子どもが大きくなってきたら、実は保険は解約しても良い。だがその前にすべき大事なことがある(写真:saki/PIXTA)

今回は、子どもを持っている夫婦に向けて、「生命保険の見直しをどうやってすべきか」というお話をしたいと思います。特にあてはまるのは「50代前後くらい以上で、子どもが高校生から大学生くらいになった(あるいは手がかからなくなった)方々」ですが、そうでなくても、考え方はぜひ参考にしていただきたいのです。

生命保険は子どもが成長したら、どうする?

生命保険とは、遺族の生活を支えるものです。親としての自分に「もしも」のことがあった時、親の責任としてもっとも重要なことは、子どもの生活保障をすることです。逆に言えば、あくまで一般論ですが、「生命保険は、子どもが成長したら解約しても良い」のです。

こうした話は、頭では理解できるかもしれません。しかし、実際にやめるとなると、「なかなか踏ん切りがつかない」という方も多いものです。中には「保険をやめたとたん、不幸が訪れる」と、保険の担当者から呪いめいたことを言われ、二の足を踏む人も少なくありません。もちろん「万が一」は誰にとっても恐怖です。しかし、あらかじめ「その時、どういうことが起こりうるのか」を予測することで、見えてくるものもあります。結論から言いますと、「子どもに手がかからなくなったら、生命保険の解約や変更をしてもいい」のですが、その前に「やることがある」のです。

どういうことでしょうか。50代前後の方々の目線に立って、まずこれからのおカネの流れを予測していきましょう。勤務先によっては「55歳役職定年」や「出向」というシナリオが待っているところもあります。「よく知らない」という方はこの機会にしっかり情報収集しましょう。人事部主催のライフプランセミナーなどが開催される場合は、積極的に参加されることをお勧めします。

筆者はファイナンシャルプランナーとして、企業のライフプランセミナーを担当することがありますが、自分自身の会社の仕組みを知らない人が本当に多いのです。たとえば典型的なのが役職定年です。

役職定年になるとどうなるでしょうか。それによって減額される給与額は、会社によって異なります。しかし、一般的には「現状の3割か4割減」となるところが多いのではないでしょうか?

定年前の5年間で計1000万円超の収入減も

仮に給与が50万円であれば、3割減なら15万円のマイナスです。4割減なら20万円のマイナスです。年間にすると、180万円から240万円もの減額です。55歳で役職定年を迎え、60歳までの5年間と考えると、なんと900万円から1200万円ものおカネが入らないことになります。

今勤務している会社の定年は、何歳ですか? また、もしかしたら「60歳以降も同じ職場に継続雇用される」と、なんとなく考えていませんか? そうだとしても、給与がどうなるか、知っていますか?

「再雇用の際は、時給で支払う」という会社も多いのです。ある会社が主催するライフプランセミナー講習会で「定年後の時給は1000円程度」だと初めて知って、「息子のバイトの時給の方が高い」と嘆いていた人もいます。

まずは本人が会社の仕組みを知らなければ、奥さんがそれを知る由もありません。たとえば子どもに手が離れたと思って、奥さんはパートタイムの仕事を辞めようかと思っていたりするかもしれません。また「教育費の支払いが終わるので、少し家計に余裕ができるはず」と友達との旅行を計画していたり、少し財布のひもが緩みがちになる家庭もあります。なによりも「今後もそこそこ収入が安定し、数千万円もの退職金がもうすぐ手に入る」と思っていれば。当然おカネの計画も変わります。

どの企業のライフプランセミナーで講師を務めても感じることは「50代で給与が下がるというのはなんとなく想像はしていたけれど、実際の金額を知ると愕然とする」という方がとても多いことです。

脅かしてばかりですみませんが、ここからは具体的に、「定年までの家計の収支」を見積もっていきましょう。

まず、「お子さんの教育資金の支払い」は間に合いますか? たとえば「住宅ローンが75歳完済だから、子どもが大学を卒業したら、その分が浮くので、繰り上げ返済に充てよう」などと漠然と思っていませんか?

