日本の首相にも同じ傾向が…(写真:M・O / PIXTA)

マッキンゼー伝説のコンサルタントとして世界的にも有名な大前研一氏。日立製作所の原子力技術者からマッキンゼーに転職後、若冠32歳にして『企業参謀』(プレジデント社)を上梓し、日本においてコンサルティングという仕事を根付かせた第一人者でもある。
御年73歳にしてますます血気盛んの大前氏の頭脳は、年齢と関係ない。今年で累計30万部を突破、シリーズ5冊目を数える著書『大前研一 日本の論点 2018〜19』から内容の一部をお届けする。

安倍政権下の「論点」を振り返る

振り返ってみれば、第1弾の『日本の論点』を上梓したのは2013年のこと。その前年、2012年12月に行われた第46回衆議院選挙で自民党が大勝して民主党(現民進党)から政権を奪還、同12月26日に第2次安倍晋三政権がスタートした。つまり、私がこれまで論じてきたのは安倍政権下の「日本の論点」ということになる。

かつてマレーシアのマハティール元首相から「私が18年首相をやっている間に、日本の首相は十数人替わった。名前も中曽根(康弘元首相)以外覚えていない」とイヤミを言われたことがあるが、安倍首相の在職日数は2017年9月1日時点で2077日(第1次政権の366日を含む)。

中曽根元首相の1806日をとうに超え、小泉純一郎元首相の1980日もすでに抜いて歴代5位。戦後では3番目の長期政権である。ちなみに戦後最長は安倍首相の大叔父に当たる佐藤栄作元首相の2798日(1964年11月〜1972年7月までの約7年8カ月)。歴代最長は桂太郎の2886日だ。

自民党の総裁任期が2期6年から3期9年に延長されたので、安倍首相は2018年9月の任期満了に伴う次期総裁選への出馬が可能になった。再任されれば最長で2021年9月までの在職が可能になるから、戦前戦後を通じて史上最長の政権になる芽が出てきたわけだ。

「民主党政権だけはもう懲り懲り」という前政権に対する国民の強い失望感と安定志向を背景に安倍政権は誕生した。アベノミクス、三本の矢、新三本の矢、地方創生、一億総活躍社会、働き方改革など、安倍政権は次々と看板政策を掲げ、わかりやすいキャッチフレーズを駆使して、具体的な成果はさておき、国民の期待感と高い内閣支持率を維持してきた。

アメリカ議会やハワイの真珠湾で演説したり、オバマ前大統領を広島に呼び寄せたり、プーチン大統領と何度も2人きりで面談したり、トランプ大統領に各国首脳を差し置いていの一番で面会したりと、外交面でも強いリーダーシップを国民に印象づけてきたし、舞台裏では仕事人の官房長官が「反安倍」の動きを徹底的に封じ込んできた。結果、政権5年目を迎えても高い支持率を維持したまま、野党にも党内にも敵なし「安倍一強」体制が出来上がったのだ。

しかし、長期政権は必ず腐敗、堕落する。「お友達か思想信条が同じ人かイエスマンの3パターン」(自民党の村上誠一郎議員が安倍政権の人事を評した言葉)で固めた安倍政権の驕り、緩みが一気に露見したのが、2017年に吹き出した森友学園問題であり、加計学園問題である。いずれの問題も震源地は安倍首相自身であり、「家庭内野党」を標榜していた総理夫人だ。

「この道しかないというのだからやらせておこう」と一任ムードだったアベノミクスが奏功して日本の経済状況が好転していれば、あるいは許容範囲だったかもしれない。しかし、三本の矢(デフレ脱却)も新三本の矢(一億総活躍社会)も的を射ることなく、アベノミクスのまやかしが誰の目にも明らかになりつつある状況で、安倍首相と思想信条を同じくする学校経営者と「腹心の友」の学校経営者ばかりに「神風」が吹けば、疑惑の目が向けられるのは当然だろう。

安倍首相は加計学園理事長を「腹心の友」と呼ぶ

森友学園との関係を問われた安倍首相は「認可や国有地払い下げに関わっていたら、総理大臣も国会議員も辞める」と国会答弁しているから、本当に知らなかったのかもしれない。しかし、少なくともお友達やイエスマンや役人が「官邸の最高レベル」の意向を忖度(そんたく)して動いていたのは間違いない。

加計学園が国家戦略特区に獣医学部の新設を申請していることについて、「(加計学園の申請が国家戦略特区諮問会議で正式決定した)2017年1月20日まで知らなかった」という安倍首相の国会答弁はにわかに信じがたい。安倍首相は加計学園理事長の加計孝太郎氏を「腹心の友」と呼び、ゴルフや会食を重ねる間柄だ。しかも安倍首相は国家戦略特区諮問会議の議長である。

それでも万が一、心の中では加計学園を応援したいと思っていながら安倍首相が1月20日まで本当に知らなかったとすれば、それはやはり安倍首相に対する恐ろしいまでの忖度が働いたことになる。

