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◆多様性を求める取り組みに一律目標はそぐわない

 多様な人材を積極的に活用しようとする、ダイバーシティの取り組みが加速しない。ダイバーシティは、性別や人種、年齢や学歴などの多様性を受け入れ、広く人材を活用して生産性を高めるマネジメント手法だ。

 例えば、男女共同参画の取り組みをみると、政府は2020年までに女性管理職の比率を30%にする目標を掲げているが、厚生労働省の雇用均等基本調査によれば2016年の比率は12.1%にとどまっており、前年比わずか0.2ポイント高まったに過ぎない。

 いったいなぜ、加速しないのか。人材開発の関わる演習を繰り返す中で、その原因を分解してみると、どうやら、ダイバーシティの目的と、その目的の掲げ方との間に、不一致感にあるように、私には思えてならない。

 どういうことかと言えば、そもそもダイバーシティの目的は、「多様性」を高めることだ。一方、その目的として、「全国一律」に女性管理職占率目標を掲げられている。多様性を高める目標の掲げ方が、一律であること、この不一致感が、取り組みの推進を妨げている。

◆働き方改革を一律規制が減速させる

 このように申し上げると、多様性を高める目的であっても、多様性を高める度合を数値化しているので、目標は一律となっていても不自然ではないのではないかという反応が返ってくる。

 そのとおりで、目標数値は、その区分ごとに一律で当たり前だ。私が問題視しているのは、その目標を唱えれば唱えるほど、強調すればするほど、その目標をクリアしているか、していないかの判定に労力が割かれる。

 目標数値が独り歩きして、その判定が手法と化す。ここまで来ると、「多様性」と「一律」という真逆の概念が、不一致感をもたらし、取り組みのバリアになってしまう。私がサポートしている企業では、こうした事態に陥っているケースが少なくない。

 目的と目標数値が、目的と手法の不一致感をもたらす事例は、ダイバーシティだけでなく、さまざまなビジネスシーンでみられる。その顕著な例が、働き方改革の推進だ。

 働き方改革で生産性を高めるために、働き方の多様性を実現しようとする。一方、働き方改革実現のための手法として顕著に取り上げられる例が、20時一斉消灯、残業時間の制限といった、一律の規制だ。ここにも「多様性」と「一律」の相反する概念が存在し、その不一致感が、アクションを減速させている。

◆スローガンを唱えるほど笛吹けど踊らず

 「目的と手法は異なっていて当たり前」「目的を実現するために数値目標は必要だ」「全国で実施するので全国で目標を定めるべき」……全国一律目標を定め、それを訴求すればするほど、多様性を実現しようとしている企業の感覚からずれていく。

 それはまるで、スローガンを唱えれば唱えるほど空回りする、いわば笛吹けど踊らず状態だ。女性管理職30%という全国一律目標は、個々の企業からすると乖離があって当たり前だ。20時一斉消灯として全社の一律の規制は、ひとりひとりの社員の仕事の状況から見れば、違和感を覚えさせて当然だ。

 その個別性を斟酌せずに、一律目標を唱えることだけをしていては、各社、各社員を巻き込めないのは自明のことだ。全国一律目標や全社一律規制を設けるなということまでは言うまい。

 しかし、全国一律目標や全社一律規制を唱えることが効果を発揮しないどころか、不一致感を増大させ、笛吹けど踊らずといった真逆の状態を生み出してしまうのであれば、少なくとも、喧伝すべきではない。

◆モチベーションファクターが鍵

 浸透させるべきは、全国一律目標や、全社一律規制ではなく、ダイバーシティにおける多様性そのものを認める施策や事例そのもので、生産性を高める施策や事例そのものではないか。

 それはまるで、商品販売において、全国一律キャンペーンに限界があることと同様だ。全国一律キャンペーンや全国統一話法が、多様化する個別の顧客ニーズに対応できないことは、既知のことなのに、マネジメント施策においては、それが一向に頓着されない。

 営業活動においても、社内のマネジメントにおいても、国の政策においても、個別の企業や個人の多様性をふまえるアクションが不可欠だ。そして、それは個別の企業や個人のモチベーションファクター(意欲が高まりやすい要素)を梃にしていくと効果が出やすい。

【山口博[連載コラム・分解スキル・反復演習が人生を変える]第63回】
<文/山口博>

【山口 博(やまぐち・ひろし)】グローバルトレーニングトレーナー。モチベーションファクター株式会社代表取締役。国内外企業の人材開発・人事部長歴任後、PwC/KPMGコンサルティング各ディレクターを経て、現職。近著に『チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月)、『クライアントを惹き付けるモチベーションファクター・トレーニング』(きんざい、2017年8月)がある。