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薬は病気だから飲むもの。では「薬を飲んでいる限り病気」なのでしょうか。それは違います。逆は必ずしも真ならず。再発防止のためにも薬を飲み続けることが大切です。国際医療福祉大学の原富英教授(精神医学)は「勝手に服薬をやめないためにも、薬に対しての意思決定は、医師と患者が双方向で進めたほうがいい」とアドバイスします――。

■1年経過すると約半数は服薬をやめてしまう

精神科では、もう少しで安全域に入ると思われるのに、薬をやめてしまう患者さんがいます。こうした事例は少なくないようです。名古屋大学病院老年科の梅崎らの報告によると、長期間服用が必要な抗認知症薬ドネペジル塩酸塩(商品名アリセプト)では、1年後は約半分以上の患者さんが薬の服用をやめていたそうです。

なぜ薬をやめてしまうのか。これは「病気だから薬を飲む」行為が、いつしか「薬を飲んでいる限り、病気である」という考えに変わってしまっているからではないでしょうか。「病気だから薬を飲む」という発想が、逆転しているわけです。こうした逆命題は、高校数学で「逆は必ずしも真ならず」と教わりました。これがよく当てはまります。必ずしも「薬を飲んでいる限り病気は治っていない」というわけではないのです。

さて、さまざまな薬は、服用期間によって、やめられる薬、当分やめないほうがいい薬、半永久的に必要な薬の3種類に大別されます。

まず「やめられる薬」の代表例は抗生物質です。抗生物質は、原因(細菌など)が消失すればやめられます(医師は投薬を中止します)。またビタミン剤やホルモン剤などは、一時的な不足を補うため、数日から数週間の服用期間が標準です。

2番目の「当分やめないほうがいい薬」では、精神科や生活習慣病の薬があげられます。慢性化しやすく数年〜数十年かけて付き合っていく病には、悪化や再発予防のための最小限の薬を服用し続けるほうがいいと考えられています。これは専門家の中ではほぼ意見が一致しています。

うつ病のように回復に月〜年単位が(回復は三寒四温だよね、と説明する精神科医もいます)必要で、この間に再発しやすい特徴を持つ病気には、減薬しつつ、数年間は当初の3分の1〜4分の1程度の量で服用することを私は勧めています。

また健康診断で「コレステロールが高いですね」と注意を受けた経験のある人がいるかもしれません。LDL(悪玉)コレステロールは、動脈硬化の危険因子のひとつとされており、年をとるにつれて分解力などが低下し増加していきます。生活習慣の見直しなどで改善がみられない場合、現在はLDLコレステロールの体内合成を阻害する薬を用います。ただし、至適な血中濃度を維持するためには、ほぼ一生、この薬を服用することが必要になります。服用をやめると、ほとんどの人が再び異常値まで血中濃度が上がってしまうからです。

このように慢性疾患モデルの病気は、薬によって悪化・再発を防ぐことは重要な対策のひとつであり、食事療法などの生活習慣の改善により減薬はできても、薬が不要になると考えるのは危険が大きいと思います。

3番目の「半永久的に必要な薬」は、何らかの原因で自己免疫性疾患やホルモン失調症(甲状腺機能失調症など)、パーキンソン病などの神経伝達物質が不足する疾患にかかった患者さんは、自然治癒でもしない限り、半永久的に少量のステロイド剤やホルモン剤などの補充が必要です。この補充療法によりほとんど健康な人と同じように活動ができます。

この2番目と3番目の薬の使い方は、連載第1回目の説明を引用すれば「(薬を服用しつつの)寛解をめざす」というものです。

■共同意思決定のすすめ

かつては医療者(医師や薬剤師など)が、治療方針を患者さんへ一方的に伝えるのが一般的でした。しかし、最近では「インフォームドコンセント」(Informed Concent=説明と同意)を行うことが主流です。ただし、これも流れとしては、治療者側から患者さんへの説明が多くなり、一方向であることには変わりありません。

そこで近年は「SDM」(Shared Decision Making=共同意思決定)という取り組みに注目が集まっています。

SDMとは、「治療者あるいは患者さんのどちらか一方が決めるのではなく、両者が話し合って治療方針をお互いの同意と納得のもと決定し、適切な治療を見つけ出すこと」です。乳がんの治療から始まった考え方で、ドイツでは約20年程前から実践されています。

