西新宿に実在する理容店を舞台に、経営コンサルタントと理容師が「行列ができる理容室」を作り上げるまでの実話に基づいたビジネス小説。「小さな組織に必要なのは、お金やなくて考え方なんや!」の掛け声の下、スモールビジネスを成功させ、ビジネスパーソンが逆転する「10の理論戦略」「15のサービス戦略」が動き出す。
理容室「ザンギリ」二代目のオレは、理容業界全体の斜陽化もあって閑古鳥が鳴いている店をなんとか繁盛させたいものの、どうすればいいのかわからない。そこでオレは、客として現れた元経営コンサルタントの役仁立三にアドバイスを頼んだ。ところが、立三の指示は、業界の常識を覆す非常識なものばかりで……。
12/6配本の新刊『小さくても勝てます』の中身を、試読版として公開します。

物事は何でも続けるのが大事

【1年目の冬】

立三さんが、鼻水を垂らしながら店に飛び込んできた。

「寒いなあ。雪が降ってきたわ。年明け早々から風邪ひいてまう。せっかくの一張羅らも台なしや」と店に入ってくるなり言ったが、着ているのはいつもと同じジーンズとフリースだった。

一瞬、アップルとかフェイスブックの創業者のように、時間節約のために敢えて同じ服装をしているのかとも思ったが、とてもそうは思えない。

そんなオレの気持ちを知ってか知らずか、バーバーチェアにどっかと座ると、フーと大きくため息をついた。

「あれから毎晩、ピーナッツを1粒ずつ食べているんですが、何も変わりません」

オレが、乾いたタオルを差し出しながら話しかけると、立三さんは、「そうか。まあ、あせらんと気長にやるしかないな」とやや突き放したような返事をしてから、一気に話し出した。

「あのな。物事はな、何でも続けるんが大事なんや。空手家が巻藁を拳で叩き続
けていたら、しだいに拳に肉が付き、叩いた時のパチン、パチンという音がある日、パコン、パコンという音に変わるように、突然、力がつき始めるんや」

「へー、そうなんですね」

「こういうのをな、〈クリティカルマス〉、日本語で〈臨界質量〉って言うんや」

「なんすか?そのクリティカルなんとかって?」

「わかりやすく言うと、最初は全然アカンけど、あるところまで行ったら一気に
燃え上がる。そういう値があるんや。そこまでは絶対に続けなあかんのや」

立三さんの声には、思いがこもっているのがオレにも伝わった。

【臨界質量/クリティカルマス】
本来は、放射性物質が連鎖的に核分裂反応を起こすために必要な質量。ビジネス用語では、ある商品やサービスが一気に広がる普及率の分岐点。

続きはこちら(ダイヤモンド・オンラインへの会員登録が必要な場合があります)