古民家の造りはそのままに、7軒の居酒屋が入居する(写真:Good market&shops提供)

東京・渋谷区の代々木駅から山手線のガード下をくぐり、歩くこと1分、オレンジの光が漏れる古民家群がある。7軒の古民家を再利用した飲食店の集合体である「ほぼ新宿のれん街」ができたのは2017年3月だ。もともと人気(ひとけ)の少ない場所だったが、のれん街の出現で、人波ができるようになった。

日本フードサービス協会の推計によれば、2016年の外食産業市場は25兆4169億円で、前年比から0.1パーセント微増した。2012年から5年連続で市場は増加しているが、すべての外食産業が好調なわけではない。業態で言えば、ファミリーレストランや食堂、ファストフード店などの売り上げは軒並み順調だが、居酒屋、ビアホールなどの飲み屋は前年より4.9パーセントも減少した。

このような縮小傾向にある市場に新しい風を吹き込むのが「ほぼ新宿のれん街」の運営主体である、Good market&shops(2013年創業)だ。

業態と立地のマッチングで売り上げは変わる

同社は、飲食店の出店のサポートを大きなテーマに掲げている。主な業務内容は、市場リサーチをしたうえで飲食店に適した場所と物件を探し、賃貸契約を結ぶ。そこに出店を希望する企業、または個人に、立地に適した業態を提案し、オーナーとタッグを組んで運営していくというものだ。

運営自体の業務委託を受けることもある。「ほぼ新宿のれん街」に関しても同様で、7つのお店が集まるのれん街を運営し、各店舗のオーナーは自分のお店を管理するというシステム。つまり「ほぼ新宿のれん街」を1つの商業施設に例えると、各店舗はその施設の1区画を借り、営業をしているということだ。

なぜこのような仕組みを考えたのかについて、代表取締役の清水暁弘氏は、次のように語る。「飲食店事業の成功には、物件が第一にかかわってきます。たとえすばらしい業態で、料理がおいしく、接客も良く、コンセプトも良いというお店があったとしても、物件の選定を間違ってしまうと、経営はうまくいきません。それとは逆に、好立地の物件を取得しても、そこに見合う業態でなければ失敗してしまいます。我々はこの不一致を解決する役目を担っているのです」。

同社は、以前、世界文化遺産である姫路城の改修工事に伴う、姫路駅を含めた再開発事業にもかかわっていた。そこで作ったのが「姫路のれん街」。ここでは地元の兵庫名物を提供するお店を4店舗集めている。これもすべて、市場リサーチをもとに場所、物件を考慮したうえでの業態をセレクトしているのだ。


開業前はツタに覆われた古民家があるだけだった。後ろにあるのがNTTドコモ代々木ビル(ドコモタワー)写真:株式会社Good market & shops提供

「ほぼ新宿のれん街」は、代々木駅から山手線のガード下をくぐった先にある。お店が乱立する駅の反対側と比べ、人通りは少なく、飲食店をするうえで立地が良いとは決して言いがたい。また新宿駅からも徒歩5分圏内にあるが、人波も新南口を出たタカシマヤ タイムズスクエアくらいで終わってしまう。

今でこそ、レトロでおしゃれな空間が存在しているが、それまではツタまみれの鬱蒼(うっそう)とした廃虚しかなかった。

なぜ、この場所に作ったのだろうか。

「この場所(ほぼ新宿のれん街)は、なかなか歩かない所ですよね? はじめ、古民家の情報を入手した時、『面白そうな物件だな。ちょっと見てみようか』という軽い気持ちで現地に行ったんです。実際に見て、いいなと思ったのですが、このエリアは、地元の人以外知られていないですし、飲食店はまばら。1店舗で勝負しても、勝てない場所だなと感じました」と話し、次のように続ける。

「ただ、裏をのぞいたところ、同じような民家がまだ6棟も残っている。これすべて合わせて勝負すれば、勝てる。そう思ったんですよ。人通りの少なさと、ツタまみれの古民家ということを除けば、代々木駅から徒歩1分、新宿駅から徒歩5分という好立地です。だから企画書を持って大家さんに直談判したんです」と清水氏は笑った。

「インスタ映え」を狙った店舗づくり

開店1年間の売り上げは、トントンか赤字を覚悟。その後、古民家ののれん街として話題になり、メディアに紹介されながら2、3年目には黒字転換という運営計画を立てていた。


7軒のお店は「いろはにほへと」と区分けされ店を構えている(筆者撮影)

その予想を裏切り、開店当初から売上高は想定を超えた。初年度ながら単月黒字化を続けている。オープンから10カ月足らずだが、客数は月間1万〜1万2000人、客単価はお店によってまちまちだが、2500〜5000円くらいまでという。

オープン時にプレスリリース以外は、何もメディア対策をとっていなかったという中での、この集客力はなぜ実現できたのか。その勝因は、想定外のツイッターの拡散やSNSだった。

