高収入世帯"子供の言いなり"で赤字100万

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夫婦あわせて年収は1000万円超。ところがこの1年で貯金額が100万円も減った。大きな買い物はしていない。赤字の原因は、「3人の子ども」。調べると月12万円超の塾費が家計を圧迫していた。母親は「必要なところに必要なだけお金をかけているだけ」というが、この家計をどう立て直せばいいのか――。

■大きな買い物をしていないのに貯金100万円減の謎

「社内預金がだんだん減っているんです」

年の瀬に家計相談に来たのは、パートの主婦Jさん(46)。会社員の夫(47)も一緒です。1年ほど前までは夫の会社の「社内預金」として380万円の貯金があったそうですが、現在は280万円ほどで、この1年で100万円も減ってしまったそうです(ほかに証券口座に110万円分ほどの投資信託を保有)。

Jさん家は5人家族。ご夫婦の間には、高校3年生の長男、高校1年生の次男、中学1年生の長女と3人のお子さんがいます。「特にぜいたくはしていません。必要なところに必要なだけお金をかけている」(Jさん)そうですが、家計はほぼ毎月赤字とのこと。

Jさんの希望は、(1)月13万2000円の住宅ローン(残り20年)をできるだけ早く完済すること、(2)3人の子どもが大学進学できるだけの教育費を貯めること、(3)自分たちの老後資金を作ることです。現状をきちんと把握し、改善していかないと、この希望は1つもかなえられません。

なにせ1年で貯金が100万円も減っているのです。聞けば、大きな買い物をしたわけでもないそうなので、いちばん疑わしいのは毎月の支出です。このため家計状況を細かくチェックしていきました。

▼手取り世帯月収は52万円、賞与合わせて年収1000万超だが……

手取り月収はご夫婦あわせて52万円ほどで、手取りボーナスは昨年から見ると1.5倍ほど増えて、夏冬各70万円ほど。税込みの世帯年収は1000万円を超えています。それにもかかわらず、ボーナスが残らないほど、毎月赤字が出ているのです。

月の赤字額は平均4万円。支出オーバーが恒常的になっていると予想できます。意識せずボーナスに手を付けたり、貯蓄(社内預金)から引き出したりして生活費に補填しているので、赤字の意識が薄く、「いつの間にかお金がない」という状況に陥っています。

■子ども3人に湯水のようにかける「教育費と食費」

支出のなかで目立つのは、月12万4000円の教育費、そして月9万3000円の食費です。3人とも公立学校に通っているのに、なぜこんなに教育費がかかるのでしょうか。子どもたちを塾に通わせているのは「受験に備えて」ということですが、次男と長女はまだ高1と中1です。子どもたちに聞くと。「友だちがみんな通っているから」と話します。3人がそれぞれ2つの塾に通って、1人あたりの塾代は月4万円。これでは教育費がふくらむのも当然です。

食費も、「普段の食事はぜいたくしていない」(Jさん)といいますが、それでは月9万3000円になるはずがありません。理由を探っていくと、これも子どもが関係していることがわかりました。塾へ行く前に「小腹がすいた」という子どもたちのために、インスタント麺や冷凍食品、お菓子などを大量に買い置きしていたのです。学校から塾へ直行する場合は、「コンビニで何か買いなさい」と小遣いのほかに、夕食代を渡していました。

冷凍食品やお菓子を家に常備しておくと、子どもは塾の前の「間食」が当たり前になってしまいます。それに慣れれば、夕食まで我慢することはできません。親は食材のストックが底をつきそうになると、「なくなったら子どもがふびんだから」とせっせと買い足しをする。そんな悪循環になっているようです。

▼収入を使い果たし、足りなければ貯蓄を切り崩す悪循環

その他、気になる支出はまだありますが、主に子どもにかかるお金が原因となり、収入分をすべて使い果たし、足りなければ貯蓄を切り崩すという悪循環に陥っているようでした。貯蓄を減らさず、むしろ増やしていくためには、毎月の収入の中での「やりくり」が必要です。

はじめは、「かかるものはかかるのだから(結果的に赤字になっても)仕方がない」と話していたJさんも、次第に、ボーナスが増えたのに貯蓄が100万円も減ってしまった事実を直視するようになり、自分の考えは間違っていたと考えるようになりました。

「(住宅ローンの早期返済などの)希望をかなえるには、支出のこだわりをなくし、妥当な節約をしていかなくてはなりませんね」

こうアドバイスすると、「わが家の場合は、どのようにする事が一番よいのでしょうか」とJさん。やらなくてはいけないという気持ちになってくれたようです。

■月9万8000円の支出削減に成功。その方法とは?

まず、冷凍食品やインスタント食品の買い置きを控えることにしました。子どもたちの「間食」も最低限にするよう心がけました。その効果で、食費は月2万円以上も減りました。

また通信費と被服費も1万円以上減らすことができました。通信費については、家族全員のスマホを格安な回線に乗り換えました。また洋服は、必要度の高いものから購入するように買い方を変えました。

最も費用が大きかった教育費は、減らしづらい費目です。Jさんは家族会議を開いて、子どもたちと十分に話し合い、受験生(高3の長男)は塾費は維持する一方で、受験生ではない高1の次男と中1の長女については、通う塾を必要最低限にすることにしました。最終的な判断を子どもたちに任せた結果、長男はそのままですが、次男と長女は塾を2つから1つに絞ることになり、月4万円を減らすことができました。

このように削減していくと、合計9万8000円の支出を削減することができました。その結果、毎月、約4万円の赤字は、一気に6万円の黒字に転じ、ボーナス頼みの生活をあらためることができました。もちろん貯金を取り崩す必要はありません。現在は黒字分を、住宅ローンの繰り上げ返済や教育費の積み立て、老後資金の準備にそれぞれ回しています。

▼「他の家庭も同じくらいお金をかけている」

「やらなくてはいけないとはわかっていたんです。でも、なかなか変われませんでした」

Jさんはそう振り返ります。「ウチは塾費や食費が高いな」。そう思うことはあったのですが、「みんな(他の家庭も)同じ。それくらいお金をかけている」と思い、つい「赤字の原因」から目を背けてしまっていたそうです。

今回、現状としっかり向き合うことで、収入にあったお金の使い方を身につけることができたようです。Jさんは「他人の状況に左右されず、わが家なりの正しいお金の使い方を見つけなくてはいけないことを実感しました」と話します。

「みんなと同じ」は、子どもだけでなく、大人であっても気になることです。しかし、「隣のお宅」は案外、しっかり家計をコントロールして、支出にメリハリをつけているのです。お金をかけている部分だけをみて、誤解してはいけません。

隣の芝生は青く見えるものです。それにつられてしまうと、いくらお金があっても足りません。わが家はわが家。現状としっかり向き合い、支出に優先順位をつけていきましょう。

■何をいくら削ったか?「家計コストダウン額ランキング」

【家計コストダウン額ランキング】

1位 −4万円 教育費
受験生以外のきょうだいが通う塾をひとつずつ少なくした
2位 −2万5000円 食費
インスタント食品、レトルト食品、お菓子の買い置きを控えた
3位 −1万1000円 通信費
家族全員分を格安スマホに変えた
3位 −1万1000円 被服費
優先順位を考えて、必要度の高いものを購入するようにした
5位 −9000円 日用品費
買いだめをひかえ、残量を意識するようになった
6位 −2000円 その他
使途不明金ができるだけ少なくなるように注意した

(家計再生コンサルタント、マイエフピー代表取締役、ファイナンシャルプランナー 横山 光昭 写真=iStock.com)