大企業のマーケターたちは、「アジリティ(機敏さ、すばやさ)」の大義名分のもと社内の構造改革を行い、部門の枠を超えて協働することを推奨しているが、ここで問題が浮き彫りになっている。社員は好きでもないオープンオフィスのフロアで仕事することを余儀なくされ、協力するどころか、大きな声で話す同僚に腹を立てている状態なのだ。

「大きな文化的な問題だ」



会社の執行部は、シリコンバレーの動きを取り入れようと、次々とフロアのオープンオフィス化を推し進めてきた。マーケターは、「スクラム」やアジャイル方法論などの、テック系企業で使われる言葉や社内規範を取り入れはじめている。パーティションはクリエイティビティにとっての邪魔者とみなされた。だが、多くのマーケターによると、その結果はさまざまだという。オープンな仕事場は、データサイエンスやマーケティング、そしてデザインなど、さまざまな部門間のコラボレーションを促進するためのものだった。だが、このオープンオフィス化の試みは、当初は表面的な変化を起こしたものの、その意義は徐々に薄れていった。

「これには多くの問題があり、好ましく思わない者も多い」と、アメリカのブランドのマーケティング部門のトップのひとりは語る。「彼らは、仕事を片付けられる気がしていない。そんななか、CEOをはじめとした重役はプライベートな空間を保ったままだ」。

「いま、私たちは大学の図書館で働いているようなものだ。私にとって、これは大きな文化的な問題だ」と、その人物は続けた。「自分の仕事場を持っていた人に対して『楽しもう! コラボレーションしよう!』とだけ伝えて、オープンオフィス化するなんてありえない。何か別の大義名分が必要だ」。

「サイロはなくならない」



「長年機能してきた昔ながらの会社のやり方を変えるのは、いわばタイタニック号の舵を切ろうとしているようなものだ」と、ブランドコンサルティング企業のクラフトワークス(KraftWorks)創設者のニール・クラフト氏は語る。「このような大きな企業文化の改変を行なっても、うわべだけの変化になりがちだ。机を動かすだけでコラボレーションが円滑に行われるなんてありえない」。

人の働き方を変えるような、このオープンオフィス化の流れと考え方は目新しいものではなく、また湧き上がっている不満もいまにはじまったことではない。環境心理学に関する定期誌『環境心理学ジャーナル(Journal of Environmental Psychology)』が2013年に行なった、300社の4万人に対するアンケート結果によると、仕事場での大きな不満のふたつは、騒音とプライバシーの欠如であった。だが、これを他人事だと思っている社員も安泰ではない。大企業に務めるひとりのマーケターによれば、1600人の社員の約90%を、個室からオープンオフィスに移そうとしているという。

「どのくらい憤慨しているかはわからないが、理解はできる」と、このマーケターは語る。「向かい合って座っているのだから、サイロがなくなるということはない。働き方の考えは、皆それぞれ違うし、顔を向き合わせている以上は、その考え方が変わることはないだろう」。

「モチベーションが下がる」



社員たちが気にかけているのは、プライバシーが失われたことだけではない。何人かのマーケターによると、この変化によって、プロセスや意思決定にあたっての議論が以前よりも多く耳に入ってきてしまうため、必要のない議論に加わらなければならず、結果としてディレクターの管理業務が増えてしまったのだという。そして、これは在宅勤務を希望する人が増えている要因でもある。

また別のマーケターは、「サイロを壊すには至らなかった。多くの人は下を向き、縄張り意識を強めてしまった、というのが実情だ」と、匿名を条件に語ってくれた。「在宅勤務者が増えており、テレコミューティングの文化が強まっている。彼らは、てきぱきと仕事を片付けられる場所がないと思っている。週に1日だった在宅勤務は、3日になっている。距離感は広がる一方だ」。

一方では、空間と経費を節約する、というオープンオフィスのフロアスペースの本来の意義を見い出しているオフィスもある。ひとりのマーケターによると、彼女は12人のチームのオフィスのレイアウトを刷新し、8つの机を置いているが、これは常に4人が在宅勤務するという想定によるものだ。

「基本的に、チーム一緒に働くことでモチベーションが下がる」と、その社員は語った。

オープンオフィスの成功例



仕事の環境を刷新することは、必ずしも間違いというわけではない。ジョンソン&ジョンソン(Johnson & Johnson)でデジタルパートナー部門のグローバルディレクターを務めるエイドリン・ラーイエ氏によると、小さなグループに権限を与えて意思決定を促すという観点で、過去5週間、デジタル部門のチームが少人数編成で動いていたという。それぞれのチームは、プラットフォームのエキスパートや、コンテンツ制作やデータ分析などの、デジタルキャンペーンに関わるさまざまな部門の代表者で構成された。このような編成のチームでは意思決定も速く、お役所的な仕事を省き、約1カ月分の仕事が短縮できたという。

「改変を行なっている理由をきちんと説明することに尽力した」と、ラーリア氏は語る。「誰かと一緒に仕事をする必要がある者は席をともにし、自分自身でも動くことができる。いま一番大事なのは、こういうことだ」。

Hilary Milnes(原文 / 訳:Conyac)