毎日20日付朝刊。いずれも身元を伏せている

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「朝日新聞は事件報道について実名を原則としている。それは、人が個人として尊重される基礎は使命であるからだ。事件・事故や災害が起きたとき、被害者の安否に関する情報を社会に知らせるという意味もある」

朝日新聞の記者向けマニュアル『事件の取材と報道2012』(朝日新聞出版)には、こううたわれている。朝日に限らず、こうした「実名報道」は新聞をはじめメディアの基本方針だった。

現場は風俗店

一方、上記の書籍でも「しかし......」と後段で触れられているように、被害者への配慮などから、名前が伏せられるケースも増えている。2017年12月17日、埼玉県さいたま市・JR大宮駅前で男女4人が亡くなったビル火災をめぐっては、現場が風俗店だったこともあり、各社の対応が分かれる事態となった。

3人の身元は、火災から2日後の19日判明した。テレビではその日夕方の情報ワイド番組、新聞では20日付朝刊(東京最終版)がその一報を伝えている。

確認できた範囲では、NHK「首都圏ネットワーク」、TBS系「Nスタ」、そして産経新聞が3人の実名を伝えたのに対し、テレビ朝日系「スーパーJチャンネル」、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞では「埼玉県志木市の女性(29)」(毎日)といった形で、名前を伏せて報道した。

一方、ウェブでは20日午後の時点で、実名を報じた記事を公開している社は確認できない。NHKは19日、ウェブ版で「埼玉ビル火災 死亡した3人の身元判明」として3人の実名を掲載したが、該当の記事は20日午後までに閲覧できなくなっている。J-CASTニュースの取材に対しNHK広報局は、

「事件・事故の報道は、真相や背景に迫り、国民の知る権利に答えるため、実名報道を原則としています。一方で、事件や事故の内容によっては、当事者のプライバシーや名誉に配慮して様々な対応をとっています」

と回答する一方、削除の有無や具体的な理由などについては明言しなかった。

座間事件、歌舞伎町火災などでも議論に

犠牲者の実名掲載が議論を呼んだことは、これが初めてではない。

似たケースとしては、2001年に新宿・歌舞伎町で44人が亡くなったビル火災が挙げられる。この際には、火災現場となった店舗を「飲食店」とするか「キャバクラ」と表現するか、そして犠牲者の実名を掲載するか否かで、新聞各紙の判断が分かれ、朝日など実名・顔写真をともに報道したメディアもあれば、読売新聞など途中から匿名に切り替えたものもあり、賛否両論を呼んだ。

また2017年10月、神奈川県座間市で9人の遺体が発見された事件をめぐっては、遺族などから実名報道を控えるよう報道機関に要望があったにもかかわらず、ほとんどの新聞・テレビなどが未成年を含む犠牲者の名前・顔写真を掲載、強い批判が寄せられたことは記憶に新しい。

今回の火災をめぐっても、ツイッターでは「大宮の火事実名でたの?信じられない」「こんなの発表していいんか?プライバシーもなにもあったもんじゃないな。配慮というものがないのか」「指名手配を除く犯罪者を含め、本人か遺族が希望しない限り実名が報道されない自由というのはいつになったら成立するのだろうか」など、実名を報じたメディアに対し、総じて厳しい声が多い。