試運転中のE353系(筆者撮影)

JR東日本の新型特急車両E353系が12月23日から「スーパーあずさ」に投入された。今回は3編成を投入し、従来E351系で運行してきた8往復中4往復を置き換える。所要時間は現行のE351系とまったく同じだと公表されている。

E351系とE353系に共通する特徴は、カーブでの通過速度を向上させることで所要時間を短縮させていることだ。鉄道ではカーブの半径や車両などの条件に応じてカーブの通過速度を定めており、これを本則というが、ある条件をクリアすることで、本則以上の速度でカーブ区間の通過が認められている。

カーブでは車体を傾ける

速度向上の方法はカーブの内側に車体を傾斜させるというものだ。E351系は制御付自然振子装置を搭載し、カーブ区間で最大5度、車体を傾斜させている。一方、E353系は振子装置ではなく車体傾斜装置を搭載して、最大1.5度、車体を傾斜させている。JRは車体を傾ける理由について「カーブ通過時の乗り心地を改善するため」と説明している。この言葉どおり、実は車体を傾斜させなくてもカーブ区間のスピードを本則以上にアップさせることは物理的には可能である。しかし1963年に運輸省が「曲線通過時に乗客が不快に感じない左右定常加速度(遠心力)」を0.08G以下と定めたことにより、日本の鉄道車両はこれを“基本的に”守っている。その結果、乗客にかかる遠心力を0.08G以下とするために、車体をカーブの内側に傾けているのだ。

基本的にと書いたのは、昨今この遠心力の基準を緩和する例があるためだ。もともと法的拘束力はなく、0.08G以下を守らなくても問題はない。新幹線で0.09G、JR四国8600系で0.1Gを許容した例がある。余談だが、左右レールの高さを変えたカントを作って、カーブ区間を通過する全車両の車体を強制的に傾けているのも同じ考え方からきている。しかし、カント量を大きくしすぎると、カーブ区間で停車した際に横転する危険があるため、カントで足りない分を車両側で補うのがE351系やE353系ということになる。

E351系の傾斜角は5度で、E353系は同1.5度とE351系よりも3.5度も小さいが、はたしてE353系の遠心力は0.08G以下に収まっているのか。このことをJR東日本に確認してみたところ、1.5度でも遠心力は0.08G以下に収まっているとのことだ。だったら、なぜE351系は5度も傾ける必要があったのか。


停車中のE353系(筆者撮影)

前述のとおりE351系は制御付自然振子装置を搭載している。この振子装置の原点は制御の付かない自然振子装置で、1973年に381系として実用化され、中央西線「しなの」、紀勢本線「くろしお」、伯備線「やくも」に投入された。

自然振子装置は特殊な台車を使用しており、台車上で車体が左右に傾く仕組みとなっている。車体は空調を含めて重量物を全て床下に搭載して重心を下げている。そして381系がカーブ区間に進入すると、遠心力によって床下機器のある車体下部がカーブの外側に移動する力を利用して、客室のある車体上部をカーブの内側に傾斜させて、遠心力を0.08G以下としている。

しかし自然振子式には大きな弱点があった。それはカーブが始まらないと車体が傾斜しないのだ。これを振子遅れと言うが、カーブが始まってから車体の傾斜が始まるまでの間でも遠心力0.08G以下に抑えるために、必要以上に車体を傾斜させる必要があり、その結果、振子車の傾斜角度は5度となった。

カーブ前から傾斜する必要があった

この振子遅れなどを解消するために、国鉄時代末期から研究されたのが制御付自然振子装置だ。これは振子台車に振子シリンダを装備して、カーブの手前から予め車体の傾斜を開始させる「カーブの予見」機能などを持たせたものだ。

カーブを予見させるためには、走行線区の線形を把握する必要がある。そのため制御付自然振子式の車両には線路マップを搭載している。そして車上の速度発電機や、ATS地上子などの地上の地点ポイントを利用して自車の走行位置を特定するとともに、線路マップに基づきカーブ手前で車体を傾斜させてカーブに進入する。制御付自然振子式によって振子遅れを解消するとともに、その分カーブの通過速度もアップ。各地の特急に採用された。

制御付自然振子式は自然振子式をベースとして車体を5〜6度傾斜させているため、カーブ区間の遠心力に余裕がある。そのためJR北海道やJR四国では、さらなるスピードアップの可能性を模索したが、実現には至らなかった。

振子式には課題もあった。台車の構造が特殊なため、イニシャルコストとランニングコスト的には不利とならざるをえないのだ。また車体傾斜角度が大きい分、車両限界に抵触しないように車体の上下を絞り込む必要があり、居住性に難があった。一方で、アルミ車体の採用など通常車両でも低重心化することで、カーブ区間において多少のスピードアップが可能と


車体を傾斜させて走行するE351系(写真:Jun Kaida/PIXTA)

なった。

一方、車体傾斜装置は空気バネをストロークさせて車体を傾斜させる機構で、構造はシンプルでコスト的に有利となる。さらに制御付自然振子式を導入している線区では、線路マップを活用すれば、やはりカーブを予見することは可能だ。さらに車体傾斜制御を緻密にすることができれば、車体傾斜角度が小さくとも振子車と同等のスピードでカーブ区間を通過することが可能だという結論に達した。

こうして2015年にE353系量産先行車が登場した。E353系の試運転は2年以上にわたって実施された。その理由は車体傾斜を緻密に制御するためのセッティングにあったという。

車体同様をさらに抑制

また、E353系量産先行車では車体間ダンパで各車両を連結して、お互いの動揺の抑制を図ったほか、一部の先頭車(1、12号車)とグリーン車にフルアクティブサスペンションを装備して、車体動揺のさらなる抑制を図っていた。


振子機能がないE257系(写真:釣りどれ /PIXTA)

しかし量産車では車体間ダンパを廃止。その代わり、全車両にフルアクティブサスペンションを採用しており、車両単位で動揺を抑制する方向に改めている。

このE353系に乗車する機会を得た。ジャイロを持ち込んだわけではないので、あくまでも個人的な体感に過ぎないが、車体傾斜制御は非常に自然で、まったく違和感はなかった。さすが試運転に長い時間をかけただけのことはあるようだ。

最終的には中央東線の特急はE353系に統一されるということだが、12月23日からしばらくは、E353系とE351系、そして非振子車のE257系が中央東線を走ることになるので、乗り比べしてみるのもいいかもしれない。