「忖度」が2017年の流行語大賞に選ばれるかどうかはわからないが、ノミネートは間違いなさそうだ(※編集部注:12月1日に「流行語大賞」に選ばれた)。

「忖度」とは相手の心を推し量ること。安倍首相が口に出さなくても、周囲が安倍首相の気持ちを推し量っていろいろな配慮をする。お友達と思想信条が同じ人とイエスマンで固めた側近政治が2000日以上も続けば、ここまでいってしまうということなのだろう。

世界の独裁者と共通する安倍首相の特異な挙動

私は中曽根元首相に主として外交問題でいろいろアドバイスする機会があったが、同じ長期政権でも中曽根元首相は自分と違う意見の人を必ずキャビネットに入れていた。小泉政権で国家戦略の策定を手伝ったこともあるが、変人の小泉元首相のまわりには異論の人しかいなかった。

今でもよく覚えている。郵政改革のとき、中国の大連で仕事をしていた私の下に国家戦略本部の事務総長だった保岡興治(元衆議院議員)氏から連絡がきた。「もはや孤立無援。党内で郵政民営化を支持するのは私と竹中(平蔵)さんだけ。絶体絶命です」。この後、参院で郵政改革関連法案が否決されて、小泉元首相は郵政解散に打って出る。忖度してくれる仲間がいないから、異論を唱える候補に刺客を送り込む力業で党内を掌握したのだ。

側近で固める安倍首相の政治姿勢は、中曽根元首相や小泉元首相とはまったく異なる。言わずもがなの心遣いといえば日本人の美徳のようで聞こえはいいが、安倍首相に対する忖度はやはり尋常ではないと思う。

忖度する人々が湧いて出てくるのは、実は独裁政権の特徴だ。北朝鮮では金正恩委員長の気持ちを忖度するのに政治家も軍人も一般国民も命を懸けている。間違った忖度をすれば殺されるからだ。

中国も似たようなもので、習近平国家主席の意向をくみ取れない党幹部や役人は次々と粛正されている。習近平の盟友で側近中の側近といわれる王岐山(中国共産党中央規律検査委員会書記。2017年10月の共産党大会をもって退任)氏でさえ一族の腐敗問題で内偵を受けるなど、立場を危うくしている。

アメリカのトランプ大統領にしても、自身が司会をしていたテレビプログラムの決め台詞、「You're fired!(オマエはクビだ)」を地で行くように、政権発足直後から自分の意に沿わない側近のクビを飛ばしてきた。トランプ政権とロシアの不透明な関係を捜査していたFBI(連邦捜査局)長官まで解任したおかげで、ロシア疑惑隠しとの批判が噴出し、政権の先行きに暗い影を落としている。

近頃は北朝鮮や中国のような独裁国家ばかりではなく、民主的な手続きでトップが選ばれている国においても一強独裁が目立つ。ロシアのプーチン大統領然り、トルコのエルドアン大統領然り、フィリピンのドゥテルテ大統領然り、皆、選挙で選ばれているのだ。

プーチン大統領の支持率が依然として90%近いのは、クリミア併合やウクライナ問題で経済制裁を科してきた欧米を向こうに回して大国ロシアの威厳を示しているからだ。

エルドアン大統領は自作自演のようなクーデター未遂事件の首謀者を宗教指導者フェトフッラー・ギュレン師とその支持者と決めつけて、ギュレン派を摘発一掃して独裁体制を強化している。国内の麻薬取引を撲滅すると公約に掲げて当選したドゥテルテ大統領は、「麻薬犯罪者は殺していい」という超過激な麻薬撲滅運動を展開、国際社会から非人道的と批判を浴びながらフィリピン国民からは80%近い支持を受けている。

戦後日本のリーダーとしてはやはり特異なタイプ

「国民の敵」をつくり出し、その敵と対峙する姿勢をアピールして熱狂的な支持を生み出していく。独裁的なリーダーの常套手段である。トランプ大統領も移民やマイノリティを敵視して「あいつらがアメリカ人の職を奪っている」と訴えて、白人労働者階級から熱狂的な支持を得た。


大統領就任後は公約どおりにメキシコ国境の壁建設やイスラム教国からの入国を禁じる大統領令に署名しているが、議会と予算の関係で実行には移せていない。

トランプ大統領といえば、自分に都合の悪いニュースを報じる大手メディアを「フェイクニュース」と呼んで敵視している。批判的なメディアを嫌うのは権力者の常で、ロシアやトルコなら有無を言わさずに潰される。

批判的なメディアを敵視するのは安倍首相も同じだ。さらに言えば先の都議選の街頭応援で「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と絶叫、全国民の代表であるべきリーダーが「敵=こんな人たち」を指差して攻撃してみせた。

敵味方を選別し、自分を忖度してくれる側近で身の回りを固める。これは世界の独裁者と共通した挙動であり、安倍首相は戦後日本のリーダーとしてはやはり特異なタイプといえるだろう。