「TOギャザー」の外観。2018年2月から販売する量産タイプ(提供:竹中工務店、岡谷鋼機)


 竹中工務店が現場作業を支援するロボットの開発を急ピッチで進めている。第1弾が清掃ロボットの「TO(トゥ)ギャザー」、第2弾が運搬支援ロボットの「クローラーTO(トゥ)」である。

 TOギャザーは、その名が示すように、作業所で発生する綿状のゴミをかき集めるロボットである。ゴミが散らばっている床の四隅にカラーコーンを設置すると、ロボットのレーザースキャナーがカラーコーンのマーカーを確認して清掃領域を判断。ルートを作成して自律的に清掃を始め、人間が処理しやすいように一定方向にゴミをかき集める。

TOギャザー(プロトタイプ)の試験稼働の動画。自律的に清掃し、一定方向にゴミをかき集める。かき集められたゴミは最後に作業者がまとめて廃棄に出す
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 適用領域の一例は、鉄骨の耐火被覆工事である。半湿式タイプの耐火被覆工事では耐火材を鉄骨に吹き付ける。この際に一部の耐火材が綿状になって床上に落下する。その清掃作業には1日の作業時間のうち5分の1から4分の1が使われており、作業の生産性向上、そして労働環境の改善という2つの側面から解決策が望まれていた。

 ゴミを集めるブレードの幅は1メートル。走行速度は秒速10センチで、100平米の広さにあるゴミを30分以内に収集できる。また走行ルートを一定方向にする、バックするときはブレードを上げる、といった工夫でゴミを散らさないようにしている。

 ロボットの企画開発に携わった竹中工務店・西日本機材センター機械化施工推進グループの永田幸平主任は、「昼休みや打ち合わせ中の時間に稼働させておくことで、清掃作業を大幅に効率化できる。従来の清掃時間をより生産的な作業に充てられるのがメリットだ」と語る。

 試作品は既に神戸市内のオフィスビル作業所で稼働実績がある。すでにこの現場からはTOギャザーを回収したが、「もう1回使わせてくれという声が来るほど、現場からは好評だ」(櫻井豊樹・西日本機材センター機械化施工推進グループ長)という。

 プロトタイプでの検証結果を踏まえ、2018年2月から量産品を販売する計画だ。量産品では作業現場のイメージを向上させるよう、デザインに工夫を凝らした。TOギャザーは竹中工務店と岡谷鋼機の共同開発で、岡谷鋼機が外販をする。販売価格は1台200万円の予定。

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資材運搬の負担を大幅に低減

 一方のクローラーTOは、既成の資材運搬用台車の下に潜り込んでジャッキアップし、その台車を運搬する。特徴は「OMNICRAWLER(オムニクローラー)」と言われる移動機構を搭載しており、平面の全方向への移動が可能になっていること。小回りが利くのでエレベーター前などが狭い作業所でも使いやすい。

 クローラーTOは竹中工務店と岡谷鋼機、そしてトピー工業の3社による共同開発で、オムニクローラーはトピー工業が東北大学大学院の研究成果をベースに実用化した技術である。

 運搬可能な重量は500キログラム。走行速度は時速3キロで、人間の歩行速度に近い。乗り越えられる段差は2.5センチで、建設現場などで使用される板の標準的な厚みに準ずる。

 操作はスマートフォンから行う。30分程度の講習で十分に操作できるようになるという。「少子高齢化で人手不足が深刻化する中、高齢者や女性作業者でも揚重・運搬できるようになった。これは現場の仕事に極めて大きなインパクトをもたらす」(永田主任)。

 クローラーTOは2017年12月18日から神戸市内の作業所で実運用が始まった。同時に開発会社の1社である岡谷鋼機からも販売が始まっている。販売価格は200万円。

375キログラムの荷を載せた台車を人手で運んでいる様子。少しでも角度のある坂を登るだけでも一苦労である(提供:竹中工務店、岡谷鋼機、トピー工業)
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同じ375キログラムの荷を載せた台車でも、クローラーTOを使えば運搬が省力化できる。台車の下に入ってからジャッキアップして台車を持ち上げて移動する。操作はスマートフォンから行う。クローラーTOとスマートフォンの間の通信は無線LANを採用している(提供:竹中工務店、岡谷鋼機、トピー工業)
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 今後は技術開発をさらに進め、今年中には資材を置く場所まで自律走行するレベルに引き上げていく意向だ。大規模なビルの建設現場では、朝礼後、作業場所までエレベーターで人が上がるまでに1時間から2時間かかるケースもある。その後に資材をエレベーターで運ぶことになるが、人と資材の移動だけで時間がとられてしまい、生産性を向上するにも限界があった。

