txt:宏哉 構成:編集部

海外ロケで悩まされる「カルネ」とは?

前回は、スロバキアのコシツェ国際空港でのカルネ手続きを終えて、無事に入国した所まで話が進んだ。が、海外ロケ紀行物としては、ここから先、特にストーリーに盛り上がりも無いし、相変わらず当時の写真もない…。という事で、少し話を戻して「カルネ」について、今⼀度おさらいをしたい。この「カルネ」、海外ロケで結構な確率でトラブルというか、話題を提供してくれる元凶だったりするのだ。

ちなみに、スロバキアのロケは特に問題なく終わった。ただ、朝ホテルから収録先の現地工場に向かう山道で、車同士の接触事故に遭った。朝の山道が凍結しており、スリップして脱輪している他の車を横目で見ていたら、路面凍結のためにブレーキが利かなくなった対向車が、そのまま滑ってこちらの車に突っ込んできたのだ。

幸いにして、両車輌とも低速度だったので、ゴツンっとゆっくりと当たっただけ。車は⼀部破損したが、乗っていた人間に怪我はなかった。運転手同士がお互いの連絡先を交換して、そのまま破損した車で現場に向かったぐらいの軽い接触事故だった。

路面凍結で脱輪した車

現地工場では、工場外観と内観。作業風景の⼀部を撮影。最後に、集められた40〜50人の従業員と工場長が、「○○○社スロバキア工場、がんばるぞ!おー!」的な事を言うので、カメラは脚立か何か高いところに上がって、俯瞰で全員グループを撮影した記憶がある。

現地工場があった街と思われる(2007年12月撮影)

必読!!ATAカルネの手続きについて

さて、今回の話は「カルネ」だ。正確には「ATAカルネ」について。カルネを知らない人、もしくはカルネは知っているが手続きしたことない人は、是非読んで頂きたい。

発給されたATAカルネ

まず「ATAカルネ」とは何だろうか?我々が海外ロケに行く場合、カメラや⾳声機材など高額な機材を現地に持って行く。この際、出国・入国ともに日本と外国の税関を通ることになるが、商用の物品は関税の対象となる。例えばHDCAMを持ち込もうとしたら、カメラ約600万円相当に対する課税が発生しかねないのだ。それも国境を越える都度…。

なぜこの様な事になるかと掻い摘まんで言うと、それらの物品を外国現地で販売される可能性があるからだ。いやいや、待って欲しい。これは「商売道具」だから売らないです。売っちゃったらロケできなくて困ります――と本心から言っても、税関職員にはその真偽を見極める術はない。だから課税される可能性がある。

これが、メーカーの立場で国際展示会などの展示商品等であれば、さらに分かりやすいだろう。新製品で価値がある物品で丁寧に梱包もされているだろう。だが、飽くまでも現地で展示するだけで、展示会終了後は自国に持って帰るつもりの製品でも、税関ではその真偽は確かめられないので、課税されてしまう。メーカーや代理店からすれば、展示会の度に多額の関税を取られてしまうことになるのだ。

そこで、上記のような「⼀時的に外国に持ち込むけど、また直ぐにそのまま持って帰ります。課税しないで下さい」と言う物品に対して、「それは本当です。課税しないで下さい」と言ってくれる書類が「ATAカルネ」なのだ。

ATAカルネは、Admission Temporaire(仏)/Temporary Admission(英)の頭文字の組み合わせでATAだそうで、カルネはフランス語の“CARNET=手帳”のことである。ATA条約(物品の⼀時輸入のための通関手帳に関する条約)を結んだ国家間で有効で、EU諸国を含む80前後の国々で使用できる。それでは、どのようにしてカルネ書類を作成し、また入出国時に使うのだろうか?以下、実際の手続きを追ってみよう。

まずは、ATAカルネの作成申請だ。⼀般社団法人日本商事仲裁協会(JCAA)が、ATAカルネの発給を扱っている。協会の事務所は東京、大阪、神⼾、名古屋、横浜の5か所で、申請は事務所まで直接行くか、郵送で行う。私は、大阪市内に住んでいるので、いつも直接大阪事務所に赴いて申請を行っている。初めて手続きを行う場合は、新規登録届けが必要で、法人でも個人でも登録が可能だ。

