渡辺大知の魅力は“あんちゃん感”にあり 『勝手にふるえてろ』で見せた、役者としての経験と成長

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 「渡辺大知も27歳だもんなー」。ついそんな言葉が口をついて出るほどに、『勝手にふるえてろ』で彼が見せた芝居は、役者としての経験と成長を感じさせるものだった。

参考:松岡茉優が語る、初主演映画『勝手にふるえてろ』での挑戦 「自分だけには嘘をつかないように」

 彼の存在を初めて知ったのは、オーディションで主人公の童貞高校生・乾純に抜擢されて出演した、田口トモロヲ監督の『色即ぜねれいしょん』(2009年8月公開)だった。映画雑誌でインタビューをしたとき、彼はまだ18歳の大学1年生で、地元の神戸から東京造形大学に進学するために上京したばかり。初めての演技について、ボーカルを務めるロックバンド“黒猫チェルシー”について、そしてキャンパスライフについて語る彼は初々しさの塊で、特に印象的だったのは、「表現欲みたいなものがたくさんある」という発言だった。

 あれから8年。渡辺はその表現欲を吐き出しながら、俳優とミュージシャンという二足のわらじを履いて順調に活動を続けている。「田口監督作で俳優デビュー」したことや、素朴さと熱さ、不器用さが魅力の演技スタイルなどの共通項から、世間的には大河出演も決定した銀杏BOYZの峯田和伸に続く、“ミュージシャン/俳優”の新星として認知されつつある、という状況だろう。ドラマ『忌野清志郎 トランジスタ・ラジオ』(2015年/NHK BSプレミアム)ではリリー・フランキーが演じる美術教師の高校生時代を演じ、朝ドラ『まれ』(2015年/NHK総合・BSプレミアム)では「東京へ進学」「バンドのボーカル」というキーワードをもつ高校生の二木高志を演じた。このように、彼はこれまで、自分の世界に近い作品や、自身に重なる要素をもつ役柄を演じることが多かった。

 『勝手にふるえてろ』で渡辺が演じている役柄は意外にも、一般企業の営業マン。同じ会社の経理部で働くヨシカ(松岡茉優)に好意を寄せており、同期の飲み会を企画して、その席で強引なテクニックでLINEのIDを交換し、週末デートに誘い出すガッツのある、健全な20代男子である。こじらせ度もカルチャー的な資質もゼロな上、「女子に引かれるナルシスト男子ベスト5」というようなネット記事に頻出する「寝てない自慢をする」「『俺、“億”動かしてっから』が口癖」「自分語りが大好き」「休日のデートにスーツで来て『今日も取引先に行ってきたから』とドヤ顔」といった、ツッコミどころ満載の行動を連発する、“自己チューの天然王子”(命名、ヨシカ)なのである。渡辺はこの人物を「いるよね〜(笑)」というリアリティのあるベースを作った上で、そこに彼らしい素直なリアクションや多彩な表情を付け加え、どこか憎めないキャラクターに仕立てている。

 ヨシカは、高校時代から片思い中の“イチ”(北村匠海)と脳内で交際しているが、“ニ”(ヨシカから見た渡辺の役の呼び名)から交際を申し込まれ、タイプではないが人生初の告白にテンションが上り、デートをする仲になる。ヨシカは妄想力がたくましく、コミュニケーションスキルに乏しく、プライドが高く、警戒心の塊で、自意識にがんじがらめになっている、恋愛経験ゼロの処女。よくよく考えてみれば、ヨシカのような妄想×暴走系の主人公を男性に置き換えると、若き日の渡辺大知(や峯田和伸)が演じてきたキャラではないか! ミュージシャン/俳優というくくりで言えば、星野源が『逃げるは恥だが役に立つ』(2016年/TBS系)で演じた平匡もまさにこのタイプ。重度にこじらせた主人公を、役柄を深く理解して超絶スキルで表現する松岡茉優は主演女優賞確定レベル。人間以上に感情表現がうまい高性能ロボのような松岡と、役者としてまったくタイプが違う渡辺の芝居の相性が非常に良い。ここで渡辺が技巧に走るとぎこちなくなるが、常人には理解できないヨシカに振り回され、困惑しながらも「かわいいな〜♥」とデレデレするニを渡辺はただただ素直に表現する。ニがヨシカを好きな理由のひとつが、「わからないからおもしろい」。つまりニはヨシカのわからなさを最前列で楽しんでいるある種のファン。渡辺の芝居も、松岡が演じるヨシカを、最前列の独占状態で反応する楽しさにあふれている。

 前半のニは、「いるよね〜」と苦笑されていた自己チューの天然王子。中盤での、彼氏ヅラをし始めたニが、イチに会いに行くヨシカにつきまとい、迷惑がられても離れないシーンは、自分がやられたらと想像すると鬱陶しい。しかし、渡辺が演じると、鬱陶しいけれど憎めないという微妙なラインに着地する。そして、一貫して自分の好意をストレートに表現し、ヨシカの面倒くささを受け止めようとするおおらかさを発揮するにつれ、観客はどんどん彼を応援してしまう。だから、ここまでずーっと溜めてきたニが、ヨシカと初めて本音でぶつかり合い、感情を爆発させるクライマックスでのニの一発の雄叫びが、素晴らしく効果的に響くのだ。

 渡辺の魅力を簡単に言ってしまえば、教室、近所、仕事場、家族など、どこにでもいそうで、親しみやすい、あんちゃん感。それでいてその他大勢に埋没しないのは、共演者のセリフや感情をきちんと受けてからフレッシュに反応しているからだろう。この感性はセッションや即興表現に慣れているミュージシャンの武器であり、役を演じるのではなく役を使って己を吐き出していく峯田和伸や竹原ピストルがその筆頭だ。前述した共通項から、渡辺は峯田らに続くタイプに思われがちだが、『勝手にふるえてろ』で見せた、自分との間に境界線がある役に、自分の魅力や個性を加味する芝居はその系譜には連ならない。渡辺と峯田らとのさらなる違いは、ミュージシャンとしての立ち位置や評価を確立してから俳優業に挑戦した彼らに対し、渡辺の場合は両者をほぼ同時期にスタートさせたこと。そのため、特に大物ミュージシャンが俳優業に挑戦するときにつきまとう「本人と役柄とのイメージの齟齬」をあまり気にする必要がないことが、ひとつの強みといえるだろう。そう考えると10年後の渡辺大知は、インディペンデントな場所で表現活動をスタートさせ、ポップかつメジャーな場所にたどり着いた、浜野謙太やピエール瀧、ユースケ・サンタマリアや星野源の系譜に連なる存在になっているかもしれない。(須永貴子)