この際、退職金についても、あらかじめしっかりリサーチしましょう。

退職金には一時金で受け取れるものと、年金として受け取るものがあります。会社によっては、あるいは一部を一時金で受け取り、一部を年金で受け取るなどの選択ができる場合もあります。

勤続30年なら退職金1500万円までは非課税に

受け取り方が変わると、所得にかかる税金の計算が異なります。一般的には、一時金で受け取る方が「退職所得控除」という勤続年数による非課税枠を使えるので有利です。具体的に言いますと、退職所得控除は勤続年数20年までは1年当たり40万円。20年を超えると1年当たり70万円で計算します。つまり、勤続30年だと800+700=1500万円、38年なら800+1260=2060万円の退職所得控除が使えます。なお、退職所得控除を上回った分の退職金については、その半分が課税する所得とみなされ、所定の分離課税が課せられます。

一方、年金で受け取る退職金は企業年金と呼ばれ、公的年金控除の対象となります。65歳までとそれ以降では、後者の方が、控除枠が大きくなりますが、老齢厚生年金、老齢基礎年金と同じ扱いとなるので、いつ受け取っても、やはり優遇されています。

かつて厚生年金基金が全盛であった頃は企業年金は終身保障でしたが、今は70歳あるいは75歳までの確定年金としている会社も多くなりました。受け取り開始年齢も60歳ではなく、65歳に引き上げられたりしているところもあります。

また、かつては5.5%での運用利回りを保証していた厚生年金基金も、多くが確定給付企業年金あるいは確定拠出年金に変更されています。仮に厚生年金基金として残っていたとしても、今後高金利を維持できるだけの体力が本当にあるのか見極めなければなりません。もしかしたら、退職後に基金が解散し不利益を被る可能性があれば、終身年金ではなく、なるべく早くに一時金で受け取った方が良いかもしれません。

さて、ここまで退職金のお話をしてきましたが、「生命保険の見直しに、なぜ退職金が関係あるのか」と、不思議に思う人もいるかもしれませんね。

その理由は、50代の保険の見直しをするにあたって、「今あるおカネ」と「これから入るおカネ」を見極めなければならないからです。

この年代のご家庭はこれらのおカネを、漠然とごちゃまぜにしている場合が多いのです。妻の立場で考えた時、「夫が生存しているから受け取れるおカネ」は、夫が亡くなるともらえなくなり、妻が生活に使えるおカネは夫死亡時点での残高のみとなります。一方で、「夫が亡くなっても受け取れるおカネ」があれば、それは「妻の生活保障として、見積もれるおカネ」となります。

たとえば、前述した「夫の給与」や「定年後の時給」「企業年金」は夫が元気でいることが条件で入ってくるおカネです。なお、退職金は退職前に夫が亡くなると、死亡退職金として受け取りが可能です(通常の退職金よりも減額される場合が多い)。

100歳までの「キャッシュフロー表」を作成してみる

50代前後の方は、できれば、これから100歳までの「キャッシュフロー表」を作成すると良いでしょう。その中で、夫が先に亡くなるケース、妻が先に亡くなるケースでキャッシュフローがどう変化するのかシミュレーションしてみるのも有効です。

具体的に、簡単ですがやり方を説明しましょう。

まず、夫が先に亡くなるケースを説明しましょう。夫が受け取る老齢厚生年金は、夫が亡くなると、妻にはその4分の3にあたるおカネが遺族年金として、生涯にわたり支給されます。夫が受け取る老齢厚生年金の額は、「ねんきん定期便」を見ればわかります。50歳以上の人のねんきん定期便は、年金見込み額が掲載されているので、ほぼそこに書かれている年金額で確定と理解できます。

ただし、いくつか考慮すべき点があります。

実は、50歳以上のねんきん定期便には、発行時点での給与額がそのまま60歳まで維持されることを前提として計算されています。老齢基礎年金は国民年金ですから、60歳までの加入は働いていても、働いていなくても義務ですから問題はありません。しかし、老齢厚生年金は給与額が年金額に反映されます。したがって、前述した役職定年等があると、実際の老齢厚生年金額はねんきん定期便に記載される金額を下回ってしまうのです。

