エリートとはフランス語のéliteが由来で、「選び抜かれた人」という意味だ。

日本で言われる“エリート”とは、学歴が高く且つ年収の高い男性を指す場合が多い。

東京大学出身、その後大学院を経て世界的IT企業のアメリカ本社への転職が決まっている亮介は、まさに世に言う”エリート”。

ビザ取得のため、日本に一時帰国している半年の間に、亮介は日本での婚活を決意する。

しかし、亮介の婚活はなかなか苦戦を強いられた。

そんな中、元カノの里緒が別れ際に言った言葉の真相が分かり、亮介は再び里緒に惹かれ始める。

亮介は「やり直したい」と決意したが、恵の一言により、里緒が会社を辞めた理由が不倫に因るものだと知る。




ー2週間後の金曜日なら大丈夫です。

里緒にLINEを送った後、数日して返信が来た。

すぐにでも会いたかったが、少し怖い気もして、時間が空くことにホッとする自分がいた。

―どうしようか…。

里緒を信じているし、もし不倫が事実だとしても、今の彼女の考えを知りたい。

―簡単にそんなことをするようには思えないが。

過去のことだと割り切るべきだと思いながらも、香奈の一件以来、女性に対する不信感が拭えなかった。



それから数日が過ぎ、朝のジョギングをしていると、久しぶりに恵に会った。

「おはよう、今朝も寒いね。」

そう声をかけたが、「そうですね…」と答えたきり黙ってしまい、どうも様子が変だ。

「どうしたの?少し元気がなさそうだけど…」

すると恵は亮介の顔を見て、ポロポロと涙を流した。

「どうしたの?大丈夫?」

突然のことで驚いた亮介は、恵を道の端に誘導した。

「ごめんなさい、ちょっと彼氏が浮気をしていたことが分かって…。少し、相談に乗ってもらえませんか?」

同情して承諾したものの、ジョギングウェア姿で話すには外は寒すぎるし、今の時間はどこも空いていない。その上今日は朝からミーティングが入っている。

そこで、今夜、会社が終わってから会うことになった。


恵の相談とは?


恵の相談事


恵との約束の日。

会社を出る直前に返信が必要なメールが届き、結局店に着いたのは約束の時間から20分ほど経っていた。




恵が指定した『BANQUE』 の店内に入ると、ヨーロッパの古城のような雰囲気だった。恵と会うのはいつも朝なので、ゴージャスな空間に少し緊張する。

「いらっしゃいませ、ご予約のお客様でしょうか?」
「はい、8時から2名で予約をしていた、確か…」

そう言えば、恵からは下の名前しか聞いていなかったことを思い出した。

「狭間(はざま)様ですね、お待ちしておりました。ご案内致します。」

予約者リストを見て分かったようで、半個室のソファ席へと案内された。

「遅くなってごめん。」

「いえ、全然。こちらこそ、お忙しいのにありがとうございます。」

にこりと笑う恵だが、目は全く笑っていない。

少したわいない会話をしてから、恵の本題に入った。

「この間、彼氏の部屋に見たことのないピアスが落ちていて。おかしいと思ってこっそり洗面台を調べてみたんです。そしたらヘアピンとか化粧品が出て来て…。」

ひどく憔悴した顔で話す恵を見て、“それだけ好きだったんだろうな”とかわいそうになる。

「最近連絡がつかないことも多くて不思議に思ってたんですけど、まさかそんなことする人だなんて…。もうどうして良いか分からなくて、できれば男性からのアドバイスが欲しかったんです。」

堪えられなかったのか、また涙が溢れ出す。恵は鞄からハンカチを取り出し、涙を拭った。

ーあんなに嬉しそうに彼氏のことを話していたのに…残酷だな。

同情した亮介は、恵の相談に丁寧に答えた。恵は徐々に平常心を取り戻したようで、しばらくすると、顔に笑みが戻った。

「ありがとうございます。私、男友達って呼べる人がいなかったので、亮介さんがいて本当に助かりました。彼とちゃんと話し合ってみます。」

先ほどまでと違って、恵の表情は晴れやかになっていた。“よかった”と胸をなでおろした亮介は、気になっていたことを聞いてみた。

「話は変わるんだけど、前に、僕と一緒に歩いていた女性のことを“気をつけて”って言っていたよね?あれは、どういう意味?」

忘れていたのかキョトンとした顔をした後、「あぁっ」と思い出して、恵は亮介に言葉の意味を語り出した。

「私の友人が昔、例の美人さんが勤めていた会社のビルにあるコーヒーショップで働いていて、彼女がよくコーヒーを買いに来ていたらしいんです。美人で目立つから、男性陣の間で話題になっていたらしく…。

