三浦・市橋組、西日本選手権でのショートプログラムの演技

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今日から始まる全日本選手権。世間の関心はどうしても男子、女子に集まるが、ペア、アイスダンスにも是非注目してもらいたいものだ。近年はオリンピックで団体競技が実施されるようになったこともあり、ペア、アイスダンスの強化、育成は急務となっている。日本でもトライアウトの実施など、連盟の努力の甲斐あって、新しいペア、アイスダンスカップルが続々と誕生している。練習環境の問題、そして選手同士の相性(家族の相性もとても大切だ)など、カップル競技は続けるだけでも大変な世界だ。まして、世界のトップクラスで戦うまでに至るには筆舌に尽くしがたい苦労があるものだ。今回はジュニアカテゴリーながら、シニアの全日本選手権に推薦出場する、三浦璃来・市橋翔哉組を取り上げたい。二人がペアを結成したのは2015年のこと。当初はシングルとペア、二足の草鞋で活動していたが、今季からペアに専念することとなった。昨シーズンは世界ジュニア選手権にも出場。今季はジュニアグランプリに2戦派遣されるなど、将来を嘱望される期待の若手だ。ペア結成当初からずっと演技を観ているが、特に今季の成長振りは著しいものがある。ペアとして最も大切なユニゾン(二人が息の合った、調和の取れた動作をすること)が飛躍的に向上したのだ。元よりシングル選手としても実績のある二人であり、ジャンプの能力は高い。スロージャンプは今年からトリプルループを採用し、その成功率は高い。まずは今季の国内初戦、西日本ジュニア選手権での取材から二人の声をご紹介したい。

【写真を見る】三浦・市橋組、西日本選手権での演技。今季の進境は著しいものがある

■ 今季の国内初戦は素晴らしい演技!一躍、オリンピック代表へ名乗り!

西日本選手権のショートプログラム、ここでの彼らは、ミスはあったものの自己ベストのスコアをマークした。これには「自分でもびっくりした」という。着実に評価が上がってきている証だ。

市橋:「ジュニアグランプリに2戦出させてもらった経験を無駄にしたくありません。海外の試合に出ると、自分達がまだまだレベルが足りないということを自覚させられます。海外の選手達に少しでも近づきたい」

三浦:「エレメンツだけでなく、滑りも強化したいです」

と、海外の試合を体験したことで、普段の練習への取り組みについて意を新たにしたようだ。今季からペアに専念したことについては、

市橋:「去年までは、シングルの試合のためにペアの練習ができなかったりして、自信を持てずにペアの試合に臨むことがありました。ただシングルをやっていた時のスケーティングなどが今に生きているので、両立してきたことは正解だったと思います」

二人はカナダ、モントリオールでもペアの練習をしている。その点について尋ねると、

市橋:「去年は、夏休みの期間だけカナダで練習していました。今年からは、夏休みに行って、12月にも行く予定があり、2月、3月にも行くかもしれません。普段のベースは日本です。大変だけれど、それは最初から分かっていたこと。言い訳にはしたくないんです」

驚いたことに、普段は自主練習なのだという。大会期間だけ、東京の大石コーチに見てもらっているが、大石コーチは東京でシングルの選手を多数抱えて多忙なため、普段は練習を見に来てもらうことはないのだという。そもそもペアのエレメンツの練習は一般営業のリンクでは行えない。現在は、木曜日は関西大学のリンク、週末は中京大学のリンクで滑らせてもらっているのだそうだ。そんな厳しい環境で練習しているとは思えないほど、今季の成長は素晴らしいものだ。ペアで最も大切なユニゾンも、とても息が合ってきた。

市橋:「始めた頃に比べると、できる技も点の高いものになってきました。二人で合わせる力もついてきたと思います。普段、先生がいないこともあり、お互い動画を見て、合っていない手の動きを合わせるように心掛けています」

トリプルループにしたスロージャンプが安定してきたことに加え、デススパイラルも上達した。

市橋:「去年はスロージャンプでトリプルを入れるのがやっと、という状態。今年は加点のもらえるスロージャンプができるようになってきました」

迎えたフリースケーティングでは、大きなミスのない素晴らしい演技を披露することができた。会場の心を掴み、盛大な拍手を浴びていたが、それにはもう一つの理由があった。この日は市橋選手の誕生日だったのだ。前日に「パーフェクトな演技で誕生日を祝いたい」と話していた二人だが、細かなミスが納得行かなかったようで、「来年こそはパーフェクトな演技を」と気合を入れていた。

進境著しい彼らだが、まだまだこれから克服しなければならない課題も多い。まずは彼ら自身も自覚しているツイストリフトだ。現状、ダブルツイストしかできないのだ。

市橋:「オフアイスでは3回転の練習を始めています。今シーズンのうちに間に合えばいいかな、という感じです」

ツイストリフトをトリプルにするためには高さが必要なのだが、これは男性の筋力だけの問題ではなく、高く上がるための技術がとても重要だ。

市橋:「一番大事だと思っているのはお互いのタイミング。タイミングが悪いと高さも出ませんし、形も悪くなります」

三浦:「高さが出てるな、と自分で思ったときでも、今は2回転半しか回れません。練習あるのみです」

もうひとつ、喫緊の課題として改善すべきなのはスピンだ。ペアスピン、サイドバイサイド、どちらもまだまだ伸びしろがあり、十分に得点源にできるはずだ。

市橋:「自分達でもそれは感じていて、やればやるだけ得点源になると思うので、もっと練習していきたいです」

実は三浦選手は逆回転スピンが得意で、シングルの選手として演技していた時にはいつも逆回転スピンを取り入れていた。ただ三浦・市橋組としては逆回転スピンを披露することはない。市橋選手が逆回転スピンができないのだ。昨年にもこの話を市橋選手に振ったことがあり、練習した方がいいよ、と促していたのだが、

