椿広計氏

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 日本のモノづくりを代表する企業グループで品質管理の不正が相次いでいる。これを機に何を見直し、何を学ぶのか。待ったなしの交際競争の中で品質管理と経営はどうあるべきか。日本品質管理学会前会長で統計センター理事長、筑波大名誉教授の椿広計氏に聞いた。

 ー一連の品質不祥事に対して学会として声明を出しました。
 「三菱自動車の燃費不正の際に緊急声明を出したが社名は伏せていた。今回、神戸製鋼所や日産自動車と続き声明には社名を明示した。理事会の全員一致で決めたが、いろんな意見を踏まえての結果だ。個社の不祥事でなく、日本企業全体が考えるべき問題と捉えてほしい。学会としてこの不祥事を分析し、再発防止策をまとめることになる」

 「特に日産自動車はショックだった。デミング賞を4度受賞するなど、90年代は品質管理(QC)を代表する企業だった。とても優秀な人材がQCをけん引していた」

 ー日本の産業界とQCの歩みを知る者として、現状をどう見ますか。
 「戦後は検査官が現場に行くその日だけ、数値が良くなることが多々あった。QC活動では現場のデータがしっかりしないと改善にならない。QCの第1世代の先生は『データをみたらウソと疑え』と教えていた。データがなければ改善できないと啓発し、現場の文化を作っていった。文化とデータが整い、自律的に問題解決する現場ができた。これが日本品質につながっている。データを改ざんする現場もあった。いまの現状を先生が知ったらどう思うだろうか。私は顔を合わせられない」

 ー一般に製品の開発当初は要求スペックが厳しくても、量産や製品普及が進むと不良原因が明らかになり、徐々にスペックを緩和してコストダウンにつなげます。近年、サプライヤーとの関係が崩れ、過剰品質が残るようになったのでしょうか。
 「製造ラインごとに工程能力指数(要求スペックと製造スペックの比)を把握することは基本中の基本だ。指数に余裕のないラインからカイゼンする。工場長はすべての製造ラインの工程能力指数を把握しているか、わかるようにしているはずだ」

 「顧客とのカイゼンは、製造業のサービス化の視点で重要だ。単価勝負でなく、相手の要望を理解してコストダウンに貢献することで、顧客との関係を築く。サプライヤーは値下げ要求をただ飲めばいいのではない。調達側はサプライヤーを育て、共に賢くならなければいけない」

 ー派遣社員の増加など、現場の流動性向上がQC活動を難しくしていませんか。
 「昔から期間工は重要な戦力で、日本企業の新興国工場では教育水準の高くない従業員と品質を作り込んできた。誰でもわかりやすい作業標準をつくり、当たり前のように作業をすれば自然に品質が作り込まれるよう製品を設計する。標準化と人材育成、設計段階での品質の作り込み、これはQCの基本であり変わらない。団塊世代の退職でQC活動をけん引する人材が少なくなったことはある。一連の不祥事はそれ以前の問題だ。担当者が故意にデータを改ざんしている」

 ーカイゼンに人工知能(AI)技術が導入されます。影響は。
 「異常検知や原因分析など、IoT(モノのインターネット)やAI技術で改善点の検出感度が飛躍的に向上する。新技術はカイゼンのPDCAを回す強力な武器になる。だがデータが信頼できなければ元も子もない。データを書き換えていた現場では、元のデータは残っているのだろうか。捨てられていたらどうにもならない」

 ー日本の経営者は工場長、欧米の経営者はビジネスマンと皮肉られて来ました。経営層と現場の関係は。
 「QC活動は経営トップが関与していることが重要だ。現場の文化醸成や人材育成への影響が大きい。90年代のバブル崩壊のころから、品質管理はトップの仕事ではなくなった。現場が育ったからとも言えるが、品質保証部の仕事になり、企業組織のパーツの一つになってしまった。だからといって犢場長瓩社長に返り咲くことは難しいだろう。だが品質は日本企業の競争力の源泉だ。これを失う道は選べない」

 ー信頼回復策は。
 「JISやISOなどの第三者認証への信頼が崩れ、売り手と買い手がその都度、検査することになれば、品質保証のコストが跳ね上がる。それを防ぐための第三者認証であり、信頼だった。一連の不祥事は中国や韓国企業にとっては格好の商機になるだろう。認証機関が総点検して日本の信頼を回復する方法もあるが費用が膨大になる。信頼を失墜させた組織が払うことになるとしても、負担できるものなのかわからない」

 ー品質管理の進化が遅れますね。
 「“品質”は本来、顧客の求める価値に対しての提供する価値の保証を指す。現在の猊兵銑瓩鷲堽百浜など非常に狭い意味になってしまっている。これからはデータで顧客の求める価値を見える化して、その変化を予測、先回りして価値を提案する。データをもとに顧客と一緒にカイゼンを進め、顧客ごとに価値を保証していく。次の『日本品質』をつくる時期に来ている」
(聞き手=小寺貴之)