12月15日、カザフスタンのアスタナで開催された卓球グランドファイナル男子シングルス1回戦。準々決勝進出まで駒を進めた張本智和(写真:共同通信社)

2018年は野球やサッカー、バスケなどに次ぐ新たなプロリーグ誕生の年になる。日本や世界のトップ選手が集結する卓球の「Tプレミアリーグ」が2018年秋に開幕するのだ。リーグの誕生までを密着する今回の連載「Tリーグ 成功への道のり」では、第1回目として「日本の卓球市場の可能性」を取り上げる。

2020年東京オリンピック・パラリンピックの開幕まで、いよいよ1000日を切った。

その東京オリンピック・パラリンピックで、メダル獲得が有力視されている競技の1つが「卓球」だ。14歳でワールドツアー史上最年少優勝を果たした張本智和選手、15歳でオリンピック最年少メダリストとなった伊藤美誠選手の2人の若手選手は、日本のみならず世界に衝撃を与えた。

2017年の世界卓球選手権での水谷隼選手と張本選手の新旧エース対決も記憶に新しいところだ。エース級の活躍と若手の台頭。2020年に向けて順調に強化を進める卓球界には注目が集まっている。

2018年秋、更なる高みを目指して次のステージに突入する。卓球のプロリーグ「Tプレミアリーグ(以下Tリーグ)」が開幕するのだ。2017年11月末に参入チームの公募が終了し、選考を経て2018年1月にリーグ入りする男女各4チームが決定する予定だ。

卓球は老若男女が楽しめるスポーツ?

卓球のラケットを握り、卓球のボールを打ったことがある人は多いだろう。公共の体育館、学校の体育館には必ず卓球台があるし、旅先で楽しむ「温泉卓球」はもはや固有名詞だ。また、卓球界の象徴である福原愛選手が幼少期から練習に励む姿をテレビを通じて多くの人が見ている一方で、公共の体育館では、70代、80代のお年寄りも卓球に興じている。老若男女誰もが気軽に楽しめるスポーツ。それが卓球の一般的なイメージだ。果たして、そのイメージは本当なのか?


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スポーツ・ライフ・データ2016および青少年スポーツ・ライフ・データ2015(笹川スポーツ財団)によると、過去1年間に1回以上卓球をした人(以下、「卓球人口」という)は全国で663万人。全人口のうち、約20人に1人は楽しんでいることになる。

そのうち18歳以上は457万人いるが、性別でみると、男性は239万人、女性は218万人。 女性のほうが人数は少ないが、女性における実施率の高さにより、卓球人口はサッカー人口をも上回っている。年代別にみるとどうだろう。18~30歳代の若い世代の比率が44%を占めており、加えて、高齢者からも人気だ。60代、70代以上でも、オリンピックの競技のなかで4位にランクインしている。「老若男女誰もが気軽に楽しめるスポーツ」。データからも、まさにイメージどおりの結果だ。

世帯収入は、国民全体と比較して200万円未満の割合が低く(卓球人口5%、国民全体20%)、400万円以上800万未満の比率が高い(卓球人口48%、国民全体34%)。職業や収入の観点からは、卓球人口は、「比較的就業状況が安定している中間層」といえそうだ 。


卓球人口は「健康的な」人が多い。国民全体と比較して体力に自信のある人の割合が高く、スポーツ人口と比較してもやや高い(卓球人口19%、スポーツ人口12%、国民全体9%)。また、スポーツ人口と比較しても肥満の比率(卓球人口12%、スポーツ人口19%、国民全体21%)が低いという結果だ。

老若男女の幅広い層に親しまれ、そして、就業状況が安定しており、健康的。マーケットとしても非常に魅力的なのだ。

Tリーグの誕生により卓球人口は増えるか?