 クローラーTOにエレベーターの制御も含めた自律走行技術を導入できれば、例えば夕方以降の作業終了後に自動で資材を運ばせておくという使い方ができる。翌朝作業員が現場に来れば必要な資材が目の前にそろっているので、すぐに取り付け作業が進められる。「こうしたロボット技術が実現できればこれまでにない生産性アップが見込めるので、工期の短縮、ひいては顧客満足度の向上にもつながる」(朝田伸一・西日本機材センター所長)。

右から、建設現場のデジタル化戦略に携わっている森田将史生産本部生産企画部部長(機械電気担当)、現場作業を支援するロボットの導入と事業化を指揮する西日本機材センター所長の朝田伸一氏、ロボットの企画開発に携わる永田幸平氏(西日本機材センター機械化施工推進グループ主任)と櫻井豊樹氏(西日本機材センター機械化施工推進グループ長)、ロボット開発のパートナー企業である岡谷鋼機の下河原渉企画本部経営企画部プロジェクトチームスタッフリーダー


「あらゆる手段」で精度を向上

 これら2つのロボットは、全体構想の端緒にすぎない。竹中工務店はこうした個々の技術を磨きながら、2020年から2025年頃をメドに「現場空間のICT化」を実現する意向だ。

 具体的には、現場におけるモノの動きをデータとして取得し把握できるようにする。資材がいつ、どこに、どのように入ってきたのかを把握するのと同時に、資材が図面通りに取り付けられていることを検証できる仕組みにする。これにより、建設作業全体のプロセスを最適化しようというわけだ。

 建設現場、特に建物の中に入るとGPSが使えないこともあり、どのように実用的な精度で資材の位置や状態を把握できるようにするかが課題である。竹中工務店の森田将史・生産本部生産企画部部長(機械電気担当)は、「(画像処理や無線ICタグなど)あらゆる手段を活用する」と語る。基本はウエアラブル機器や現場に設置したカメラで画像を取得する方法を採用するほか、自律的に動作するロボットで現場の画像を取得する方法も検討中だ。これにAI(人工知能)を適用しながら、より精度を高めていく。

 データは作業員も参照するほか、現場の管理者も利用する。最終的には、現場に行かずともデータで進捗計画ができるようにする状態を目指す。「1人の管理者が2つあるいは3つの現場を同時並行で確認できるようになれば、大幅に効率が増す。人手不足の中、これが実現できれば大きなメリットが生まれる」(森田部長)。

 現場作業の省力化については、まずはTOギャザーやクローラーTOのようなロボットの開発を進め、単純作業をロボットに置き換えることを目指す。一方、人手が必要な複雑な作業については、人とロボットによる協調作業を可能にする方向で進める。先に触れた現場空間のデータはロボットの自律的な動作に役立てるという。

 森田部長は「最初からロボットの活用を前提にした建物の設計にすることも考えられる」というアイデアを示す。施工中にロボットが動きやすい建物の設計にしておけば大きく工期の短縮が見込めるため、ビジネス上で大きな優位点となるだろう。

将来的には建物そのものをロボット化

 将来的には、デジタル技術を建物の企画・設計、施工、引き渡し後のアフターケアまでのプロセス全体に適用する。これにより、「今までにない新しい建築・建設のあり方を実現する」(森田部長)ことを目指すという。

 最終形の1つは、建物そのもののロボット化である。建物の設計段階からにIoT(モノのインターネット)やロボット的な自動機構を組み込む。これにより、設備の制御やセキュリティ管理などで建物が自律的に稼働し、人間の活動を支援するようなイメージだ。

筆者:高下 義弘