<記者コラム:オトゴト>
 絶対音感という能力は、誰にでも備わっている訳ではなく、生まれつきの才能であるか、あるいは訓練によって養われた特殊な能力だ。それは、楽器から発せられた音以外でも、音自体を音階で完全に判別できるという。

 MusicVoiceがおこなったアンケートによると、この「絶対音感を持つ」という人は1割にも満たなかった。そして、「絶対音感が欲しい」と思う人は54%に及んだ。音に対しての“絶対的感覚”は確かに憧れてしまう。音を瞬時に「ドレミ」などで判別できる能力があったら、音楽的なシーンにおいては圧倒的に有利だろう。

 何度か絶対音感を持つという人物と接する機会があり、色々と質問をしてみたことがある。「声や自然な音までドレミとかで聴こえたらうっとおしいのでは?」との問いに対しては、「耳や頭をそのモードにしておかなければ大丈夫」という、何とも天才じみた返答を受けたことは印象的だった。

 絶対音感を持たない筆者は、天才に対するちょっとした嫉妬心からとある「実験」をしたことがある。それはまず、普通に鍵盤を叩いて「何の音?」と問うのだ。すると、単音で「A」の音を鳴らせば「ラ=A」と答えるし、「F♯」を鳴らせば「F♯(あるいはG♭)」と即答する。まるで、色を見せて「これ何色?」「赤です」と答えるかのようであった。

 何だか悔しいので、同時に4つの和音を鳴らそうものなら、「ド・ミ・ソ・シ」と、Cメジャーセブンスの和音を言い当てる。頭にきたのでシンセサイザーの設定をイジり、チューニングを一般的な(A=440Hz)から(A=445Hz)に変更して、同じことを試したら「ズルしないで下さい」と小細工を看破される――。絶対音感とは、言葉通り絶対的な感覚であることを思い知らされた。

 そこで「ピッチ(音程)が甘い歌なんかは聴いていて気持ち悪い?」と聞くと、「そんなことはなく、歌い手によります」と言う。逆に、ジャストのピッチを常にとり続けると、あまり心に響かないことがけっこうあると言うのだ。そして、楽器のチューニングにおいては逆に正確ではないと気持ちが悪いという。そして、アンサンブルにおいては千差万別と。

 「揺らぎがあるからこそ音楽が心地良く響くというのは、絶対音感の有無とは関係なく、万人共通に平等に与えられた才能ではないか」と、音楽の尊さのようなことを諭してくれた「絶対音感」の持ち主もいた。

 「ピッチが正確だから良い歌」「周波数的に的確な値だから良い」という訳ではない「音楽」という分野に対し、さらなる可能性と興味を膨らませてくれたという点で、“絶対音感の持ち主”というのは、音程の判別に加え、“音楽的な天賦の才”を持つ素敵な人間でもあると感じた。【平吉賢治】