マーケットは、Tリーグの開幕でどう変化するだろうか。

Jリーグの開幕とサッカー人口の変化から、Tリーグ開幕後の卓球人口の変化を予想してみよう。公益財団法人日本サッカー協会(JFA)のデータボックスによると、25年あまりで、登録人数は65万人から93万人と約1.4倍以上に増加した。


サッカー人口は、J1開幕(1993年)、J2開幕(1999年)を経て、2000年時点で79万人まで増加。また、2002年の日韓ワールドカップ以降にさらに増加し、2010年時点で90万人に達している。プロリーグ開幕とサッカーでは世界最高峰の競技会であるワールドカップを挟んで、サッカー人口は、着実に増加しているのだ。

Tリーグ開幕を控えた卓球が置かれている状況は、1990年代から2000年代にかけてのサッカーと非常に良く似ている。来秋のTリーグ開幕の後には、卓球としては世界最高峰の競技会であるオリンピック・パラリンピックが控えているからだ。

仮に、Tリーグ開幕(2018年)東京オリンピック・パラリンピック(2020年)が、Jリーグ開幕、ワールドカップと同じインパクトを卓球にもたらすなら、2030年には卓球人口が663万人の約1.4倍、958万人に増える目論見になる。


サッカー人口の増加の背景には、日本サッカー協会やJリーグの戦略的な事業展開や草の根的な地道な取組があったことは言うまでもないが、Tリーグにも参考になりそうなポイントが2つある。1つは、世界レベルのトップ選手、もう1つはメディアだ。

Jリーグの初期は、世界的なトップ選手が数多くプレイしていた。ジーコ、レオナルド、リトバルスキー、リネカー、スキラッチ、ストイコビッチなど、名前を挙げればきりがない。ワールドカップ優勝メンバー、ワールドカップ得点王を含む、いずれも世界的な名選手たちだ。このようなトップ選手のプレイを身近で見た多くの子どもたちが、嬉々としてサッカーを始めたことは想像に難くない。また、メディアの影響も大きい。1993年の新語・流行語大賞は「Jリーグ」だ。メディアに多く取り上げられたことの証だろう。

TリーグもJリーグのように世界レベルのトップ選手を引き寄せることができるだろうか。実は、卓球のプロリーグは、サッカーよりも各国のリーグで世界のトップ選手がはるかにプレイしやすい仕組みづくりを進めている。来秋の開幕には、多くの世界のトッププレイヤーがTリーグでプレイしている事が必要条件だ。

メディアの露出はすでに高まりつつある。水谷選手、張本選手、伊藤選手などの活躍により、多くの人が以前よりも卓球を目にするようになっている。プロリーグ、オリンピック、世界的なトップ選手、メディア露出。条件は整っている。ポテンシャルは十分だ。卓球人口1000万人は、決して夢物語ではないのだ。

卓球の市場性は1人あたり2000円なのか?

一方で、「スポーツ用品市場に関する調査」(矢野経済研究所)によると、卓球用品市場は、2012年の98億円から右肩上がりで増加しているものの、2017年(予測)で133億円だ。卓球人口1000万人のインパクトからするとあまりに小さいと感じないだろうか? 現状の663万人で単純に1人当たりに換算すると、わずか2000円/人。サッカー人口90万人に対して、同調査のサッカー用品市場は630億円だから、やはり小さい。

ただし、同調査は、「メーカー出荷金額(国内出荷額)ベース」。つまり、各メーカーが「これは卓球用品です」と分類して出荷した額の積み上げである。公共の体育館を訪れると、いわゆる「卓球ウェア」を着てプレイしている人が比較的多いが、娯楽施設等の卓球スペースでは、一般的なスポーツウェア、Tシャツとして出荷されているウェアを着ている人のほうがはるかに多い。

また、消費ベースで見た場合は、卓球用品以外にも体育館までの交通費や施設使用料、教室に通っていれば月謝等もあるだろう。卓球市場は、130億円水準を大きく超えている可能性がある。仮に1人当たり1万円/年を消費したとすると、現状で663億円。将来的には1000億円の市場になる試算だ。

近年の卓球人気の高まりにより、飲食をしながら卓球ができるレストラン・バーなどの新たなビジネスも生まれており、Tリーグが卓球の付加価値を高めることで、さらに大きな市場に成長する可能性を秘めている。

日本のスポーツ産業の市場規模は、5.5兆円。スポーツ庁は「スポーツ未来開拓会議」の中間報告書の中で、その市場を2025年までに15兆円に成長させことを目標としている 。Tリーグの開幕が、社会や経済にどんなインパクトをもたらすのか。来秋の開幕に向け機運は高まっている。

(文中一部敬称略)

(共著者)

白井 優美(しらい ゆみ):三菱総合研究所 環境エネルギー事業本部 研究員

小屋敷 洋平(こやしき ようへい):三菱総合研究所 社会ICTイノベーション本部 研究員