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先週末の観客動員数1位は『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』でした。しかし前作の『フォースの覚醒』に比べて動員は約1割減。近年のアメコミ映画が「続編が前作を上回る」という傾向になっているのとは対照的です。なぜなのか。ライターの稲田豊史さんは「むしろたったの1割ダウンで済んだ」と考察します――。

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『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』

■製作国:アメリカ/配給:ディズニー/公開:2017年12月15日
■2017年12月16日〜12月17日の観客動員数:第1位(興行通信社調べ)

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■なぜ「続編が前作を上回らない」のか

「年末年始」はゴールデンウィークと並び映画興業の大きな山です。この山に向けて大作がひしめく中で、先週末の観客動員数1位は『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』でした。1977年に第1作が公開された世界的SF映画シリーズの最新作(第8作)ということで、首位スタートはほぼ予想されていましたが、注目したいのは、ちょうど2年前の2015年12月に公開された前作(第7作)『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』との比較です。『フォースの覚醒』は土日2日間で興収12億4502万円。今回の『最後のジェダイ』は同11億2580万円。約1割減といったところでしょうか。

続編が前作を上回らない。これは前回言及した「アメコミ映画」とは対照的です。アメコミ映画は続編を重ねるごとに新規顧客を開拓し、多くの作品が興収を上乗せしています。前回、その理由について「観客の目的がストーリーの完全把握ではなく、世界観に浸ることだから」と述べました。

もちろん「スター・ウォーズ(以下SW)」シリーズにも、豊かで魅力的な世界観があります。それなのに、なぜアメコミ映画のようにはならなかったのか。それは、一見さんが敷居をまたぎやすい仕掛けが、アメコミ映画ほどは作中に用意されていないからです。

■人物・組織名など「固有名詞」が膨大

アメコミ映画は複数の作品間でストーリーが複雑につながっているとはいえ、1本筋の物語ではありません。『アイアンマン』『キャプテン・アメリカ』『マイティ・ソー』など、いくつかのヒーローの物語が同時並行で描かれるので、観客はあるヒーローだけを追いかけても楽しめます。作品のテイストもシリアスからコメディタッチまでバリエーション豊かですから、好みの作品をアラカルトで観ることも可能。また、シリーズ途中で旬の俳優をテコ入れ的に起用することで、常に新規顧客が興味を持ちやすい状態に保っているという工夫もあります。

しかしSWシリーズのストーリーは基本的に1本筋です。広大な宇宙と多くの惑星を舞台にした壮大な物語なので、過去の出来事をきっちり押さえていないと、現在起こっている事件の意味がわかりません。神話的構造を持つ世界観は(ちゃんと理解しようとすれば)難解で、善悪の概念に関する哲学的な問題提起もあります。人物・組織名などの膨大な固有名詞は覚えるだけでも大変です。最近のSWシリーズは、「多少、ストーリーが追えていなくても楽しめる」ような間口の広さを持ちあわせていません。

SWシリーズの主要な(そして公開初週末に劇場に行くような)お客さんは、『フォースの覚醒』からの新規層もある程度いるとはいえ、基本的には長らく過去作に親しんでいるオールドファンなのです。前作『フォースの覚醒』では、旧三部作(77年〜83年に製作された最初の3本をこう呼びます)に登場したメインキャスト3人の役者が、年を取った同じ役で出演していることが一部で話題になりました。しかし、『フォースの覚醒』ではじめてSWに触れるような若い観客にとっては、あまり関係のないことです。

■旧三部作のファンを喜ばせる内容に

改めて『最後のジェダイ』を観てみましょう。おそらく若い観客は、「なんだか画面が古臭い」と感じるはずです。これは40年前のメカデザインや衣装のテイストを律儀に踏襲しているだけでなく、意図的に旧三部作の「あの時の画面タッチ」を再現しているからです。

さらにCG一辺倒ではなく、なるべく実景の屋外ロケや実物大のセット、パペット(操り人形)などを使って撮影している点や、昨今ほとんどの映画が採用しているデジタル撮影ではなく、大半をアナログで、すなわちフィルム撮影で作っている点なども、良い意味での「昔っぽい見た目」に拍車をかけています。

旧三部作の引用やオマージュもたくさん出てきます。アメコミ映画にも、シリーズ過去作を見ていれば「ニヤリ」とできるシーンはよく挟まれていますが、SWはその比ではありません。旧三部作に登場したキャラや小道具、旧三部作の意趣返しのようなシーンやセリフが、メジャーなものからマイナーなものまで、観客の注意力に挑戦するかのごとく登場するのです。

■『フォースの覚醒』ほどのフィーバーはなかった

ここまでの解説で、いかにSWが間口の狭いシリーズであるかがわかったと思います。だからこそ、アメコミ映画のように末広がりの興収とはなりませんが、逆にこうも言えます。