⼀般社団法人日本商事仲裁協会。通称「カルネ協会」

新規登録と同時に「発給申請書」と「総合物品表」も記入して提出する。この「発給申請書」と「総合物品表」が、今後のATAカルネ申請時には毎回必要になる書類だ。「発給申請書」はA3の書類で、申請者の名前や住所、実際にATAカルネを扱う「使用者」の名前、⼀時輸入する国などを記入する。

発給申請書。写真はJCAAのWEBサイトからダウンロードした書式

「総合物品表」は、実際に⼀時輸出入する製品を記すリストだ。リストには、メーカー名・製品型番・シリアル番号・個数・重量・価格・原産国を記入し、最後に合計個数と合計金額を記す。記入は全て英語で行い、日本語では受け付けない。ただし、金額は日本円で良い。JCAAは、かなり丁寧に書類をチェックしてくださっているようで、メーカー名や製品名は正確に記したい。以前、「SENNHEISER」の「N」が1つ少ないと指摘を受けた会社の先輩がいたぐらいだ。

発給済みのATAカルネ・総合物品表

書類の記入ができれば、事務所に持って行って提出するか、郵送で送る。メールでの受付は行っていない。申請書類が受理されれば、発給手数料と担保保証金を支払う。通常の発給手数料は14,000円で、もしもカルネ枚数が20枚を越えると超過料金が加算されるが、なかなか20枚も使うことは無いので、基本的には14,000円掛かると思っておけば良いだろう。

そして、担保保証金も必要だ。ATAカルネは輸出入に必要な申告書類の役割を果たすが、もう⼀つ輸入税の担保書類としての働きもする。⼀時輸入であっても、相当額を担保として現地税関で支払うよう求められる可能性もあるのだが、ATAカルネを使うことで現地で求められた輸入税や担保金を支払う必要がなくなる。

それは、既にカルネ申請手続きの段階で担保をJCAAに納めているからだ。担保保証には、返金される「担保」と、返金されない「担保措置料」がある。選択権があるのかどうか知らないが、私は毎回「担保措置料」を求められている。担保保証金額は「総合物品表」に記した合計金額によって変わってくるので、詳細はJCAAのWEBサイトで確かめて欲しい。

ATAカルネの有効期限は1年となり、同じ機材(同⼀個体)の使用であれば、有効期限中は何度も同じカルネを使用できる。ただし、税関に提出するページはその都度の必要枚数分しか用意されないので、ロケ毎に追加申請手続きを行う。追加に必要なページ数により、申請料が異なるが、新規に申請するよりは費用を抑えられる。年間を通してレギュラーになる様な海外ロケの場合は、最初のロケ準備の段階で機材の選定をしっかりと行い、以降同じ個体を持ち出すようにしておけば、申請の手間も最小限に抑えられる。

なお、ATAカルネに記載の無い機材を持って行ってはダメ、という決まりはない。ただ、カルネに記載が無い機材を税関で指摘されると、課税される可能性があるというだけだ。だが、反対にATAカルネに記載のある機材は、必要不要にかかわらず持って行く必要がある。

リストに記載された機材が、税関検査時に無い場合は、ややこしい事になるからだ。余計な機材をリストに入れると、毎回必ず持って行く必要があるし、必要な機材をリストから外すと、課税の恐れも出てくるので、リストに入れる機材は熟考して選定したい。無事に申請と支払いが終われば、4営業日程度でATAカルネが発給される。余裕を見て、遅くとも海外ロケの1週間前には申請を終わらせておきたい。ATAカルネの発給に関しての詳細は、⼀般社団法人日本商事仲裁協会のWEBサイトを参考にして欲しい。

夜中3時の空港にて、筆者含むスタッフ。カルネが無ければこんなことにもならなかったのに…

次回は、税関でのATAカルネの使い⽅だ。そして、海外ロケのトラブルの多くが、カルネと税関で発生する…。