これまで廃虚だった場所に、おしゃれな古民家の集落ができたことのインパクトは大きい。お客ではなく、通りすがりの人が写真を撮り、そのままSNSにアップ。それが拡散していったという。想定外とは言ったが、それはバズったことが想定外であり、SNSから拡散させようという戦略は、改修工事の時から考えていたのだ。

長い間、空き家になっていた古民家なので、耐震補強から水道、電気など、すべてのインフラを整えなければならなかった。物件を借りてからオープンまでの工事期間は約1年。この期間もPR戦略としてとらえていた。鬱蒼とした廃虚集落に工事現場のフェンスが立ち、ツタがなくなっていく。


古民家とドコモタワーが1つの構図に収まるこの写真は「インスタ映え」すると話題だ(筆者撮影)

徐々に整備されていくと、通行人は、「何が建つのだろう」「あの建物はいつになったら壊れるんだろう」と興味を持つ。このご時世、古い建物が壊されれば、あとに建つのは、新しいビルと相場は決まっている。

しかし、そこに現れたのは古き良き外観を生かした古民家ののれん街だった。清水氏は、大きなインパクトを与えることができると踏んでいた。現にのれん街の姿が現れると同時に写真を撮る人が増えたという。

改修工事が終わりオープンまでの1、2週間で、外国人も含めて多くの人が写真を撮りに来ていた。スマートフォンだけではなく一眼レフカメラで撮り続ける人もいた。

実際に、現地に行けばわかるが、あるアングルから古民家群を見上げると、手前に古民家群、その奥にはドコモタワーが見える。近未来と昔年の面影を同居させた構図は多くの通行人を魅了した。このアングルから写真を撮る人が多く、その人がお客となっていくのだ。まさに「インスタ映え」するのれん街となったのだ。

これについて清水氏は、「インスタ映えするこのアングルは、店舗の企画戦略の段階で拡散するだろうと思っていた」という。「インスタ映え」を広告戦略と考えるならば、偶然に良いアングルが見つかるのを待つのではなく、そのアングルを作るという意思がなければならないのだ。

3つのコンセプトで幅広い客層を確保する

「ほぼ新宿のれん街」には、シャンパンと餃子が楽しめる「泡包 シャンパンマニア」、霜降り牛タンが楽しめる「牛タン いろ葉 別邸」、イタリアンバルの「Azzurro520代々木店」、アジア料理の「アローイ兄弟」、焼き鳥の「代々木 神鶏」、海鮮焼きの「貝焼酒場 カイフォルニア」、もつ焼きの「キャプテン」という業態の異なる7店舗が軒を連ねる。

のれん街に入店させる業態に関しては、3つのテーマから考えていた。


古民家が取り壊されることなく、原型を生かしてのれん街に変身した(写真:株式会社Good market & shops提供)

1つ目は、店舗の不具合を了承してくれるオーナー。改修したからといっても、古民家は古民家。50年以上経った躯体を生かし、なるべくその面影も残したため、雨漏りをするときもある。その他の不具合も出てくるだろう。

このような問題を理解し、逆にそれを生かしてくれるようなオーナーに入ってもらおうと決めていたのだ。清水氏は「この物件を見た時にザワザワと、何か感じてくれるオーナーに入ってもらいたい」という表現で、人と物件との巡り合わせの重要性を付け加えた。

2つ目は、古民家と連動できるオーソドックスな業態であること。

たとえば和の焼き鳥や、牛タンなど、「和」のもので、年配の方にとっては、懐かしさを感じるようなお店だ。そのためにできるだけ古い部分を残した。古い家で古くからある食を堪能する。まるでタイムスリップしたような感覚をおぼえるだろう。

3つ目が、古民家というイメージとは真逆の業態を入れるということだ。和洋折衷のように、古民家でシャンパンやワインを飲むという、意外性を提供する。このギャップが若者の層をつかむ。古きと新しきのコラボレーションだ。 

7軒はしごして、飲んでもらえたらいい

20代、30代には「斬新さ」、50代、60代には「懐かしさ」の空間を提供しようというのが、同社の狙いだ。また、このような千差万別の業態を集めることで、趣味趣向の異なる客が集まる。清水氏は、「最低でも2軒ははしごしてもらいたい。もっといえば7軒、行ってもらえるといいですね。どこのお店も気軽に入り、1、2杯飲んで出入りできるお店なので」という。

冒頭でも書いたが、微増する外食産業市場とは別に、居酒屋などの業態は、縮小傾向にある。

最後に、清水氏は、「外食のマーケットはこれからどんどん確実に縮小していくでしょう。少子高齢化もありますが、若い子が、あまりお酒を飲まない傾向もあって、確実にマーケットは年々縮小していきます。だからこそ、お客様が外食をしたいと思える場所を作り続けていきたいと思うのです。たとえば、彼女をデートに誘って喜ばれる、幹事さんが忘年会に連れて行くと社内での株が上がる(笑)、そんな空間を提供したいと思います」と語った。

「ほぼ新宿のれん街」が業界の中でも注目を集め、同社には各企業から依頼が舞い込んでいるとのこと。あなたの街にも突然、古き良きのれん街が生まれるかもしれない。