"ポテトヘッド"なプロデューサーと、寝れば仕事が手に入る。

時の流れが早すぎて冗談かと思いますが、今年も残すところ約1週間。今年の映画業界はいろんなことがあったはずですが、10月に明るみに出た「ハーヴェイ・ワインスタイン問題」でしっちゃかめっちゃかになってしまいました。世の中に「おかしいよね。おかしいんじゃないかなと思ってたけど、やっぱおかしいよね。絶対におかしい!」みたいな空気が充満し、もはやオスカーにおける『ラ・ラ・ランド』と『ムーンライト』の騒動がはるか遠い昔のように思えます。

そんな今年を締めくくる1本って何かしらと考えて、思いついたのは2002年のドキュメンタリー作品『デブラ・ウィンガーを探して』です。私、この映画が大好きで、いつかどこかで掘り起こしたいと思っていたのですが、今年のこの「ワインスタイン」な状況下で見るのは、いろんな意味でもうほんとにぴったり。

監督は、80年代後半の人気女優ロザンナ・アークウェットで、企画の発端は彼女が「このまま女優を続けていけるのか」と悩んでいたこと。「みんなはどう思ってるのかなー」と考え、出身も人種もキャリアも考え方もそれぞれに異なる30人以上の女優たちに話を聞きに行く、というドキュメンタリーです。

でもってこの映画を、なんで今こそ!と思うのは、ある場面で集まった女優たちが"ハーヴェイ・ワインスタインなヤツら=権力を持ったセクハラ野郎たち"について語っている場面があるからです。ある女優がそんなヤツらのうちの一人、エージェントから「彼と寝るかどうかで仕事が決まる」と言われたプロデューサーを「『トイストーリー』のポテトヘッドそっくり」と言っているのですが――これ、ハーヴェイ・ワインスタインのことじゃないかしら。マジでそっくりだもん。

「セックスで何かを手に入れようとしているんでしょ、だって女なんだから」

映画には、女優たちがその手の連中から受けたセクハラ話が、いくつか披露されています。そのうちのひとつが、この監督の妹で、当時ものすごく勢いのあったパトリシア・アークエット(『トゥルー・ロマンス』『6歳の僕が大人になるまで』)が語ったものです。

その頃彼女が出演していた作品には、「何撮ってもみんなに嫌われちゃうプロデューサーと、誰とでも寝ちゃう女」が関わっていました。ある日、その「寝ちゃう女」がスタジオから出て行ったと思ったら、現れた「嫌われちゃうプロデューサー」がパトリシアのメイクさんに近寄ってきて、鼻先にいきなり指を突き出してこう言います。「何の臭いだと思う?」。

年齢を聞く未婚既婚を聞く、「女なんだから化粧くらいしろよ」「今日はずいぶんキレイにしてるけどデート?」とかそういうレベルじゃない、ハラスメントなんて言葉じゃ甘すぎる、あまりにキモすぎて、ライターとしてはそのキモさを正確に伝える激烈な新語をかひねり出さねばという使命感に燃えるレベルです。こんなやつが好き放題にやっている現場で、いくら仕事とはいえヌード撮影しなきゃいけないとか、マジで考えただけで吐き気です。

大ヒットドラマ『ER緊急救命室』『グッド・ワイフ』の人気女優、ジュリアナ・マルグリースはこんな話しています。「知ってる? 会議で話すのはこれ。"あの女優はよかった。今度お前もヤルか?"。堂々と言ってるって」。そしてその場にいた一同が声を揃えて言います。「知ってる」「有名な話よ」「それがあの人たちが望む女優の条件ってことなんだよね」。

「働く女はそれくらい乗り越えられないと」って、マジで?

映画には実は1カットだけ、カンヌ映画祭でのハーヴェイ・ワインスタインが登場するのですが、何が驚くって、そいつがそこから15年、相も変わらず映画界で圧倒的権力を握り続け、好き放題に身の毛もよだつセクハラし続けていたことです。もちろんこの手の男は彼だけではなく、どこの誰がどんなことやっているか誰もが知っている。でもそれをこうして公の場で言っていても、マスコミを含めて世の中が「セックス利用して何かを手に入れてる女たちが、何言ってんの?」とばかりに全然反応しない。「女優だから他人事」? いやいや。日本だって、実名告発したレイプ被害者が同じ理由で袋叩きにされてますから。理由は「女優だから」じゃなく「女子だから」にほかなりません。

映画には、サルマ・ハエック、グィネス・パルトロウ、パトリシア・アークエットなど、今回の告発を機に声を上げた女優たちもいて、この時点ですでに最悪のセクハラを経験しているはず。負けるもんかと生き伸びた彼女たちはすごい。でもその陰には負けてしまう女性、諦めてしまった人もいる。タイトルにある伝説のスター女優、第一線を退いてしまったデブラ・ウィンガー(『愛と青春の旅立ち』)は、無数にいるその象徴です。

世間は言うでしょう。「それくらい乗り越えられないようでは、女が男社会で生きていくことなんてできない」。そうかもしれません。でもそれって、そもそも「乗り越えなきゃいけないこと」? 「あっちゃいけないこと」なんでは?

『デブラ・ウィンガーを探して』

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