑み、最終的にタイムと結果につながった。

「個人的には、これでやっと登録メンバーに入る計算が立つかなと思います。チーム全体としてもみんないい走りをしていましたけど、4年生がもうひとつですね。下田をはじめ、不安が見えた選手が何人かいましたので、そこはチームとして課題が残ったかなと思います」

 青学大の3連覇中、その間のキャプテンは箱根でしっかりと仕事をしてきた。藤川拓也(中国電力)は9区で区間賞を取り、初優勝に貢献。神野大地(コニカミノルタ)は5区で”山の神”としての走りを見せて2連覇を達成し、昨年は安藤悠哉がアンカーで安定した走りを見せて3連覇のゴールを切った。吉永も最後の箱根でキャプテンとしてのプライドを示すことになる。

「出雲と全日本が後手後手に回り、自分たちの力を100%発揮できなかったという反省点がありました。箱根はそれぞれがベストの状態で自分の走りをしっかりできれば、優勝は不可能じゃないと思っています。4連覇というプレッシャーがないかと言えば嘘になりますが、あまり考えないようにしています。

 もちろん、先輩たちが築いてくれた強い青山という伝統は続けていかなければならないと思いますけど、最後は一選手として学生生活4年間の最終レースになるので、箱根出走、優勝という形になるように競技生活の集大成となる走りをしたいです」

 吉永は明るい表情で、そう言った。キャプテンとしても選手としても苦しんできた1年間、最後に笑うことができるだろうか。


 吉永は戻ってきたが、ちょっと心配なのが下田裕太(4年)だ。

 出雲駅伝では3区でチームを1位に押し上げる走りを見せた。その代償としてできた足のマメのダメージで、レース後は1週間走ることができなかった。その影響が大きく、全日本では途中で失速してしまった。学連1万m記録挑戦会でも今ひとつの走りで29分14秒60の22位に終わった。レース後、いつもはどんなに結果が悪くても話をする下田がめずらしく無言のまま取材ゾーンを通り過ぎていった。

 下田は大丈夫か――。

 その場にいた多くのメディアがそう感じていた。だが12日、壮行会では明るい下田に戻っていた。

「全日本では、足のことを引きずってしまったけど、今は順調に練習ができていますし、調子も上がってきています。出雲、全日本と走って負けてしまい、とても悔しい気持ちになり、それと同時に心から勝ちたい気持ちが出てきました。このチームで、このメンバーで優勝したいと思うので、それを力に変えて箱根まで練習していきたいと思います」

 下田の起用については、原晋監督も頭を悩ませているようだ。

 本来の状態であれば、往路のエース区間、あるいは昨年走った8区を予定していたはずだ。しかし、マメからフォームを崩し、コンディションも万全ではなく、本来の走りを完全には取り戻せていない。シューズとの相性の問題もある。合わないまま平地で長距離を走ると摩擦が生じてマメができやすくなる。ソックスやインソールなどで対策を練っているだろうが、不安の残る状況だ。

 そのため、原監督は「下田の5区起用もありえる」と語る。

 下田の5区起用は、昨年も構想にあった。ただ、貞永が計算できる走りを見せ、下田を復路の8区に回して優勝に結びつけた。今年は貞永の起用が困難になったので、昨年も山登りの練習をしていた吉田と下田が候補に挙がった。


「不安なのは下田のマメの状態ですね。ペースが速い状況だと難しいと思うので、山の準備をしています。山の方が足のダメージは少ないんですよ。あまり蹴らなくてもいいし、もともと登りの適性もある。1時間12分台で登るので、下りの小野田と合わせて2区間で考えると、そんなに大きく離されることはないでしょう」

 そこには原監督の箱根戦略が見てとれる。

 今年はチーム全体で勝ち切る「ハーモニー大作戦」を掲げたが、それは神野や一色恭司(GMOアスリーツ)といった大エースがいないなか、5区+6区のように選手をセットで考え、全体のタイムを下げないように戦う作戦でもある。

 また、もうひとつの理由が考えられる。

 今年のチームに「共有感」が欠け、危機感を抱いているからだ。今季スタート時、キャプテンのあり方をめぐって吉永と原監督が衝突し、お互いの考えを理解するまでに少し時間がかかった。これは当事者だけの問題ではなかったが、チーム全員がそのことに対して意見や感情を共有させることができなかった。

 さらに4年生をはじめ主力選手に故障者が出て、チームとしての勢いが削がれた。

 昨年も上半期は安藤、秋山雄飛を始め、状態がよくない選手がいたが、夏合宿以降、彼ら4年生をはじめ、ほぼ全員が調子を整えてきた。それは3冠3連覇を達成するために選手が何をすべきか、全選手がそのことを分析して実行し、それぞれの考えを全員が共有したからだ。それが一体感につながり、力を発揮することができた。

 しかし、今年はそこまで至っていない。その危機感を原監督が感じているからこそ「私自身が指揮を執る」と前面に出てきたのだ。

 そこに今年の青学の苦しさが透けて見える。


「結果論ですが、昨年までは箱根駅伝は戦う前から優勝するだろうと思っていました。実際、復路も余裕を持ってスタートしていたので、ラクに勝たせてもらった。優勝した喜びは勝った時よりも(あとから)徐々に盛り上がってきました。今年は春からエースが今ひとつで出雲、全日本と負けています。勝った時は本当に心の底から喜べると思います」

 これまで青学は選手の自主性を重んじ、チーム創りを進めてきた。だが、今年は出雲、全日本を落として、箱根駅伝は原監督が陣頭指揮を執る。それがチームにどう影響し、どういう結果に結びついていくのか。

 そして、選手はお互いの意見と感情を共有し、レースまでに一体感を生み出すことができるか。駅伝王者の底力が試されることになる。

(つづく)

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