それが、ある時から見かけなくなって不思議に思っていたら、どうやら会社で男性関係の問題を起こして辞めさせられたって。」

亮介もアルバイトをしていたその会社は、4階建ての小さなビルの2フロアを借りており、下にはチェーン店のコーヒーショップが入っていた。亮介もよく通っていたのだが、まさかそんな所で里緒が有名になっていたなんて。

「そうだったんだ、ほんと、世間って狭いね。」

そういう事だったのか、と思いながらも、ふと、里緒のことを嗅ぎ回っていた元バイトの相田君について、疑問に思った。

「その友人って、女性…?」
「はい、古川真奈美って子ですけど。」

苗字が古川で、かつ女性…。相田君とは関係なさそうだ。

結局恵の話だけでは、相田君がなぜ里緒のことを嗅ぎ回っていたのか、という謎は解けなかった。


里緒に直接尋ねる亮介だったが・・・?


里緒の反応


里緒との約束の場所は、『ラ・カーヴ・ド・ノア』にした。ここのフォアグラリゾットを好きだと言っていたし、カウンター席の方が話しやすいと思ったからだ。




「こんばんは。何だか久しぶりだね。」

1ヶ月ぶりに見た里緒の顔は、忙しさに追われていると言うよりは、仕事が楽しくてイキイキとした表情だった。

今日は里緒に直接、噂を確認しようと呼び出した約束の日だ。自分でそう決めたものの、今までにないくらいに緊張する。

「里緒は仕事、少しは落ち着いた?」

「今日が社内プレゼンの日だったから、ひとまず落ち着いたかな。でもまたプロジェクトが始まったら、今以上に忙しくなるかも。そういえば、この間アドバイスもらった…」

里緒はよほど今の仕事が楽しいらしく、進めているプロジェクトにGoが出そうなことや、これまでバラバラだったチームが一丸となって来たことなど、嬉々として話し出した。

「あ、ごめんね、私の話ばっかり。何か話したいことがあったんだよね?」

「あぁ、うん…。」

里緒を見ていると、不倫があったかどうかという事実など、どうでも良い事のように思えて来た。今も昔も、そんなことをする人間とは思えないし、噂にも何か事情があったのではないか?

しかし、一度湧いてしまった疑惑は、いつまでも心にシミのように残ってしまう。亮介は里緒の気持ちを知ろうと、尋ねる事にした。

「里緒がさ、前の会社を辞めたのってどうして?何か事情があった?」

その瞬間、里緒の眉がピクリと動いた。

「それって、どう言う意味?誰かから何か聞いたの?」

ここは正直に言うしかない。

「ある人から、里緒が退職した時の事を聞いたんだ。少し揉めたって…。」

すると、里緒の顔がみるみると強張った。

「そんなこと、いまさら……。そもそも亮介には関係のないことじゃない。」

そう言った彼女は、怒りと悲しみが入り混じった目をしていた。

ー真剣にやり直したいからこそ、少しの疑念も残したくないんだー

亮介が言おうとした瞬間、里緒は鞄を持って席を立った。

「取り乱してごめんね。私今日はもう帰るね、徹夜明けで疲れているし。」

亮介が止めるのも聞かずに、里緒はお札を数枚置いて、その場を去って行った。

ーもしかして、あの噂は本当だったのだろうか…。

去りゆく華奢な後ろ姿を目にしながら、心のどこかで否定して欲しかった亮介は、呆然としていた。

▶NEXT:12月28日 木曜更新予定
亮介が気付いた真相とは…?恵がさらに動き出す。