市橋:「遊びで練習することはあります。この間、やってみたんですが、初めてにしては上手いかな?と思いました」

逆回転スピンが得意な三浦選手の感想は?と問うと、

三浦:「見てないです」

市橋:「もうちょっと上手くなったら見せます」

どうやらパートナーに内緒で練習していたようだ。得意な三浦選手に見てもらった方が上達が早いと思うのだが、そこは譲れない何かがあるのだろう。

二人の演技が大きくなったせいか、背が伸びたようにも感じたのだが、

三浦:「背は伸びてないです。むしろ縮みました。前は145cm、それが最近計ったら144cmになってました」

おそらく計測上の問題だろうと思うのだが、背が縮んだという三浦選手。市橋選手は、

市橋:「今は175cm。伸びてないです」

ただ、彼の場合は本当に背が伸びたように見える。パワーがついてがっちりしたことで、大きく見えるようになったのかもしれない。

市橋:「だといいんですけど。パワーは多少はつきました」

パワーがついたことをパートナーは実感しているのか聞いてみたのだが、

三浦:「ずっと持ち上げられているので、あんまり分からないです」

リフトが安定してきたことは三浦選手も感じているようだが「たまにぐらぐらします」とオチをつけるのも忘れない。市橋選手、なかなかパートナーから手放しでは褒めてもらえないようだ。

二人の演技でもうひとつ気になるのはジャンプ構成だ。二人ともシングル時代には難しいジャンプを跳んでいたので、もっと難度を上げられそうに感じるのだが、

市橋:「二人とも得意な技が違うんです。三浦さんはループが得意なんですけど、僕は苦手で、僕はルッツが得意なんですが、三浦さんは苦手、という最悪な組み合わせなんです」

ただカップル競技は、男性が女性に合わせる世界だ。なので市橋君がループを頑張るべき、と話すと、「はい、頑張ります」。それを嬉しそうに笑顔で聞く三浦選手。とても良い雰囲気の二人だ。この取材の場に限らず、いつも二人の周りは笑顔が絶えない。取材陣も、関係者も、皆、笑顔で二人を囲んでいる。愛されキャラの二人なのだ。

■ 全日本ジュニア、惨憺たる演技から学んだもの

全日本ジュニア、ショートプログラムは無難に乗り切ったものの、フリースケーティングは惨憺たる演技となってしまった。ツイストリフトの着氷で三浦選手が躓いてしまい、平常心を失った状態でほとんどのエレメンツをミスしてしまったのだ。

三浦:「ツイストでこけてしまって、早く立たなきゃ、と思ったけれど立てなくて、そのミスを引きずってしまいました。立て直そうと思ったんですけど、思うようにできませんでした」

市橋:「ジュニアグランプリ、西日本選手権で見つかった課題を練習してきて、調子はとても良かったんです。ツイストのミスを引きずってしまったことが悔しい。僕がしっかりキャッチしておけばあんなことにはならなかった」

三浦:「もうちょっと体幹がしっかりしていれば、あんなことにはならなかった。今までこういう経験はありませんでした」

市橋:「本当は自分が、ああいう場面で焦りをなくせるようなサポートできれば良かったんですが、まだまだ実力不足。自分を落ち着かせるのに精一杯でした。今までで最悪の試合だったんですが、これを練習に生かしたい。次はノーミスの演技をしたい」

今回、ひとつのミスからユニゾンが完全に崩れてしまったことが残念だった。

市橋:「まだまだペア選手としてレベルが足りないことを実感しました。ミスをしてもそれを忘れて次のエレメンツに集中できるようになりたい」

三浦:「今までは、エレメンツを抜いて練習することが多かった。練習からすべてのエレメンツを通して、失敗しても最後までやり切るようにしたいです」

今年の夏休みには長期間、カナダのモントリオールで練習した。そこでは技の練習だけでなく、パートナーとの信頼感、お互いをリスペクトする気持ちの大切さをコーチから教わったという。全日本ジュニアでは不本意な結果となってしまったが、それでも全日本選手権への推薦出場を勝ち取ることができた。期待の大きさの表れだ。学んできたことを胸に、大舞台での戦いに挑む。

■ いよいよ全日本選手権!優勝の可能性も十分にある

そして迎える全日本選手権。当初、須藤・オデ組の優勝の可能性が高く、他のペアは2番手争いだと目されていた。もっとも須藤・オデ組は国籍の問題からオリンピックへの出場資格がなく、2位の選手がオリンピック代表になるはずだったのだが、大会前日に須藤・オデ組の欠場が発表された。21日午前、試合直前の公式練習を取材した。優勝候補は須崎・木原組。木原龍一の左手首には相変わらず分厚いサポーターが巻かれていた。本調子とは言えないのだろうが、ツイストリフトではトリプルの練習をしていた。認定されるかどうか、ギリギリの回転だったが、曲かけでも果敢に挑戦していた。三浦・市橋組のツイストリフトはダブルで臨むようだ。この2組の優勝争いとなると思われる。高橋・柴田組にも期待したいのだが、曲かけ途中で柴田選手が練習を切り上げてしまい、そのまま戻ってこなかったことが気がかりだ。オリンピックで団体戦に加え、ペアとしての出場枠も得たことで、俄然、重要な戦いとなった。シングルとはまた違った魅力にあふれたペア競技。是非注目していただきたい。(東海ウォーカー・中村康一(Image Works))