ついに筆者の念願がかなった、初の「スナック大宮」内結婚に至る経緯とは?(イラスト:堀江篤史)

神奈川県内の古い繁華街に来ている。表通りを少し外れたところに小さなマンションがあり、自営業の小林健太さん(仮名、40歳)と会社員の真央さん(仮名、38歳)が今年の夏から新婚生活を営んでいる。一人暮らし用のような間取りではあるが、センスよく整えられているので狭さは感じない。筆者が招き入れられたリビングにはベビーベッドが置かれていた。

最初から結婚前提で交際開始


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今年の春に出会い、デートを重ねて2カ月後には交際を始めた健太さんと真央さん。最初から結婚前提であり、交際してすぐに子作りを始めた。両家の顔合わせ、引っ越し、入籍は妊娠がわかった後のことだ。

「時間と健康だけは何かと交換できません。僕たちは不妊治療を受けるつもりはないので、子どもが欲しいのであれば時間を最優先しなければなりません。順番に、なんて言っている場合ではありません」

健太さんは穏やかな笑顔を浮かべながら、やや早口で説明する。彼には離婚歴がある。一人息子は前妻が引き取って育てているため、多くはない収入から養育費を払い続けている。離婚の理由は浮気やギャンブルなどのわかりやすいものではないという。この記事がもとで前妻を怒らせて息子に会えなくなるリスクは負えないと、多くを語ってはくれなかった。

離婚をしたものの、健太さんは「もう結婚はこりごりだ」とは感じなかった。むしろ、人恋しさが募ったようだ。今度こそ幸せな家庭を築きたい、できることならまた子どもを育ててみたい、と思った。

人懐っこくてサービス精神旺盛な性格の健太さん。花見やバーベキュー、友人宅を借りてのホームパーティまでを毎月のように企画して、多ければ20人超のメンバーを集めて酒盛りをするのが趣味だ。男女の区別なく出会いを楽しみつつ、気が合いそうな女性とは積極的にデートをし、再婚を模索していた。趣味と実益の両立である。

「僕は、1人でいるよりも家族と過ごすほうがいい。できれば子どもも欲しいので、相手にもある程度の若さを求めていました。すごくカッコよかったりお金持ちだったりすれば、50歳になっても若い女性と結婚できるかもしれません。でも、特別なものを持たない僕が30代の女性と結婚したいのであれば、自分も若いうちでないといけません」

冷静かつ謙虚な自己分析である。離婚経験によって覚悟が決まったのかもしれない。では、新妻の真央さんのほうは38歳になるまでどのような恋愛をしてきたのだろうか。

健太さんに買ってもらったという上品なマタニティドレスを着て、筆者のためにケーキとコーヒーを用意してくれる真央さん。フワッとした柔らかい雰囲気の控えめな美人である。

「私は20代の頃からお付き合いする人とは結婚したいと思ってきました。でも、3年ぐらい付き合っても、結婚したいのは私のほうだけだったり……。気がつくと30歳を過ぎていました」

真央さんが焦り始めたのは34歳の頃。一緒に合コンをしていた友だちが次々に結婚をしていき、合コンという出会いの場が急減したからだ。大手の結婚相談所に登録してもピンとくる男性とは出会えなかった。

「35歳のときに久しぶりに行った合コンで会った人と1年ぐらい付き合いました。でも、この人は結婚しなさそうだ、とわかったんです。その彼とも別れていろいろ悩んでいるときにスナック大宮を知りました」

恋愛が生じることもたまにはあったものの

手前みそになってしまうが、筆者は2011年9月からスナック大宮という読者交流飲み会を毎月開催している。本連載を含めた筆者の文章を読んでくれている人たちに集まってもらい、おいしいものを飲み食いしながらおしゃべりをする会だ。筆者としては「晩婚さんの取材ができそうな人が来たらいいな」といった下心もあるが、基本的には一緒になって宴会を楽しんでいる。

もちろん既婚者やカップルのお客さんもいるが、参加者の7割ぐらいは30代40代の独身男女だ。恋愛が生じることもたまにある。しかし、6年間も続けて、最近は月2回も開催しているのに結婚したという報告は得られていなかった。以前、本連載で日本最大の読書会「猫町倶楽部」代表の山本多津也さんにインタビューしたとき(カップルが続々誕生、日本最大読書会の秘密)、すでに40組以上の結婚カップルが生まれていると聞き、羨望と嫉妬を感じた。

そして、ついに筆者の念願がかなった。健太さんと真央さんは初のスナック大宮内結婚なのである。健太さんは2回目、真央さんは3回目の参加でお互いを見つけ、LINEを交換して、ランチデートをすることになった。

「真央さんが小さい頃にインドに住んでいたことがあると聞き、うちの近くのおいしいインドカレー屋さんに連れて行きました。でも、遠くから来てもらうのにランチだけで済ませるのは申し訳ないですよね。街を案内した後、早めのディナーにも誘って、さらにバーにも行きました。終電で帰ってもらえばいいと思っていたのですが、気がついたら電車が終わってしまっていたので、始発まで居酒屋にいたんです。ひたすらしゃべっていました」