最大の特徴は双方向性です。代表的な治療法のひとつである薬物療法を進めるうえで、重要な実践だと思います。薬に関して言えば、患者さんは主作用・副作用・服薬期間などオーソドックスな質問で始めることになりますが、何より患者さん自らが治療の決定に参加しているということが大切なのです。

私見ですが十分に説明し、お互いに話し合い納得したうえで開始した服薬は、予想以上によい効果を生み出すように感じています。実際、最近の臨床研究からもSDMの有効性が証明されつつあるようです。

なお、広く知られるようになったセカンドオピニオン(Second Opinion=第2の意見)も、広義には、SDMの類型のひとつと考えることも可能でしょう。

■副作用のついての考察

最後に薬を服用する際に必ず生じる疑問――「副作用」について少し触れておきます。患者さんが薬の服用を中止する原因のひとつだと思われるからです。

私は、医学生や研修医によく次の質問をします。「薬を処方するとき、副作用についてはどこまで説明する?」。彼らは困ったような表情で口ごもります。理想的には何百という副作用をすべて説明したほうがいいでしょう。しかしこのやり方は、主に以下の2つの理由から現実的ではないのです。

ひとつ目は診療時間の制約です。全ての副作用を説明していると、1日数人の患者さんしか診ることができない可能性があります(日本の一般開業医の1日の平均外来患者数は40人前後です)。

ふたつ目はすべてを説明すると、非常にまれな致死的副作用などを怖がってしまい、患者さんが服用しないのではないかと危惧するからです。

では私はどうしているか。

薬品情報書は副作用の出現頻度を、主に4段階で表示しています(表参照)。5%以上の副作用は、最低20人に1人の割合(多い副作用は、3人に1人出る印象)で生じる可能性があるということです。これは説明しなければいけないでしょう。ただし5%以上の副作用は、生じても致命的なものは少なく(そうであれば、その薬は開発段階で日の目を見ないでしょう)、薬の量を減らしたり中止したりすることで消失するものがほとんどです。

■自分の薬を「自家薬篭中」の「薬」にする

そこで私は、5%以上に生じる可能性のある副作用(精神科の薬であれば、軽い眠気・めまい・ふらつき・吐き気など)について、質問を受けつつ6〜7個を説明します。加えて耐えられないような副作用(高熱や全身の薬疹など)を1〜2個説明し その症状が出た場合はすぐに連絡するよう連絡先を伝えておきます。

それから軽い副作用は少し我慢していくと耐性(慣れ)ができ、服用を継続できること、先ほど述べた2番目、3番目のタイプの薬の中には、急にやめると不愉快な退薬症状(いわゆる薬切れ)の症状が出やすいこと、眠気や注意散漫が生じる危険があるので車などの運転は避けることなどを付け加えます(これは精神科の薬に特有の注意事項でもあります)。こうした方法を採れば、患者さんは副作用が生じても慌てずに冷静に対処できるようになります。

このように主作用・副作用も含めた薬の「飲み心地」についてやり取りをしつつ説明し、服薬の合意をとるのです。この私の実践は先ほど述べたSDMの概念に近いと自負しています。

結局、患者さんは、副作用も含め医薬品の特性を知り、双方向(SDM)に医療者と話し合い、まさに自分の薬を「自家薬篭中」の「薬」にすることこそ、服用する薬についての大切な態度といえるでしょう。

次回は、私の精神科での臨床経験から、「じいちゃんの妄想、ばあちゃんの妄想」についてお話します。

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原 富英(はら・とみひで)
国際医療福祉大学 福岡保健医療学部 精神医学教授
1952年佐賀県生まれ。九大法学部を卒業後、精神科医を志し久留米大学医学部を首席で卒業。九州大学病院神経科精神科で研修後、佐賀医科大学精神科助手・講師・その後佐賀県立病院好生館精神科部長を務め、2012年4月より現職。この間佐賀大学医学部臨床教授を併任。
 

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(国際医療福祉大学 福岡保健医療学部 精神医学教授 原 富英 写真=iStock.com)