民主主義を維持するには、健全なメディアの存在が欠かせない。ところが、インターネットの発展とともに、メディアの存在が変わりつつある。

 旧来型のメディアが存亡の危機に瀕する一方で、新しいネットメディアは未成熟だ。

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医療とメディアの関係

 最近、医療とメディアの関係を考えさせられる機会があった。それは、12月2、3日に東京大学本郷キャンパスで開催された「第12回現場からの医療改革推進協議会シンポジウム」だ。

 このシンポジウムは、2006年の福島県立大野病院産科医師逮捕事件をきっかけに始まった。私と鈴木寛氏が事務局を務める。発起人は以下のリンクの通り(参照=http://plaza.umin.ac.jp/expres/genba/index.html#p3)。

 今年は9つのセッションに49人の演者が登壇した。テーマは臨床研究、新専門医制度、福島など多岐にわたった。

 盛り上がったのは「医療とメディア」だ。

 演者は加藤晴之氏(元講談社)、川口恭氏(ロハスメディカルコミュニケーション)、久坂部羊氏(作家、医師)、黒岩祐治氏(神奈川県知事)、渡辺周氏(ワセダクロニクル)である。

 直前の「臨床研究1」のセッションで、尾崎章彦医師(南相馬市立総合病院)が、一般社団法人JBCRG(代表大野真司・癌研有明病院乳腺センター長)が今年6月に「New England Journal of Medicine」誌に発表した臨床研究「CREATE-X」の不正について言及した。

 この事件の詳細は拙文をお読みいただきたい(「京大医学部教授に巨額で不明瞭な資金」)

 利益相反以外に、最近になって適応外使用薬の健保への不正請求も明らかとなった(参照=http://www.fsight.jp/articles/-/43071)。司会を務める私は「どうして、この問題をマスコミは報じないのか」と尋ねた。

 加藤氏の回答は興味深かった。

メディアの経営基盤弱体化が原因

 加藤氏は『週刊現代』や『フライデー』の編集長を務めた人物で、百田尚樹氏の『海賊と呼ばれた男』や梶山三郎氏の『トヨトミの野望 小説・巨大自動車企業』の編集者も務めた。

 加藤氏は「本来、大手新聞が一面トップで扱う内容だ。今のメディアが報じられないのは、その経営基盤が弱体化しているから」とコメントした。

 「CREATE-X」では中外製薬が販売する抗がん剤カペシタビンを用いる。製薬企業が医師への支払を公開し始めた2012年以降、中外製薬からJBCRGには1億円が渡っている。

 また、特定非営利活動法人「先端医療研究支援機構」には2億円が寄付され、そのうちの幾らかがJBCRGに渡っている。ところが、研究者たちは中外製薬との利益相反に言及しなかった。

 このような背景を知れば、マスコミが報じないのは、広告主である中外製薬に配慮し、自粛していることが分かる。

 当初、この事件を報じたのは『選択』だ。加藤氏は、このことにも言及した。

 『選択』は広告に依存しない独自の経営スタイルを確立している。ジャーナリストの池上彰さんが定期購読し、すべての記事に目を通していることで知られている。

 近年、医療の記事も増えた。『選択』が「CREATE-X」の不正について書けたのは、製薬企業に遠慮する必要がないからだ。

製薬会社との癒着報道に社内から反発

 その後、渡辺氏の発言はさらに興味深かった。彼は朝日新聞特報部在籍中に製薬企業と医師の癒着を調べた。

 2015年4月1日には、「講演会で薬名繰り返す 講師の医師、製薬会社から謝礼」という記事を書き、その中で2013年度に製薬企業から3000万円以上の収入を得た6人の医師の実名を挙げた。

 渡辺氏によれば、当初、朝日新聞は社説や続報も準備していたそうだ。ところが、この調査報道は「キャンペーン」には発展しなかった。

 渡辺氏は、その理由を「社内から反対の声が大きかったから」という。

 「知りすぎない方がいい」と忠告してきた人もいたとか。後日、製薬企業からの広告はもちろん、製薬企業とのタイアップ記事が大きな収入源になっていたことを知ったそうだ。

 さらに、ある製薬企業の社員は渡辺氏に「医師への資金提供と同じように、マスコミへの資金提供を開示したら、凄いことになる」と言ってきたともいう。

 メディアと製薬企業の癒着は我々の想像を超えている。

 権力は必ず腐敗する。健全な社会を維持するには、メディアの存在が不可欠だ。ところが、従来型のメディアは経営が傾き、機能不全に陥っている。

 このセッションに登壇した川口氏、渡辺氏は独自のメディアを立ち上げた。21世紀のメディアの在り方を模索する、彼らのような人物を応援したい。

筆者:上 昌広