初デートなのに17時間ぐらい一緒に過ごしたことになる。相性がいい証拠だろう。ただし、健太さんの下準備と誠実さが生きたことも見逃せない。スナック大宮という小さな共通点に頼るのではなく、LINEでのやり取りで真央さんのバックグラウンドや興味を事前に調べ、デートコースや話題を考えた。終電がなくなったからといって自宅やホテルに連れ込むことはせず、飲食店でおしゃべりをして楽しく過ごした。真央さんもうれしかったに違いない。

「前の結婚のこともいろいろ聞くことができました。息子さんをすごく愛していることも伝わってきて、『いい人だな』と思ったのは確かです。でも、私にとっては想定外の条件なので、その日に気持ちを整理することはできませんでした」

健太さんとしても強引に交際して結婚するつもりはなかった。「バツイチ同士が気楽でいい」と思っていたので、未婚の真央さんと付き合える可能性は低いと思っていたようだ。並行してデートをしている女性がほかに2人いたという。結果として、真央さんとのコミュニケーションが重苦しくならずに済んだ。

「その後、真央さんと一緒にスナック大宮に行ったことがありましたよね。あのとき大宮さんから『付き合っているの?』と聞かれましたが、まだ決まってはいなかったんです。実は翌日も2人でピクニックをする予定があり、そのときにちゃんと告白しました。ダメなら早めにダメだと言われたほうがいいと思ったからです」

健太さん、丁寧だけど性急な男性である。しかし、1年以上付き合っても結婚を考えてくれない男性との交際にうんざりしていた真央さんは、健太さんの迅速なステップに応えることができた。数日の間に自分の気持ちを整理し、覚悟を決めていたのだ。

「私も子どもが好きだから子どもは欲しい。でも、もしかすると妊娠できないかもしれないので、すでに息子さんがいることは1つの安心材料です」

この言葉を聞いて、健太さんは真央さんとの結婚が成功することを確信。そして、交際期間ゼロの婚約を交わした。

「今まで会った女性から『子どもがいることは気にしない』と言ってもらったことはあります。でも、子どもがいることをプラスに評価してもらったのは初めてでした。この人しかいない!と思ったんです」

真央さんにはもう1つの覚悟があった。安定収入ではない自営業の健太さんと結婚した場合、自分の母親のように専業主婦になることはできない。健太さんからも「養育費のこともあるので、働いてもらわないと家族としてやっていけない」と言われている。幸いなことに、真央さんは都内の会社で正社員の事務職をしている。仕事を辞めない決意をすれば、家庭を築ける見通しが立った。

一緒に住み始めて、健太さんも真央さんも「安心」を何より実感している。離婚の痛手で不眠症ぎみだった健太さんは、今では真央さんよりも先に入眠できると笑う。真央さんは不安やイライラが激減し、つねに穏やかにいられるようになった。

「健太さんは家事力がすごいので、私の担当は料理とトイレ掃除だけ。なんだか申し訳なくて……」

真央さんは幸せそうに恐縮するが、特に洗濯には神経質なほどのこだわりがある健太さんとしては洗濯と掃除を一任してもらったほうが心地よいのだ。真央さんと出会う前は、家事が苦手な高収入のバリキャリ女性と結婚して、自分は家事や育児の多くを担ってバランスを取ろうと思っていたと明かす。しかし、今は条件とは異なる真央さんとの生活に満たされている。

「検索条件」や「理想像」から離れたとき

「スナック大宮には文章を読む習慣がある人が集まっていますよね。だから、話が合いやすくて安心感があります。みんなが会話をする気持ちで来ているのもいい。合コンや婚活パーティではないので、男女問わずに出会いが広がりますよね。だからこそ、婚活の条件とは外れた人と出会い、結婚することができたのだと思います」

自分が幸せになると、他人を励ましたり支えたりする余裕が生まれる。健太さんと真央さんは声をそろえてスナック大宮に感謝し、筆者を激励してくれた。ほおが熱くなるほどうれしかった。

その気になれば、出会いの場は世の中に無数にある。筆者の読者が集まるスナック大宮はややマニアックな一例にすぎない。ポイントは、自分が興味を持つことができて居心地のよさも感じられる場所で、男女や既婚未婚の違いをあまり気にせずに朗らかに交流することだろう。行きつけの飲食店で常連仲間と親しくなるのは典型例だ。すると、頭の中で描いていた理想像とはかけ離れた人を好きになったりする。

他者との会話と共同生活を通じて、自分の中にあるよきものを発見して育てていくこと。それが結婚の意義の1つだと筆者は思う。想定外のうれしい自分に変わっていくことだと言い換えてもいい。「検索条件」や「理想像」から離れたとき、そんな結婚ができる相手が見つかるかもしれない。