『エレノア・オリファントは今日も元気です (ハーパーコリンズ・フィクション)』ゲイル ハニーマン ハーパーコリンズ・ ジャパン

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 アラサーの独身女性。仕事はそこそこ、恋愛はなかなかままならない。ある一定以上の年代の人なら、小説・映画ともに大人気となった「ブリジット・ジョーンズの日記」を連想されるのではないだろうか(なんてこと! 「ブリジット・ジョーンズ」は本が出たのが約20年前、映画公開ですら15年以上も前だなんて!)。しかし、そのようなコメディタッチの物語を期待して本書を読み始めた読者は、不意打ちを食らうことになるだろう。随所にユーモアのきらめきはあるものの、本書は徹底的に傷つけられた過去を持つひとりの女性の再生の物語であるからだ。

 本書の主人公・エレノア・オリファントはグラフィック・デザインの会社の経理部で働いている。来る日も来る日も判で押したような生活、食べるものも着る服も変わりばえなし、場の空気が読めないので親しい友だちや同僚はいない。それをことさらに不幸とも感じずに毎日を送っていたエレノアだったが、タダ券が手に入ったからと出かけた慈善ライブでステージに立ったミュージシャンのジョニー・ローモンドに心を奪われる。一念発起、いつかジョニーと出会う日のために身なりを気遣うようになるエレノア。まずは脱毛、続けて新しい服・バッグ・靴・化粧品にお金をかけるように。

 そんなある日、パソコンを直してもらったことで顔見知りになった情報処理部門のレイモンドと退社のタイミングが一緒になる。信号待ちをしていたところ、ひとりの老人が道に倒れ込んで動かなくなった。事の重大さがわからずとんちんかんな発言をするエレノアに対し、レイモンドはてきぱきと指示を出しつつ救急車を呼んだ。病院まで老人に付き添うため救急車に乗り込んだレイモンドを見送った後、帰宅したエレノアのもとに社会福祉士が訪れる。過去に重大な事件に巻き込まれたことが示唆されるシーンだ。かみ合わない面会を終えて社会福祉士が帰った後に、レイモンドから電話が入る。まだ老人は意識が戻っていないけれども荷物を持って病院に来てはどうかと勧められるが、お見舞いの重要性がいまひとつピンとこないエレノア。それでも病院を訪れてみることにする。

 きっかけはミュージシャンへの憧れだったけれども、レイモンドや彼の母親や意識を取り戻した老人・サミーと交流する中で、エレノアに周囲の人々を思いやる気持ちが芽生え始める。しかし、週に一度の母親との会話は彼女の心を萎縮させるものだった。我が子の幸せを素直に願えない、子どもを自分の思うままにコントロールしようとする、子の人格を否定してばかり...といったあたりはいわゆる毒親の特徴かと思うが、エレノアの母親にはすべて当てはまると思われる。

 それでもエレノアはひとつひとつ問題をクリアして、母親の呪縛から逃れようと努力する。子どもの頃にほんとうは何があったのか、明らかになるシーンは衝撃だ。勇気を出した分だけエレノアが幸せになれるよう、読者は願ってやまないだろう。このちょっと(かなり?)変わり者の愛すべき主人公に、登場人物たちと同じく我々も魅了されてしまったのだから。

 本書は、2017年に英国で発売されたデビュー作家の著作の中でNo.1のベストセラーとなった。女優のリース・ウィザースプーンが映画化権を獲得したことでも話題になっているとのこと。

(松井ゆかり)