デジタルパブリッシャーのマッシャブル(Mashable)は、「pivot to video(動画への転向)」の申し子だった。だがマッシャブルはジフ・デービス(Ziff Davis)に5000万ドル(約56億円)で売却され、同社の野望は潰えることとなった。

マッシャブルの内情に詳しい複数の人間からの情報によると、12月第1週に行われた売却に伴い、50人近いスタッフを抱えていた同社のマッシャブルスタジオ(Mashable Studios)の動画部門は13人を解雇したという。この解雇にはロサンゼルスを第一拠点とするクリエイティブ製作チームも含まれている。同チームは米テレビ局ターナー(Turner)をはじめとする従来型のテレビ局や、ベライゾン(Verizon)のゴー90(Go90)といったストリーミング放送のプラットフォーム向けに長時間動画番組の開発、販売、製作に力を注いでいた。同チームは昨年、マッシャブルがターナーと長時間動画のバイヤー向けプロジェクトの一環として1500万ドル(約16億円)の契約を結んだ際に立ち上げられた。

前述のソースによれば、マッシャブルスタジオのプレジデント、エリック・コーシュ氏はこの変化を受けて会社を去る。一方で、発行人のグレッグ・ギットリッチ氏と編集長のジェシカ・コーエン氏は同社に残る見通しだ。また、12月5日のRecode(リコード)の報道によると、マッシャブルの創設者でありCEOのピート・キャッシュモア氏も残留するという。

50人が解雇の見通し



この解雇の意味するところは、マッシャブルスタジオの仕事はソーシャルメディアのコンテンツとディストリビューションに絞りこまれるということだ。Facebookやインスタグラムの日常的なコンテンツや、Facebookの「Watch」におけるマッシャブルの番組、YouTubeの同社のチャネル、Snapchatの「ディスカバー(Discover)」チャネルなどがこれに当たる。

Recodeの報道では、ジフ・デービスへの売却に伴うマッシャブルのレイオフはおよそ50人になる見通しとなっている。あるソースによれば、動画部門以外での解雇は、人事部、財務部、業務部といったジフ・デービスの業務と重なる部分が大半だ。またマッシャブルのアジア支部も閉鎖する。

12月のはじめにキャッシュモア氏が米DIGIDAYに送ったメモのなかで、同氏は解雇が実際に行われること、今後マッシャブルはデジタルカルチャーとテクノロジーを中心分野として取り組んでいくことを語った。複数のソースによれば、ジフ・デービスの買収理由であるマッシャブルの編集関連の運用の大半は変わらない見通しだという。

野心的な賭けに負けた



前述のメモのなかで、キャッシュモア氏は次のように述べる。「デジタルメディア企業にとって特に厳しかったこの数年において、ジフ・デービスはビジネスやテクノロジー分野で素晴らしい業績を成し遂げてきた。ジフ・デービスの躍進の一因は収入源の分散にある。そのなかでもっとも顕著に成功を収めているのが、大規模なアフィリエイト事業だろう。……今後は我々もジフ・デービスと同様のベストプラクティスを活用し、関係性を発展させられるだろう」。

ここ1年マッシャブルは、動画の未来は外部のWebサイトやプラットフォーム上で再生する「フランチャイズ」にある、という野心的な賭けに出ていた。

ソーシャルプラットフォームやほかのデジタルコンテンツのバイヤーがテレビ的な動画プログラムを探すなか、マッシャブルは積極的に販売を行ってきた。Facebookの「Watch」の第1弾として、マッシャブルは資金提供を受け「デイズ・オブ・リコード(Days of Record)」「DIY コスチューム・スクワッド(DIY Costume Squad)」「ホワッツ・ユア・マット(What's Your Mutt)」の3番組を販売した。ほかにもマッシャブルにデジタル番組を2番組製作することを依頼したナショナル・ジオグラフィック(National Geographic)や、3番組の製作を依頼したブラボ(Bravo)などが、マッシャブルのコンテンツを購入している。

キャッシュモア氏は、3月のパブリッシャーサミットでの米DIGIDAYとのインタビューで、「当社でとりわけ成長スピードが速いのは、配信者と協力しての番組やプレミアムコンテンツの製作だ」とし、次のように語っている。「既存のテレビと協力するか、または(自社で)番組をはじめる形で行っていく」。

デジタルメディアの冬



マッシャブルはFacebookの「Watch」の取り組みについては継続していくつもりだが、マッシャブルの動画部門はソーシャルのコンテンツとディストリビューションに集中する計画を立てており、プラットフォームでのストリーミングや既存のテレビ番組への取り組みは計画に含まれていない。Snapchatのディスカバーで日常的に更新されているマッシャブルのチャネルは利益を生んでいるためそのまま継続される。シネフィックス(CineFix)といった、マッシャブルのYouTubeチャネルについても同様だ。

マッシャブルが今回格安で売却され、規模を縮小することになったのは、いまのデジタルメディア企業にとって厳しい時節が背景にある。BuzzFeedおよびVice Mediaの両社も年間売上目標に達しない見通しとなっており、BuzzFeedは広告事業運営を再編成するためおよそ100人の従業員のレイオフを計画している。マッシャブルと同様に、この両社もデジタルメディアとして大きな企業評価額を誇りながらも、ほぼ広告収入のみで会社を支えなければならない現実に苦しんでいる。各社はデジタル広告のシェアを増やそうと、大々的に「動画への転向」を打ち出したものの、目論見どおりの結果は得られなかった。

「動画への転向を公表した企業は多かったが、その大半は投資家を満足させ、自分たちに勢いがあることを市場に示すためだったのだ」と、ガーションメディア(GershonMedia)でプレジデントを務めるバーナード・ガーション氏は分析し、次のように語った。「だが現実に目を向ければ、キャッシュフローをプラスに保つため収益の多様化は必須だ。広告だけで生き残るのは不可能なのだから。これからはどの会社でも動画への挑戦は縮小して、独自の収益源を探すようになると確信している」。

SAHIL PATEL(原文 / 訳:SI Japan)