人気アイドルの自殺で激震が走った韓国芸能界

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 12月18日、韓国の人気男性5人組グループ「SHINee(シャイニー)」のメンバーであるキム・ジョンヒョンさんが、27歳にして突然の死を迎えた。死後、「Dear Cloud」のメンバーNine9(ナイン)さんを通じ、自殺をほのめかす遺書が公開されたが、韓国芸能界ではこれまでにも、俳優やアイドルらが自ら死を選択してしまうケースが少なくない。彼ら/彼女たちはなぜ死を選択せざるを得ないのか――フィフィは、韓国社会全体が抱える問題に目を向ける。

<写真>突然の死を迎えたキム・ジョンヒョン

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 SHINeeの所属するSMエンターテイメント側は、報道を控えるようにとアナウンスしているなか、友人がジョンヒョンさんの遺書を公開しましたよね。自分の死後にあえて投稿して欲しいと遺言にあったそうです。

 自殺の背景にはさまざまな問題があったとは思いますが、私はこの遺書を読んだとき、とくに後半部分から、自分の置かれていた環境に疲れてしまったんだと感じました。

 そして同時に、ジョンヒョンさんが遺書を公開してくれと友人に頼んだのは、自分がそれだけ追い詰められていたのだという想いをみんなに知って欲しかったからなのではないかな、と思いました。

 なぜ人気絶頂のアイドルがここまで悩み、苦しまなければいけない環境にあったのか。それを考えたとき、これは単に韓国の芸能界のみの問題ではないと思ったんです。韓国社会全体、そして日本にも関係している本質的な問題があるなと。

日本で韓流ブームが起こる以前の韓国芸能界

 私は芸能界に入る前の'00年頃、音楽関連の会社に勤めていて、そこで韓国の楽曲の担当をしていたんですね。ちょうどそのとき、'02年の日韓共催のFIFAワールドカップに向けて、エンタメからも日本と韓国で繋がって、ワールドカップを盛り上げようという動きがありました。私がその会社にいた頃は、日本ではまだ韓流ブームも盛んではなくて、むしろ中国や香港の芸能、いわゆる華流の方が勢いがあったんですよ。

 当時、私はSHINeeと同じSMエンターテイメントに所属していた「神話(シンファ)」というグループが好きで。神話は歌がとにかく上手だったんです。

 また、別の事務所ですが、R&B歌手のフィソンさんも歌がうまくて好きでした。そのころ私は訪韓するたび、フィソンさんのアルバムも買っていたんですけど、ジャケット写真にはいっさい彼の顔が載っていないんですね。造形を大事にする韓国では、顔が悪いと売れないからという理由で。

 だけど、3枚目以降のあたりから、急にそのジャケに顔写真が入るようになったんです。そしてその顔は、ご本人も告白しているように整形後のものでした。

 このころからでしょうか。韓国で急激に同じような容姿の芸能人が増え始めたんです。本来、個性を大事にすべき芸能で、なぜ同じような容姿になるように整形したり、お化粧をしたりする風潮があるのでしょうか。

 でも、韓国の芸能人を悩ませる要因はそれだけではありません。それは韓国の兵役制度もあるように思います。

兵役によるプレッシャー

 19日に放送された『スッキリ』(日本テレビ系)に東方神起のふたりが出演しましたよね。兵役を終え、2年ぶりに活動を再開するということで。

 この兵役による2年間のブランクというのは、本人たちにとって相当なプレッシャーのはず。その間に忘れ去られてしまうんじゃないか、新しいグループに自分たちの居場所を奪われてしまうんじゃないかと。

 同時に、新しいグループにとっても、やっと自分たちが売れ出したと思ったころ、人気のある人たちが再び戻ってきたら、自分たちはまたいらなくなってしまうんじゃないかとプレッシャーがかかるとも思うんです。

 さらに事務所にとっても、その2年間のグループの不在をどうやって繋いでいくか、代用となる同じようなグループを作らなければならないというプレッシャーがあると思うんですよね。

 こういった意味で、韓国の兵役制度がもたらす芸能関連者へのプレッシャーは、日本の芸能人たちが感じているプレッシャーよりもシビアなものがあるんじゃないでしょうか。

 また韓国の芸能界は、日本と同じく規模が限られてるのですが、彼ら/彼女たちはマーケットを外に広げることで克服しようとしたんですね。

 そのため、日本に向けたブランディングも積極的に行われるんです。その証拠に女性アイドルたちが踊るセクシーダンスを韓国内で封印し、外国向けのプロモーションビデオのみで公開することもあります。

 また実際、私自身、日本のマンションに何人かで暮らし、日本語を叩き込まれているデビュー前の男性アイドルに会ったことがあります。資金援助をしていたのが日本女性だったこともあって、彼らは“日本用アイドル”として育成されているのだなと感じました。

 だけど韓国では、政治的な観点から、日本に対する複雑な感情が社会全体に漂っているため、売れるためとはいえ、日本の芸能界で活動していると厳しい目で見られてしまう。本人たちにとって、韓国の人たちからのそうした反応は精神的苦痛であるはずです。

 枕営業の法律での取り締まりなど、たしかに韓国芸能界にもメスが入り始め、変わりつつあるとは思います。だけど、こうした特殊な状況下に置かれるなかで、ジョンヒョンさんは最終的に、芸能界という道を選んでしまった自分自身を責めることになったんじゃないかと思うんです。

日本も他人事ではない

 売れるからといって、代用が効くからといって、個性よりも見かけばかりが重視され、同じような価値観をもとにした芸能人が量産されてしまう状況。

 日本もまた他人事ではないですよね。むしろ同調を重んじる日本は、とりわけ陥りやすいと言えるんじゃないでしょうか。ある意味、エンタテイメント業界には、その国の社会で起きていることが反映されやすいですからね。社会の縮図のように思えてしまうのです。

<構成・文/岸沙織>