金正恩氏

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今年もまた、北朝鮮における人権侵害が国際社会の非難の的になった。中でも注目された事象のひとつが、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)における女性兵士に対する虐待の横行だ。BBCニュース・ジャパンは11月22日付の記事で、次のように言及している。

「世界4番目の規模の軍隊において、女性兵の生活はあまりに過酷で、大半の女性は生理が止まってしまう。そして、多くの女性兵にとっては、繰り返される強姦が日常の一部だ。元女性兵はこのように語る」

北朝鮮軍における女性兵士への性的虐待は、この国の統治の仕組み、そして社会的な習慣と結びついている。

北朝鮮で官僚や軍人、経済機関の幹部として出世するのに必須条件となるのは、朝鮮労働党に入党することだが、誰にでも認められるわけではない。体制への忠誠心や出身成分(身分)を問われるのはもちろんのこと、党員2人以上の推薦を受け、市や郡の党委員会の承認を経た後、1年間の「候補期間」を経てようやく正式な入党が認められる。

推薦を受けるために必要になるのが、党員に渡すワイロだ。北朝鮮では、社会の営みのあらゆる場面でワイロがやり取りされる。その背景には、北朝鮮が「税金のない国」という、非現実的なユートピアを標榜してきた歴史がある。税金を徴収しないがゆえに、国家は官僚や軍人にじゅうぶんな給与を保証できない。そのため官僚や軍人は、自らの権限をフルに活用してワイロを集めて生計を立てるのだ。

そうするうちに、権力を持った者がそれを振りかざすことが当たり前になってしまったのだ。そして、軍の上官や職場の上司が部下の女性を「入党させてやる」と誘い出し、性的関係を迫る「マダラス」(マットレス)と呼ばれる「性上納」の強要行為が横行するようになった。

(参考記事:ひとりで女性兵士30人を暴行した北朝鮮軍の中隊長

また、そもそも北朝鮮の人々に人権の意識が薄かったことも、被害が拡大する一因になったとされる。

だが、少なくとも人権意識の面では、北朝鮮社会もかつてとは変わってきている。海外から密かに流入する情報のおかげで、北朝鮮の人々も人権が何であるかがわかってきているのだ。

結局のところ、北朝鮮を変えられるのは北朝鮮国民以外にはいない。核問題もそうだ。現状の抜本的な変化を望むなら、我々は北朝鮮国民の人権問題に関心を払うしかないのだ。