おきな・くにお/1974年日本銀行入行。同調査統計局調査課長、同金融経済所長などを歴任。京都大学教授などを経て法政大学大学院客員教授。

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大規模な金融緩和策をとってきた米連邦準備制度理事会(FRB)と欧州中央銀行(ECB)が“出口”に向かいはじめ、政策の軸足を量から金利に移してきた日本銀行の動向にも注目が集まるなか、書籍『金利と経済 高まるリスクと残された処方箋』が「週刊ダイヤモンド」の「経済学者・経営学者・エコノミスト111人が選んだ2017年『ベスト経済書』」で第3位に選ばれました。これを記念し、著者である元日銀金融経済所長の翁邦雄氏に、本書執筆の狙いや異次元緩和以降を見据えた注目点などについて聞きました(『週刊ダイヤモンド』2017年12/30・2018年1/6新年合併号の232ページより転載)。

特に「おわりに」を読んでほしい

 金融政策は経済の安定化策である。完全雇用が達成される実質利子率である自然利子率ないし潜在成長率の低下といった構造問題に対処するものではない。

 構造問題を解消するには原因を解決することが必要だ。デフレこそが日本経済をむしばんできた原因とする論があるが、デフレは原因ではなく結果だ。日本の構造問題の根底には、社会保障への不安を含む人口減少に対する悲観がある。これらはインフレになったからといって解消するわけではない。

 本書を著すことで日本の構造問題と金融政策の関係について整理したいと考えた。

 確実にこれから数十年以上続く人口減少への対策も重要だが、団塊の世代はあと数年で後期高齢者になる。それが差し迫った構造問題だ。しかし、高齢化は悲観材料であるだけでなく、実は大きなチャンスでもある。高齢者の生活の質を維持するために新しい需要が多面的に生まれるし、社会構造も変わるからだ。政府や企業がそうした点にもっと目を向けないと日本経済のトレンドは上向かない。

 デフレは、金融政策だけで解消できるのか。金利を下げれば下げるほど緩和効果が上がるわけではない。副作用に目を向けることも必要だ。金利を下げ過ぎると、金融仲介機能が阻害されるため、副作用が効果を上回る。この点をマイナス金利を先行導入した欧州中央銀行は、きちんと説明してきた。日本銀行が、最近「リバーサルレート論」として副作用に言及し始めたのは良いことだ。

 ただ、日銀の副作用についての説明はまだ十分ではない。日銀は、2%の物価目標達成のために必要があればちゅうちょなく政策を調整する、手段はいくらでもある、と言ってきた。しかし、異次元緩和導入後、5年近くが経過しても目標未達である。それでも追加緩和が見送られているのには相応の理由があるはずだ。

 また、長短金利操作付き量的・質的金融緩和の導入で量から金利へと政策の軸足を移し、国債購入額を大幅に減らしているのは副作用に照らして評価できるが、量的緩和は続けるとして国債購入めど額(年80兆円)は維持したままだ。

 本書の一部を立ち読みするなら「おわりに 日本経済はどこにむかうのか」の章を読んでほしい。近年の日銀の金融政策の展開が、なぜ民主主義国家における中央銀行として問題かを書いたからだ。

 中央銀行はどこまで自らの判断で動いていいのか。財政政策に立ち入らず金利操作に専念するのであれば独自の判断で動いていい。

 しかし、異次元緩和以降の日銀はアベノミクスの下で政府と一体となり、財政政策の領域に踏み込んだ。出口では財政の安定性を守ることも重要。政府の協力なしに物価安定は実現できない。(談)

【推薦の言葉】

・「リフレ派」の妄言を打ち砕くための金融の基礎を分かりやすく解説している(森祐司・下関市立大学教授)

・近年の日本銀行の政策を、黒田総裁以前の日銀主流派の考え方によって批判的に分析。著者は金融政策の財政への従属を懸念するが、そうした道に進まざるを得なくなった金融政策の歩みを解説した書ともいえる(米山秀隆・富士通総研上席主任研究員)

・最近の日本経済の問題を、金融政策を中心にバランスよく論じた本で、議論が大変よく整理されている。高まるリスクと限られた処方箋の中で、どのような政策が必要かをあらためて考えさせてくれる本である(福田慎一・東京大学教授)