柴 那典が選ぶ2017年洋楽ベスト10 死や鬱をテーマにしたラップミュージックの潮流

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1. Lil Peep『Come Over When You’re Sober, Pt. 1』2. Kendrick Lamar『DAMN.』3. N.E.R.D『No_One Ever Really Dies』4. XXXTentacion『17』5. Ed Sheeran『÷』6. Lil Uzi Vert 『Luv Is Rage 2』7. Cashmere Cat『9』8. Logic『Everybody』9. London Grammar『Truth is a Beautiful Things』10. Tuvaband『Mess』

 雑誌『ミュージック・マガジン』やムック『CROSSBEAT YEARBOOK 2017-2018』にも寄稿しているので、それとの差別化ということもあり、リアルサウンドでは海外アーティストの作品に絞って選出した。

参考:西廣智一が選ぶ、2017年HR/HM/ラウドロックベスト10 暗いニュースの裏にあった傑作たち

 昨年にも書いたことだが、ストリーミングサービスの普及によってポップミュージックのシーンに構造的な変革が訪れているのがここ数年の動きだ。

 そのうえで、2017年のアメリカを中心にした英語圏の音楽シーンには昨年までとはまた違う、いくつかの新しい状況が訪れている。一つはいよいよラップミュージックの売り上げがロックを上回り、本格的にポップシーンの主流となったということ。単なるセールス面だけではなく、刺激的でエキサイティングな同時代性を持った音楽が次々と生まれているのもこのジャンルだ。さらには10代や20代前半のラッパーの台頭も相次ぎ、世代交代の波がどんどんと訪れている。

 そういう2017年の音楽シーンの主役を張ったのは、やはりケンドリック・ラマーだったと思う。ストリーミングサービスが前提になったことで楽曲単位でのリリースが主流になり、曲を集めたものを「ミックステープ」や「プレイリスト」として発表するアーティストも増えた中、一つの世界観やテーマを元にストーリー性を持った表現を徹底して磨き上げたのが『DAMN.』というアルバムだ。つまり今の時代に「アルバム」というアートフォームの有効性を示すという点でも大きな意味を持った作品だと思う。

 N.E.R.Dの『No_One Ever Really Dies』も、まさにそういうアルバム。ここ数年ヒット請負人として世界を席巻してきたファレル・ウィリアムスだが、自身のユニットの久々の作品では社会的なメッセージを込めたアルバムを作り上げている。ケンドリック・ラマーがゲストに参加し警官による黒人男性の射殺事件をテーマにした「Don’t Don’t Do It!」が象徴的だ。

 ただ、それらを差し置いて僕が1位に選んだのはリル・ピープ『Come Over When You’re Sober, Pt. 1』。11月に享年21歳という早すぎる死を迎えてしまった彼のデビュー作だ。90年代のグランジやオルタナティブロックをトラップ以降のビートセンスでアップデートした若き白人ラッパーのリル・ピープは、そのルックスも含めて「行き場所のない若者たち」の鬱屈を引き受ける次の時代のスターになり得る存在だと期待していた。とても残念だ。

 自殺や死、鬱をテーマにした曲が脚光を浴びたのも、2017年の一つの特徴だったように思う。リル・ピープの大半の曲もそうだが、XXXTentacion『17』に収録された「Jocelyn Flores」も、リル・ウージー・ヴァート『Luv Is Rage 2』に収録された「XO Tour Llif3」も、親しい人の自殺や死、それによる消えない心の痛みをテーマにした曲。「XO Tour Llif3」には「頼むよXanny(抗不安薬Xanaxの通称)、この苦痛を取り払ってくれ」というリリックがある。そしてリル・ピープの死因も抗不安薬Xanaxの使用によるオーバードーズだった。

 Logic『Everybody』収録の「1-800-273-8255 ft. Alessia Cara, Khalid」も、自殺をテーマにした一曲。タイトルは自殺予防ライフラインの電話番号だ。リリックでは「死んでしまいたい」という自殺志願者の思いと相談オペレーターのメッセージが多重視点で描かれる。

 そして、これらの曲を聴いていて印象的なのは、ラップが「歌」としての役割を強く持っているということ。リズムやフロウ、リリックの内容はもちろんだが、メロディがとても重要な要素になっている。12月に出るはずだったアルバムが延期になっているのでベスト10の中には挙げられなかったが、下半期最大のヒット曲の一つであるポスト・マローンの「rockstar」もそう。ダークでメランコリックな曲調に乗せて、どこか抑鬱的なボーカルが響く。

 MigosやFutureなどヒップホップのシーンには他にもたくさんの印象的なアルバムがあったのだけれど、個人的なアンテナが強く反応したのは、やはりこういう「歌としての強度」を持ったラップミュージックだった。昨年の年間ベスト企画の原稿(柴 那典が選ぶ2016年洋楽ベスト10 ポップ・ミュージックの“基準”が変わったシーン総括)でも「なんだかんだ言って、僕が好きなのは、音楽に含有されるセンチメントやメロウネスの成分」と書いているので、そういう好みのせいもあるのかもしれない。

 センチメントという意味では、London GrammarとTuvabandの新譜もとてもよかった。London Grammarはハンナ・リードを中心にしたイギリス・ノッティンガム出身の3人組。Tuvabandはノルウェーの2人組。どちらも悲哀に満ちたメロディを透明感ある女性ボーカルが歌い上げるアルバムだ。相変わらず僕はこういうものにとても弱い。(柴 那典)