埼玉県サッカー協会は今春からスポーツモラルの啓蒙活動に取り組んでいる【写真 : 河野 正】

写真拡大 (全2枚)

元日本代表監督・横山謙三氏が発案、今春開始の画期的なスポーツモラル啓蒙活動

 2014年3月8日、サッカーJ1の浦和―鳥栖の一戦において、浦和の一部サポーターが「JAPANESE ONLY」と記された横断幕をホームである埼玉スタジアムの観客席入場ゲートに掲出。差別的内容と判断したJリーグは、国内サッカー史上初の「無観客試合」という厳しい処分を科した。

 その後も、同年8月には横浜FMの観客が、川崎のブラジル人FWレナト(現広州富力)にバナナを振る行動に出て、差別的行為でクラブには制裁金500万円の処分。G大阪FWパトリック(現広島)、鹿島MFカイオ(現アルアイン)のブラジル人選手にツイッター上で差別的な書き込みがあったほか、今季は浦和DF森脇良太が鹿島の選手に侮辱的な発言をしたとして2試合出場停止、さらにJ2徳島DF馬渡和彰は、中学生のボールボーイを小突いて暴力行為で一発退場となっている。

 サッカー界をあげて差別撲滅とフェアプレーの推進に心血を注ぎ、国際サッカー連盟(FIFA)が差別的言動に関与したクラブに対し、勝ち点はく奪などの厳罰を定めても、人種や民族などを侮辱する「ヘイトスピーチ」などの差別的な言動は後を絶たない。

 そんな中、埼玉県サッカー協会が今春から取り組んでいるスポーツモラルの啓蒙活動は画期的だ。

フェアプレー精神とスポーツマンシップの“二大モラル”徹底からスタート

 4月半ばから同協会のホームページ(HP)にアクセスすると、トップページがすぐにパンチのある文言に切り替わり、約6秒も画面いっぱいに写し出される。

「埼玉県サッカー協会は、世界に先駆けてスポーツモラルの向上を目指します。まずは『試合中 文句を言わない!』からスタートです」

「試合中 文句を言わない!」だけが色違いで大文字になっており、さらにこんな説明が続く。

「『スポーツモラル』とは……。ルールやマナー・エチケットを遵守することで、ゲームの公正が保たれます。これがフェアプレー精神であり、チームメイトや相手選手など仲間を尊重する精神がスポーツマンシップです。この2つが『スポーツモラル』の根幹です」

 メキシコ五輪銅メダリストで、日本代表、J1浦和の監督を歴任した発案者の横山謙三会長は「試合中のルール違反をはじめ、相手選手や審判への暴言が一向に減らないが、ルールやマナーをきちんと守れるようになれば、社会秩序の発展につながる。サッカーを通じてスポーツモラルを向上させることが、勝敗より価値のある社会貢献につながることを示すのが狙い」と趣旨を力説する。

サッカー界の難題改善へ…埼玉県サッカー協会は「フェアプレー日本一を目指します」

 県協会は4月、HPへの掲載と並行して「試合中 文句を言わない!」と書かれたバナーを300枚作製。小学生年代の4種から社会人や大学生の1種まで、傘下の4つの種別委員会に配布して県協会主催の大会会場に掲出することで、選手や指導者、審判員のほか応援する保護者にもスローガンの理解を促した。

 この行動規範は「審判擁護」と誤解されがちだが全く違う。審判の技術向上も目的の一つで、さらに審判への不要な異議によって無駄に消費される時間をなくし、試合環境の改善につなげる狙いもある。

 モラルやフェアプレーというのは抽象論で語られることが多いが、横山会長は「スポーツにはマナーやエチケットなど教育的要素が多い」とし、「例えば選手交代の時、ゆっくり歩いて時間稼ぎをするのはモラルに反する。これをなくすだけでも、日本のサッカーはモラルが高いと世界に発信できるわけです」と述べる。

 横山会長は2006年6月、県サッカー協会専務理事に就任した折、「規律・フェアプレー委員会」という専門委員会の名称を「フェアプレー・規律委員会」へ変更。試合会場では「埼玉県サッカー協会は、フェアプレー日本一を目指します」とアナウンスし、大会プログラムにはこの文言とともにルールを遵守し、審判と相手選手を尊重して戦うことがフェアプレーだと訴えてきた。

 来年はバナーの配布枚数を増やし、縦書きも作成する計画のほか、スポーツモラルに関する表彰も考えているそうだ。

「周りが反対することばかりやってきた」と苦笑する横山会長のもと、埼玉県協会がサッカー界の難題改善へ先鞭をつけた。(河野正 / Tadashi Kawano)