盤石のコアファンに支えられているからこそ、初週末の興収は“たったの”1割ダウンで済んだ、と。

しかも、この話には続きがあります。興行ランキングは土日の観客動員数で決まるため、2作の興収も同じく初週末土日の数字で比較しましたが、実は『フォースの覚醒』は金曜日が初日、『最後のジェダイ』は木曜日が32館限定の前夜祭興行で金曜日が初日でした。そのため、土日興行のみの数字は先述の通り「1割減」なのですが、公開から日曜日までの動員をすべて「初動」としてカウントとすると、『フォースの覚醒』は初動3日間で16億1934万円、『最後のジェダイ』は初動4日間で16億1717万円。集計日数が異なるのであくまで参考値とはいえ、初動で大くくりすれば、2作はほぼ並んでしまうのです。

以上を踏まえて、2年前を思い出してください。2015年12月、日本国内にはSWフィーバーが吹き荒れていました。前作(第6作)から実に10年ぶりの新作。2019年まで続く新たなる三部作の第一章。監督は生みの親であるジョージ・ルーカスからJ・J・エイブラムスにバトンタッチ。シリーズ屈指の人気キャラであるハン・ソロが32年ぶりに登場と、SWファンや映画ファンがテンションを上げざるを得ないワクワク感に満ちていたのです。

メディアでの露出もすさまじいものでした。シリーズではじめてタイトルに「エピソード7」といったナンバリングを入れなかったことで“続編感”が薄れ、「今までのシリーズを観てなくても楽しめる!」といった紹介の仕方も多く見られました(もちろん、そんなことはないのですが)。

印象的だったのは、初の女性主人公だったからか、女性誌や女性向けメディアでも報道が相次いだことです。確かに「強い女性が運命を切り開く」という切り口はありましたが、20〜30代の女性に「おっさんホイホイなSF映画のパート7」をいきなりオススメする姿勢には、感心するとともにちょっとあきれた次第です。

■熱狂度は1割どころのダウンではないはず

しかし今回の『最後のジェダイ』に、『フォースの覚醒』ほどの喧騒はありませんでした。10年ぶりだった前作と違い、わずか2年ぶりの続編。しかも1年前の16年12月には外伝的ストーリーである『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』が公開されており、待望感や新鮮味は明らかに薄まってしまっています。周囲でのSWファン、映画ファンの熱狂度も、『フォースの覚醒』ほどではありませんでした。2年前、あれほどSNSなどで熱狂していたのに、「今回は観る気がしない」と手のひらを返していたオジサンもいたほどです。

特にSWファンでも映画ファンでもない人は、さらに興味が薄れているでしょう。あくまで筆者周囲の話ですが、2年前の『フォースの覚醒』では、SWファンの友人に連れられ、お祭り気分で土曜日の劇場に足を運んでいた20代女性が、「今回はDVDでいいかな」と言う始末です。名実ともに、いかに2年前が「お祭り」だったかがうかがえます。皆さんの周囲にも、そういう方が結構いるのではないでしょうか。

このような熱気の低下が、(体感ではありますが)1割減どころではなかったことを考えれば、土日の興収が前作比“たったの”1割ダウンにとどまり、かつ初動がほとんど変わらなかったのは、むしろ大健闘と言えるのではないでしょうか。要は、前作『フォースの覚醒』を宣伝の勢いに乗せられて「よくわかんないけど流行ってるから最初の土日に観た」層が、“たった”1割しかいなかった、ということです。

■「観るべき人に一人残らず観せる」ことが重要に

かつて映画興行という商売は、「事情をよくわかっていない人も、力技の宣伝で劇場に来させようぜ」という体育会的発想で回っていました。もともとその作品に興味のない人、本来のターゲットではない人もメディアの物量攻勢で強引に興味を持たせる、例の手法です。大作日本映画が公開される数日前から、出演者たちがたくさんの情報番組やトーク番組に朝から晩まで出演し続けるのは、その典型です。

しかし、そのような宣伝の効果は、限定的なものになりつつあるようです。それを示す格好の事例が、『最後のジェダイ』公開の1週前、12月9日〜10日のランキングに現れていました。

この週は、東宝が正月映画として製作した大作『DESTINY 鎌倉ものがたり』が公開されましたが、1位を取れませんでした。公開前の数日間、主演の堺雅人と高畑充希をテレビで見ない日はないというくらいプロモーション稼働が精力的だったにもかかわらず、です。1位は、『DESTINY』より30館ほど公開館が少ない『仮面ライダー平成ジェネレーションズFINAL ビルド&エグゼイドwithレジェンドライダー』でした。観客はライダー好きの男児とマニアな大人。一見さんとは無縁の、「観るべき人に一人残らず観せる」べき作品というわけです。

現代の消費者はマスコミ以外にもたくさんの情報源を持っているので、力技の物量作戦が通用しづらくなっています。いま映画の宣伝は「誰でもいいから、ちょっとだましてでも動員する」ことではなく、「観るべき人に一人残らず観せる」ことのほうが重要になっているのです。

つまり、宣伝の勢いに乗せられて「よくわかんないけど流行ってるから土日に観た」層が“たったの”1割しかいなかった最近のSWは、「どんなプロモーションをしても来る人間は来る。来ない人間は来ない」という、ここ数年のある種の映画に適用されていた宣伝上の不文律を、明確な数字をもって可視化した、とも言えるのです。

(編集者/ライター 稲田 豊史)