小委員会の代表代行を務めた小泉進次郎議員(中央)と、牽引役を務めた村井英樹議員(右)、小林史明議員(左)(撮影:梅谷秀司)

小泉進次郎氏は、子育て世代への支援策として「こども保険」を提言し、政府が子育て支援を拡充する先鞭をつけた。この提言をまとめた「2020年以降の経済財政構想小委員会」(通称「小泉小委員会」)には、代表代行の小泉議員のほか20人の若手議員が参加し、500日間にわたる激論を繰り広げた。
小委員会のオブザーバーを務め、小泉進次郎氏と20人の若手議員たちの激闘の記録を書籍『人生100年時代の国家戦略――小泉小委員会の500日』にまとめた藤沢烈氏に、小委員会での議論の様子を聞いた。
聞き手:小関敦之(ライター)

官僚のお膳立てはまったくなかった

――「2020年以降の経済財政構想小委員会」(小泉小委員会)での議論の様子について教えてください。


私も自民党の委員会には初めて参加したので後で理解したのですが、小泉小委員会は通常の委員会とはだいぶ様相が違っていました。

部会と呼ばれる通常の自民党の委員会は、政府が提案する政策を承認する場として機能しており、議員同士のディスカッションはあまり行われません。会議のお膳立ては官僚がして、それを議員が認める。そんな形式が普通なのです。

一方、小泉小委員会では、官僚によるお膳立てはまったくありませんでした。党の政調会からのサポートはありましたが、準備からすべて、議員だけで運営されていました。

また、小泉小委員会では毎回、議員同士が激しい議論をぶつけ合っていたのですが、これも通常の自民党の委員会では見られない例外的な光景でした。実は、議員同士がゆっくりと時間を取って話をする機会はあまりないそうで、お互いどんな政治思想なのか、議員同士深くは知らないのが普通らしいのです。

小泉小委員会では、毎週のように2時間近く、たっぷりと議論を交わしていました。参加した議員が、他の議員がどんな考えを持っているのかをこの委員会を通じて初めて知ったと口々に漏らしていたのが印象的でした。

多様な考えを持った議員が集まっていたので、議論がぶつかり、ヒートアップすることが頻繁にありましたね。

「大変失望している」

――500日の激闘の中で、一番印象に残ったシーンについて教えてください。

小委員会の提言として「レールからの解放」という文章をまとめたのですが、この草案を最初に議員たちに披露する際、発表の役を任されました。

議員たちは、こういう文章を共有したり検討したりする際、書かれた文章を読むのではなく、誰かの音読を聞くのです。言葉を大切にする人たちですし、おそらく耳で聞いて適切かどうかを判断しているのでしょう。

これは本にも書きましたが、読み上げた直後、ある議員に「大変がっかりした」と酷評されました。自分で書いた文章じゃないとも言えず、「ツラいなぁ」と思ったのを鮮明に記憶しています(笑)。

ですがその直後、別の議員は「完璧だと思っている」と反論し、議員たちは侃々諤々(かんかんがくがく)の議論を始め、最終的に発表された形にとりまとめていきました。これは、私が議員に対して持っていたイメージと大分違っていました。

細かいことは官僚に任せていて、議員自体は明確な意見を持っていない、というのが世間一般の認識ではないでしょうか。

私自身もこの議論の場を見て驚きました。何しろ、仲間がつくってきた提案を聞いて、一言目に「大変失望している」ですから。しかし最後は1つの考えにまとめあげ、決まった以上は従うという姿勢があることには爽やかさも感じました。

――500日間、小泉議員たちを見てきて、日本の将来の課題をどう捉えているように感じましたか?

この500日の間に、小泉さんは海外のことを強く意識するようになったと感じています。

イギリスではEU離脱が国民投票で決定し、アメリカでは既存の政治家ではないトランプ大統領が就任するなど、後の世で間違いなく歴史の転換点として語られる出来事が起きたのも、小委員会が開催されている最中でした。

500日の間に、これらを意識した発言が増えていき、「海外の事案も対岸の火事ではなく、いずれ日本の問題になる」といった発言が増えるようになりました。今すぐではないものの、世界の激変の渦に日本もいずれ必ず飲み込まれるということを、強く意識し始めたようです。

10月に行われた衆議院選挙の後のテレビ番組で、池上彰氏から「政治家の顔になってきた」と言われた小泉さんは、トランプ、プーチン、習近平、金正恩など、一癖も二癖もある世界のリーダーと伍していくためには、綺麗事ではいられない、と返していました。

この発言からも、世界のリーダーや世界の動きに、日本がどう向き合うべきか強く意識しているように感じます。これから起こる変化に日本が対応し、乗り切っていくために、自分自身も役割をしっかりと果たしていきたい。そのためにも変化に柔軟に対応できるようにしていきたいと考えているのでしょう。

また、小泉さんは常に頭の中で「22世紀の国民とは何か」を模索しているように感じます。「22世紀を、政策に書き込んだのは小委がはじめて」と繰り返していましたし、10月の選挙では、「国民政党」とは何かを追い求めたといいます。22世紀の国民を考える上でのキーワードが「人生100年時代」です。

小委員会では多くの有識者を呼び、講演と質疑応答を行いました。この委員会のテーマは「社会保障」でしたが、1回目の講演テーマは「人工知能」、2回目のテーマは「教育」でした。これは、今だけではなく将来の国民がどうなっていくのかに強い関心を抱いていた証のように思います。

国への信頼回復が急務だ

――小泉議員をはじめ、若手政治家には何を期待しますか?

今回の衆議院選挙では、安倍首相が幼児教育無償化を争点に掲げて勝利しました。その結果、幼児教育無償化に向けて大きく舵が切られました。

小委員会が提言した「こども保険」はそのままの形では実現しませんでしたが、幼児教育無償化の流れができたのは、間違いなくこの提言があったからです。その意味で、彼らは大変大きな成果を上げたと言えます。

ただ、課題も見えてきました。「こども保険」に関して、社会保障をより子育て世代向けにバランスを取るという観点から私自身は賛成ですが、予想以上に世間の反対がありました。その理由を考えると、やはり国に対する国民の信頼が薄いことに行きつきます。

「国は中間搾取をするし、効率は悪いし、短いスパンでしかものを見てない」。国民がこんな風に思ってしまっていると感じます。進次郎さんも「今回の選挙は大勝したけれど、全然そんな雰囲気ではなかった」と言っていました。自民党へ期待が勝因ではなく、野党の敵失で消去法で選ばれたと自覚している議員がとても多いのです。

だとしたら、若手議員には「どうやって国民の信頼を取り返すか」、これを真剣に考えてほしいと思います。これから何をやるかということよりも、やったことに対して説明責任を果たすべきだと、私は考えます。まずは事実を正確に伝えること、その上でこういう方向に向かうのだという方針を、明快なロジックと共に伝えることが重要だと考えています。

小泉小委員会に参加していた議員たちも、今回の選挙を終え、副大臣や政務官になったり、党の要職に就いたりしています。

たしかに、小泉小委員会が開かれていた時期は、それぞれの議員は世間の人にほとんど知られていない「何者でもない一議員」だったかもしれません。しかし、今はもうそれぞれが責任のある立場になっています。その自覚をもって、国への信頼回復に全力で取り組んでもらいたいと考えています。