あくまでも概算ですが、減額分については「給与額(実際には4〜6月の3カ月分の総支給額を平均化した標準報酬月額で計算)×5.481÷1000×該当月数」で「あたり」をつけることができます。たとえば給与50万円が35万円に減額見込みであれば15万円マイナスです。この金額を先ほどの式に当てはめてみます。

15万円×5.481÷1000×5年×12か月=4万9329円となります。つまり、月収が15万円減ると、役職定年前に発行されるねんきん定期便の老齢厚生年金額よりも、年金が約5万円減額されると見積もることができます。「年額で5万円だから、たいした金額ではない」と思うかもしれませんが、仮に30年間老齢年金を受給すると、150万円もの差額となります。

一方、老齢厚生年金の支払いなどで重要になる標準報酬月額は62万円が上限です。したがって、これまでもこの額が62万円以上だった場合、この額を下回らない限り、老齢厚生年金額には変化がありません。また老齢厚生年金の計算には賞与も含まれます。ですから、55歳以降、賞与も大きく変化するような場合、年金事務所などであらかじめ今後の見込み年金額について説明を受けると良いでしょう。逆に言えば、役職定年後に発行されるねんきん定期便は、給与が減額になったことを反映して老齢厚生年金の見込み額が書かれていますから、今後はあまり変化がないと考えることもできます。いずれにしても、ねんきん定期便は非常に重要な書類ですから、きちんと確認しましょう。

生命保険継続の場合は?

前出のとおり、会社員だった夫が亡くなると、妻には夫の老齢厚生年金の4分の3が終身で支払われます。夫が亡くなった時点で、厚生年金加入期間が300カ月に満たない場合、「短期要件」といって老齢厚生年金を300カ月加入とみなして遺族厚生年金を計算するという特例があります、また会社退職後の受給は、ねんきん定期便の受給資格期間が300カ月以上であることが条件ですので、過去に未納期間が多い場合は注意が必要です。

一方、遺族年金は妻に850万円以上の継続的な年収があると認められると一切支給されなくなりますし、妻自身に老齢厚生年金があると調整されます。たとえば、妻に会社員経験がなく自身の老齢厚生年金がない場合は、夫が亡くなったことによる遺族厚生年金(夫の老齢厚生年金の4分の3)と、妻自身の老齢基礎年金を受給します。しかし妻自身が会社に勤めている(老齢厚生年金がある)場合は、まず妻の老齢厚生年金が優先され、遺族厚生年金額がそれを上回る場合にのみ、差額が老齢厚生年金に上乗せされます。したがって、妻が働いていてしっかり老齢厚生年金がある場合、夫が死亡すると夫の老齢年金はすべてストップして、妻の年金のみとなります。妻の老齢基礎年金は、調整されません。

このように、50代の保険の見直しは単純に「子どもが育ったから要らない」というわけではなく、これからの夫婦のおカネの流れを把握した上で検討する必要があるのです。「なんとなく大丈夫そう」とするのではなく、これを機会にしっかり検討されることをお勧めします。もし生命保険を継続させたいとなった場合、会社で入っていた団体生命保険が退職後も継続できるかなども確認しましょう。会社を辞めると契約を継続できないこともありますし、少し保険料が上がる場合は、「払い済み」ができるかどうかなど考えます。

さらに、生命保険には、遺族の生活保障のほかに相続対策という意味合いもあります。生命保険は受取人が指定できますし、相続税資金の手当てに有効です。また「500万円x法定相続人の数」の分の、非課税枠も使えます。あまり知識がないまま保険の解約を依頼すると、相続対策として保険を継続しませんか?などといわれてしまいますが、また別の生命保険の契約をすると亡くなるまで使えないおカネになりますので、本当に相続対策としての生命保険が「今」必要なのかどうか、じっくり考えましょう。

なお、相続税対策の生命保険はおカネの保険ですから、契約にあたって原則健康状態は問われません。また支払った保険料がほぼそのまま死亡保険金となるものが多いです。老後の生活の見込みがたち、やはり相続税対策が必要と判断されてから加入しても間に合います。