「優れたリーダーはみな小心者である」。この言葉を目にして、「そんなわけがないだろう」と思う人も多いだろう。しかし、この言葉を、世界No.1シェアを誇る、日本を代表するグローバル企業である(株)ブリヂストンのCEOとして、14万人を率いた人物が口にしたとすればどうだろう? ブリヂストン元CEOとして大きな実績を残した荒川詔四氏が執筆した『優れたリーダーはみな小心者である。』(ダイヤモンド社)が好評だ。本連載では、本書から抜粋しながら、世界を舞台に活躍した荒川氏の超実践的「リーダー論」を紹介する。

「3現」を体感すれば、解決策は自然と導き出される

 現物・現場・現実ー。
 この「3現」を自らが体感することが、ビジネスで結果を出す鉄則です。このことを、若いころから身体に刻み込んでおかなければ、優れたリーダーになることはできないと私は考えています。

 もちろん、職位が上がるにつれて現場との距離は遠ざかりますから、物理的にすべての案件について「3現」を体感することはできません。しかし、その現実に不安を感じるくらいでなければならない。不安で仕方がないから、時間と体力の許す限り「3現」に触れようとエネルギーを使う。そうでなければ、リーダーの仕事を全うすることはできないのです。

 私が、「3現」の重要性をはじめて学んだのは入社2年目のこと。
 タイ・ブリヂストンで在庫管理の適正化をなんとかやり遂げた後、工場長から「機能する労務管理の仕組みを考えて、答申してほしい」と命じられたときのことです。当時、タイ工場には、日本の工場と同様に、社員が出勤管理カードを機械にガチャッと差し込んで出退勤時間を打刻する方式を採用していました。

 ところが、これがタイではまったく機能していなかったのです。出勤管理カード上は全員出勤しているはずなのに、人数がかなり少ない。しかも、どうも社員ではない者も混じっているようだ……。これでは、まともな操業ができない。だから、「なんとかしろ」と命じられたわけです。

 当時、私は、労務管理の担当者でしたが、労務管理の「ろ」の字も知らないド素人。そこで「まずは原因究明だ」と考えた私は、社員が出勤してから退勤するまでの一日の行動を細かく観察。一週間も観察すると、その実態が手に取るようにわかりました。

 まず「代返」です。ひとりの社員が同僚の出勤管理カードを預かって打刻している。だから、人数が少なかったのです。あるいは「下請け」。社員本人が出勤するのではなく、友人に下請けさせているのですから、社員ではない者がいるのも当然だったのです。要するに、「3現」を確認しないままに、日本人の労働倫理に対応した日本式の労務管理手法を、当時のタイにそのまま持ち込んだことが間違いのもとだったわけです。

 だから、私は、打刻機を廃棄して、もっと素朴な管理システムを導入すべきだと答申。そして、実態に即した労務管理のための紙の様式を作成。各工程の責任者が、出社時、退社時に全員を集めて点呼して、本人確認をしたうえで、もし本人がそのときいなければ理由を確認し、様式に手書きで書き込むことにしたのです。

 同時に、「自分の仕事を下請けに出してはならない」などの勤務規定も新規に策定されたと記憶しています。日本式に比べれば幼稚な手法でしたが、これがうまく機能。工場長から、「2年目なのによくやったな」と一言褒められたときの喜びを、今でもよく覚えています。

 このとき、私は学びました。労務管理の専門知識が皆無だった私でも、「3現」を体感することで問題の所在を明確にすることさえできれば、自然と解決策を導き出すことができる。つまり、「3現」こそが「答え」を教えてくれることを学んだのです。

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